第54話 大会前日

「休日って何時間寝ても眠いな」


俺はベッドに寝そべりながら呟いた。


どうしてこうも休日は眠くなるんだろうか。


朝の2時に寝たとは言えど、午後3時までは寝すぎだろう。


「流石に起きるか」


まだベッドで寝させろと叫ぶ身体を叱咤してリビングに足を運んだ。


「…………っすよ」


「…………あそこは…………だし大丈夫よ」


「………それも………よね」


リビングに入ると矢吹やよ3人が何かを話し合っていた。


だが、小声で話している為何を言っているのかハッキリとは分からない。


「おはよ」


俺がそう言うと、優葉が顔を上げた。


「おはようっす」


「あ、矢吹ちゃん?明日が大会だっけ?」


「うん、明日」


矢吹の言葉で俺はハッとした。


明日は大会だった。


大会のために、このルームシェアと言う名の同棲を始めたと言っても過言ではない。


なので、酷い結果を残すことは許されないが、俺たちは課題が終わってからは1日6時間近くRITに費やしてきた。


なので、前より連携やAIMも良くなってるからから、ある程度上位までは残れるだろう。


「前に恨みを買ったプロ選手が同じトーナメントに入って来なければ3日目までは勝ち残れそうよね」


そうだった……この前キモ戦法をした事が原因でプロ選手から恨み買ってたんだった……


いざ、大会が迫るとプロ選手に喧嘩を売ったという事の重大さに気づいてきた。


「ねぇ、ミー達かなりまずいと思わない?」


すると、不意に矢吹がそう言った。


「なんで?」


「もう4時になろうとしてるにも関わらず、明日寝泊まりする為の物をな〜んにも買ってない事」


「あっ」


そう言われ、俺はハッとした。


確かにまずい。


服と買い色々買うから時間かかるはずなのにもう夕方だ。


「というわけなので早く着替えてきて!」


「はい」


俺は急いで寝室に着替えに行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いや、3人とも悩み過ぎじゃね?」


着替えて家を出てショッピングモールに向かい、今は矢吹達の化粧品やら何やらを選んでいるのだが、ビックリするくらい悩んでいる。


3人横並びになって化粧品とにらめっこしている状態だ。


水着の時みたいに俺に選ばせれば一瞬で決まるのにと思ったが、身につける物と日常的に使うものはまた別だなと思い直して3人が化粧品とにらめっこしているのを眺めていた。


「化粧品の事よく知ってるわけじゃ無いけど何をそんな悩んでるんだ?」


既に矢吹の手には、3人共用と思わしき少し大きめの化粧水瓶があるのだが、他に何か必要な物があるのだろうか?


俺は少し気になったので、3人の方へ足を運んでみた。


「樹君?これどうっすか?」


近付くと俺が言葉を発するより先に、優葉が話しかけてきた。


「ごめん、俺化粧水の良し悪し分からない」


「直感で」


ラベルもアロエぽい葉っぱの写真で、良さげな感じはする。


「良いと思う」


「じゃあこれにするっす」


「えぇ…??」


そのまま3人は大きめの化粧水瓶と、俺の選んだ小瓶を持ってレジに行ってしまった。


結局何がしたかったのだろうか?


「はい、これは樹君のっす」


「え?」


3人が会計を終えて戻ってくると優葉が唐突に、先程俺が選んだ化粧水の瓶とさっきは持って無かったトリートメントを渡してきた。


「何で俺に?」


「普段のお礼っす」


普段のお礼……?


毎日料理作って貰ったりその他諸々の家事して貰ってるから俺がお礼する立場では…?


「いつも樹君が気づいてないだけで、色々助けて貰ってるんっすよ」


優葉がそう言うと、矢吹も冬樹も「そうだそうだ」と言わんばかりに頭を振っている。


「あと、樹君はイケメンなんだしお肌とかスキンケアにも気を使って欲しいのよ?」


「お、おう………」


今まで色々恥ずかしい場面に遭遇したが、面と向かってイケメンと言われるのが1番恥ずかしいかもしれない。


最近、恋愛対象というより仲の良い女友達みたいな感覚になり始めていた3人に言われると尚更だ。


「はい!じゃあこれは樹君の!」


「ありがたく使わせて貰うよ、ありがとう」


そう返して俺はコンディショナーと化粧水を受け取った。


「1つ質問があるんだけどさ、いつも俺に何を助けて貰ってるの?言いづらかったら答えなくて良いけど」


言いづらいことを無理矢理言わせるのも俺としては不本意だ。


「樹君にもいずれ分かる様になって欲しいっすけど、心から好きだと思える人といると自然と心も満たされるんっすよね」


そして矢吹と冬樹を見ると、さっきまでの楽しげだった表情とは打って変わって真剣な表情になっていた。


「よしっ、次は下着ね!樹君、着いてきてちょうだい!!」


「えぇ…?」


突然冬樹が笑顔になった。


俺は3人切り替えの速さについていけず、冬樹に手を掴まれ、瞬く間に女性用下着売り場へと連れて行かれたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「やめろ、これ以上俺が下着を物色していると見てとられると周りからの視線に心が耐えきれない……っ!」


「大丈夫っすよ、樹君に名誉も誇りもなーんにも無いっすから!」


「ねぇ!なんか前より火力増してない!?」


そして数分後にはいつも通り、軽口を叩いていた。



後書き


もしかしたら少しだけ3人の心情に変化が起こりはじめてるかもしれませんねぇ〜……


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