第72話 現実は甘くない

「当然、次はこれよね」


そう、俺たちが今いるのは射的の前だ。


正直、俺も射的は楽しみにしていた。


FPSをやっている者としてくすぐられる部分があるのだ。


「RIT優勝者として1番上のよく分からないホラゲーカセットは逃せないっすね」


「優葉ってホラゲー好きだったっけ?」


「特に好きって訳でも無いっすね」


「じゃあ、なんで?」


「高そうなの落としたいっていう……プライド?」


「言っとくが、俺は取れてもやらないからな」


そう、俺はホラーが大の苦手だ。


お化け系統は全然大丈夫、だけど脅かしてくる系は本当に無理だ。


なんと言えば良いんだろうか、こう、心臓がキュッとなる。


「多分少し落ちるからこれくらいの高さで………」


「冬樹…いつの間に………」


声の方向を見ると、既に冬樹がコルクガンを握って景品を落とそうと構えていた。


「お菓子食べたいから最初は無難にお菓子狙うわね」


そう言って、1番下の段にある小さいボトルに入ったコーララムネに狙いを定めた。


「ポンッ!」


コルクが弾ける軽快な音が聞こえ、俺のおでこに何かが当たった。


「なんで俺の方に飛んできたの……??」


足元にはコルクが転がっている。


俺は冬樹の真後ろで少し腰をかがめているのだが、何をどうやったら銃口と180°反対にいる俺にコルクが飛んでくるのだろう?


「ごめ〜ん、跳ね返ってきたのが当たっちゃったんだと思う〜」


「そういうことね」


運悪く跳ね返ってきたのがたまたま俺のおでこに当たっただけだったらしい。


結構距離があるのにしっかりと跳ね返ってくるあたり、意外と威力の強いコルクガンなのだろう。


良心的なお店だ。


「でもちゃんとお菓子は落ちた!」


「お〜初弾で落とせたんだ、上手いじゃん」


落ちたボトルを店主が回収して冬樹の近くに置いた。


「じゃあ残りの2発はお菓子狙って、3発で上のホラゲ狙うわ」


そう言って冬樹はまたコルクガンを構えた。


「ポンッ!」


「また……」


「ポンッ!」


「また当たった!跳ね返ってきたの全部俺のおでこに飛んでくるんだけど!?」


今のところ、跳ね返ってきた弾が全て俺のおでこにクリティカルヒットしている。


ここまでくると奇跡だよ、もう。


「きっと私の人を撃ちたい衝動が弾に乗り移ったのよ」


「危ない思考だな、おい」


絶対ゲームの中で留めておかないとダメな考えだった。


残り3発は見事にホラゲのカセットに弾かれて、全て俺のおでこに当たった。


もしかしたら本当に冬樹の思いが弾に乗っているのかもしれない。


「ねぇねぇあーしたち3人で同時に当てれば1発で倒れるんじゃない?」


「確かに、それなら重いのも1発でいけるかもしれないっすね」


冬樹が終わると3人同時に順番が回ってきたので、そんな事を話しながらコルクを込めていた。


「「「せーのっ」」」


そしてホラゲーのカセットを狙ったのだが、当たったもののあまり動かない。


なんで火力が普通に高いコルクガンが3発同時に当たったのにあんまり動かないかって?


理由は簡単、俺が外したからだ。


ゲームでは当てまくれても現実はそうとも限らない様だ。


俺の弾は遥か右へと飛んで行っていた。


「樹くん外した?」


「外しましたよね?」


「うん外した、遥か右へ飛んでいった」


「現実は残酷っすね」


「やめて!煽らないで!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「思ったよりすんなり落ちてくれたっすね!」


「そうね、意外と2発同時でも落ちるものね!」


優葉がカセットを胸で抱きしめながらそう言っている。


「俺はあの銃の銃口が少し曲がっていた説を推してる」


一方俺は言い訳をしていた。


それもそのはず、俺は見事に全ての弾を外していたのだ。


流石に1発は当たるだろうと思っていたが、掠りもしなかった。


なんなら最後の弾が跳ね返って、脳天落ちてきたのでなんだかコルクに煽られた様な気持ちになった。


「多分、現実は甘くないっていう神様のお告げっすよ!」


「お告げの仕方独特すぎだろ!」


コルクの進行方向を変えてお告げしてくる神様がどこにいるんだろうか?


仮にいるのであれば1度お目にかかりたいものだ。


「そういえば、時間的にそろそろ花火だけどどうする?ここから少し離れた所で見る?」


「さんせ〜っす、少し離れた所で見たいっす、人多くて暑いっすよ〜」


「じゃあ、たこ焼きとか色々買い溜めて花火見ながら食べよ!」


「現実は甘くないらしいから、せめて口の中だけは甘くしておくわ」


「まだ引き摺ってるんすか!?」


俺がそういうと、3人がゲラゲラと笑った。

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