第68話 試合開始
「なんかすんなり決勝行けたな」
「そうっすね」
俺たちは決勝戦当日の朝にそんな事を話していた。
準決勝はすんなりと勝ち抜ける事ができ、夜は前夜の寝不足と疲れで夕飯も食べずに爆睡、目を覚ませばこんな時間だ。
「やっ〜〜とdolphin達と公式試合出来るね!!」
「前回同様ボコボコにしてやるっす!!」
「あれはボコボコと言って良いものなのかしら…?」
決勝という事もあり、朝から俺も矢吹達も気合いが入っていた。
なんでここまで気合いが入ってるのかって?
それは、dolphin達に勝ちたいのもそうだが
「100万円が見えてきたっすね!!」
そう、賞金だ。
俺たちはまだ高校生だ。
なので、100万などという高校生では到底手に入れる事の出来ない大金が、あと少しで手が届きそうな距離まで来ているとなると大興奮だ。
「ブランド物のバック買いたいっす!!」
まだ勝ってないのに100万円の使い道を夢見心地で語っている。
もちろん俺も、dolphin達に負けるつもりはないので100万を手に入れるつもりだ。
だが、完全に3人の頭の中は金でいっぱいになっている。
昨日までのdolphinに勝つという熱意はどこへ行ってしまったのだろうか?
まったく、現金な奴らだ。
「あ、そろそろ時間ね、樹君女装させて行こう!」
「そうっすね」
「2度目の公開処刑」
「処刑なんかじゃないっすよ!女装樹君からしか得られない養分があるんっす!こっち来てください!」
「最悪な養分を摂取するな」
そして俺は昨日同様、3人目線で可愛い女装をさせられたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「色んな意味で暑いな」
1つは気温。
もう1つは会場の熱気だ。
前に見た言ったが、RITは海外でも日本でも流行ってるゲームだ。
それの最大規模の大会決勝戦。
昨日とは比べ物にならないくらいの人数が集まっている。
なので会場の熱気がえげつない。
熱気が凄すぎてクーラーがなんの意味も成していないがする。
「なんか現実じゃないみたい」
「そうね、今まで画面越しで見てきた所に今から私たちが混じるんだもんね、夢みたいだわ」
矢吹と冬樹がそう会話している。
俺もいざ会場見たら、まるで夢の様な感覚に包まれた。
今からここで俺の公開処刑が行われるのかという小さな絶望と、前日の比じゃない人数の観客に見守られて試合をするという現実にアドレナリンが出るのを感じた。
「てか、俺なんて紹介されるんだろ」
昨日も紹介はあったのだが、俺は聞きたくなかったので耳を塞いで何も聞かなかった。
あと、インタビューからも恥ずかし過ぎて逃げてきた。
「恥ずかしがってた方が変だから堂々としてれば良いんじゃないかしら?」
「急にまともな事言うやん」
冬樹が心を落ち着かせようと集中するあまり、悟りを開いてしまった。
「樹君達、楽しみにしてるよ」
「おわぁ!」
横からそっとdolphinがそう俺に告げて、選手控え室に行ってしまった。
dolphinも完全に集中モードだ。
「じゃああーし達も選手控え室行こう」
「そうだな」
俺たちは昂ってた気持ちを抑えて、選手控え室に向かった。
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「メンツ濃」
「確かに……濃いわね……」
紫色の髪をした人や、ピアス開け過ぎて文字通りの顔面凶器になってる人、ゴリゴリタトゥーが入ってる人がいた。
ここだけ見れば、まるでブレキン◯ダウンようだ。
殴り合ってても違和感ないやつがチラホラ……いや、結構居る。
「選手の皆さんは入場口付近にお集まりください、繰り返します………」
そうアナウンスが入り、俺たちは控え室を出て入場口へと向かった。
「「「「ふ〜〜〜」」」」
そんなこんなで俺たちの順番が回ってきてしまった。
先に入場した人たちを見ると、観客に手を振ったりしている。
すると、それを見た矢吹がとんでもない提案をして来た。
「私たち投げキッスしない?」
「俺はどうすんねん」
「樹君は喋らなきゃ女の子だから大丈夫、私たちに合わせて投げキッスして」
「え〜………」
無理矢理押し切られた。
「次のチームはbeautiful girls!!」
横から煙が出て、俺たちは会場に足を踏み入れた。
そして3人に合わせて俺も渋々投げキッスをしたのだが、俺は3人の方を見てなんとも言えない気持ちになった。
3人が謎に投げキッスをやりなれてる事に少しムッとしたのだ。
緊張し過ぎて気持ちの整理が全くつかないが、自分が少しムッとしたのだけは分かった。
「ひえぇ〜緊張した〜」
「なあ、3人ともなんで……いや、やっぱ何でもない」
3人がゲーミングチェアに座って気持ちを落ち着かせたタイミングで何故かそんな事を聞いてしまった。
(何で俺はあんな些細な事でムッとしているのだろう?)
自分でもよく分からず自問自答し始めそうになったが、それは直ぐに観客の歓声によって吹き飛ばされた。
「Hello〜〜」
そう、dolphin達が入場して来たのだ。
明らかに他とは違う歓声が起こっている。
それだけdolphin達がRITの大会に名を馳せて来たと言う事などだろうが、これだけの歓声が上がると圧倒されてしまう。
「dolphinさんたち、やっぱ凄いっすね」
「そうね……」
そんな事を呟きながら、dolphin達に圧倒されている間に全ての選手が会場に入った。
「3人とも、こっからは気持ち切り替えてくぞ」
「了解っす」
「分かった」
「りょ」
試合が始まった。
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