第53話 大会前
「なにをさっきからチラチラ見てきてるんだ?」
俺が勉強に集中していると、横から視線を感じた。
そして視線の方向を向くと矢吹と目があったのだ。
「な、なんでもないよ」
「それなら良いけど、矢吹今何の教科やってんの?」
俺はようやく地獄の英文地帯を抜けて、地獄の計算地帯へと突入していた。
一方、矢吹は何かカラーの付いたノートの穴埋めをしている。
「保健」
「もう技能教科か、早いな」
さっきまで主要5教科のワーク類が置いてあったのに、今はそれらが仕舞われて美術の画用紙などが広げられている。
「樹君、これ実技したら内申点上がったりしないかしら?」
「どれ?」
矢吹が開いているページを見ると、「性感染症への対策」という見出しが書いてあった。
「上がるわけがない、内申点駄々下がりだよ、なんなら俺ら対策しなかったじゃん」
「ならもう1回すれば」
「いつから矢吹はそんな変態になっちゃったの!?」
矢吹の爆弾発言が止まらない。
勉強に疲れて頭がオーバーヒートしているのだろうか?
さっきから正気の沙汰ではない事を言ってくる。
「あと美術のデッサン、裸体の美を描きたいから樹君、脱げ」
「命令形!?本当に何があったの!?冬樹が乗り移っちゃった!?」
「私が乗り移っちゃったってなによ!!私は全然変態なんかじゃなーー」
「「「いや、冬樹(雪花)ちゃんは変態だよ」」」
「酷い!」
俺の冬樹に対する発言に異議を申し立てた途端、3人から集中放火を喰らった冬樹だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「解放された後のRITは最っっっ高だな!!」
あの後、他の事には一切目もくれずに勉強だけをし続けた俺たちは、どう頑張っても推定2週間はかかりそうな物を1週間程で終わらせるという奇跡を起こしパソコンに向き合っていた。
「本当最高っすね!あ、これチーム倒せば10連勝っすよ!!」
「俺たちの連勝記録更新したな!」
俺たちの気分だけではなく、ゲームの調子も絶好調だった。
そして今、10連勝し俺たちの今までの連勝記録が更新された。
「今私たち順位トップじゃないかしら?」
「あ、マジだ!!」
このゲームには10段階のランク区分があり、下は省略するが上から、レジェンド、マスター、エキスパート……となっている。
そして、俺たちは基本的にレジェンドに居る。
レジェンドになると順位が出てくるのだが名前の上に現在1位と表記されているので、今は俺たちが世界1位のチームだ。
「波に乗ってこのまま1位突っ走るぞー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんか、この敵強すぎじゃない?」
「誰も倒せないわね……」
俺達が順位上げの為、高台の上でイモって周りの様子を見ていると明らかに格が違うチームが居た。
次から次へと敵が来るにも関わらず、ヘイトを逸らしたり回復したりでずーっと生き残り続けている。
だが、攻撃するときは一気に相手を全滅させる。
「取り敢えず2位になるまで待つか……」
「そうっすね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっぱあのチームが残るよな………」
銃声が収まり、壊されまくった建造物の上に居るのは相変わらずあのクソ強チームだった。
「正直、対面してあそこに勝てる自信ないわ」
「じゃあキモい戦法で勝つ?」
「そうっすね」
このゲームには爆発物があるのだが、俺たちのいう「キモい戦法」というのはそれを大量に投げて生存出来る場所を無くした後に上から銃で撃つ、というやられたら誰でもブチギレるであろう戦法だった。
このゲームは元々ある建造物以外で攻撃を防ぐことが出来ない為、不回避最強の戦法だ。
「よし、これくらいでいっか、せーのっ」
そして4人でポイポイッと爆発物を大量に投げた。
そのあとは、上から銃で相手を蜂の巣にして試合集中だ。
「ふ〜、これで11連勝ね」
「みんな、これ相手プロ選手じゃないですか!?」
俺はそう言われて、キルログを見た。
するとそこには、Dolphin-youtebeという名前があった。
このDolphinという人は有名なプロ選手だ。
彼は配信者としても活動していて、今も配信している。
そしてこの人も、俺たちと同じ大会に参加するいわばライバル的存在だ。
「この人の配信見てみる、なんか言ってるかもしれないから!!」
そう言って速攻で矢吹がスマホを取り出し、彼の配信に入った。
「These guys are too creepy! what? Are these guys in a tournament? I'll definitely kill you!!」
配信に入ると突然そんな声が聞こえてきた。
俺たちは誰1人として英語が出来ない為、何を言っているのかは分からない。
「こういう時に役立つ翻訳マイク」
俺たちは配信を少し戻して、先ほどの音声を翻訳マイクに読み込ませた。
「翻訳結果、です」
「なんて言われてるんっすかね!!」
キモい戦法だったというのは自覚しているが、そこまでの動きはかなり良かったので褒められているのでは無いか?と内心ワクワクしながら俺たちは音声を聞いた。
「音声を再生します、こいつらは不気味すぎる!何!?この人たちはトーナメントに参加していますか?必ず殺してやる」
「不気味……キモいって事だよな……」
「なんならぶっ殺すとも言われてるっすね……」
「「「「こわっ…………」」」」
世の中知らない方が気楽にいられる事もあるのだな、と心の底から思った瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます