第51話 夏休み気分を破壊すな

「よし、完全復ッ活ッ!!」


1日後、俺の体調は完全に治っていた。


身体の重だるさもない、頭痛も無い。


「おはよ〜」


「あ、おはよ、体調大丈夫?」


「大丈夫」


俺がリビングに行くと、矢吹がコーヒーを飲みながらスマホを弄っていた。


しかし、冬樹と優葉が居ない。


ベッドにも居なかったし、キーボードをカチカチと叩く音も聞こえないからリビングにいると思ったのだが、どこにいるのだろうか?


「2人はどこいるの?」


「ゲーム部屋いる」


「ゲームやってる音聞こえなかったけど」


「2人共、ゲームやるためにゲーム部屋行った訳じゃ無いからね」


やけに今日は矢吹の目が澄んでいる気がする。


体調が良くなったからだろうか?


「じゃあ、なんで?」


「部屋行って、2人の様子と現実見て来たら?」


「おお、分かった」


現実を見てくる……?


どう言う事なんだろうか?


「優葉〜冬樹〜」


「ああ、樹君っすか」


「2人は何してるの?」


俺はそう聞きながら、2人の机覗き込んだ。


すると、そこにはどこかで見た計算式が沢山並んでいるワークが置いてあった。


「樹君ってどれくらい宿題出てるんっすか?」


宿題…………


思い出したく無い事を思い出してしまった。


まだ夏休みは序盤だ。


だが、俺は夏休み中勉強を真面目にやっても終わらないんじゃないか?というレベルの量の宿題が出ていたと記憶している。


部活に入ってるクラスメイトが、「おわんねぇよ!!こんな量!」と嘆いていた記憶もある。


「………いっぱい」


「うっぱい」


「えっぱい」


「おっぱい、しょうもない誘導すんな!!」


冬樹に誘導されて、思いっきり下ネタを言ってしまった。


「で、樹君は終わりそう?」


冬樹が大量のプリントを前に跪いている。


「ちょっと待って、確認する」


俺はGo◯gle classroomを開き、夏休み中の課題がまとめられた表を探した。


あの記憶が間違いだと信じたかった。


しかし、現実は非情だった。


「終わる未来見えない……」


全教科まとめてワーク10冊、プリント30枚前後、実習系の課題が3つ。


終わるのが絶望的な量の課題がそこにあった。


そして俺は画面をスライドさせ、スマホゲームの画面を開いた。


「ふぅ」


「何が、ふぅ、なんすか?」


「夏休み気分を、破壊しないでくれ」


俺はすぐに現実逃避に走った。


「はい、これが樹君の課題ね」


すると、冬樹が俺のバッグの中から大量の宿題を取り出してきて、俺の前に置いた。


「………………現実逃避は許されないか」


山積みの課題を前にして俺はそう呟いた。


夏休みが始まって、今まで午前10時まで寝て、午後4時まで出掛けて遊び、午後6時までご飯作ったりお風呂入る。


そしてご飯あとは、眠くなるまで4人でRIT。


楽園のような生活を送っていた。


その代償に、1mmも課題が進んでいない。


多分夏休みに入ってシャーペンすらも握っていない。


「2人はどれくらい進んでる?」


「「全く進んでないわ(っす)」」


これは愚問だったかもしれない。


聞かなくても、2人が机に向かって項垂れてる様子を見ればすぐ分かる事だ。


「矢吹は?終わってるの?」


「最初の方は居たわよ、でもちょっとしてから眉間押さえてリビングに戻っちゃったわ」


「やけに矢吹の目が澄んでいたのはそれが原因か……」


矢吹もかなりの量の課題が出されているのだろう。


「樹君も現実を見てしまったんだね……」


「おぅ、矢吹……?どうした?」


すんごい悲壮感を漂わせながら矢吹が部屋に入って来た。


「4人で課題やらずに登校しよ」


「それはダメだろ」


「未提出、みんなでやれば怖くない」


「怒られる時は学校も学年もバラバラだから1人なんだよ」


4人で怒られるならまだ良いが、学校も学年もバラバラだから結局1人だ。


「じゃあ、最初に家庭科の課題やっちゃいましょう?実習とは言え課題やれば他のも進める気が湧くかもしれないし」


「あの昼飯作って写真送るやつっすか?」


「やっぱ家庭科の宿題って全国共通、昼飯なんだな」


「4人別々の作るのも面倒だし、私が作ったのを写真撮れば良いわよね」


確かに冬樹は毎日ご飯作ってるし、毎日が実習みたいなもんか……


確かに4人で別々の料理作るのも面倒だし……


「じゃあ頼む」


そして実習課題と言っても良いのか分からない実習課題が始まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お店のやつじゃん」


「写真に収めるなら美味しそうなのが良いと思ってね」


冬樹がそう言って持って来たのは、オンスタとかでよく見るスフレパンケーキだった。


これくらい上手なら、先生から何か言われることも無いだろう。


「オンスタ用と学校用に写真撮ってから食べるのよ」


「女子だぁ……」


ここでオンスタが出てくる辺り、1軍女子という感じが半端ない。


「樹君はオンスタ用の写真撮らないんっすか?」


俺が学校用の写真を撮り、スフレパンケーキを食べようとすると優葉がそう聞いてきた。


「俺オンスタやってない」


「じゃあこれを機に入れちゃいましょ」


そして俺は言われるがままに、オンスタをダウンロードし、スフレパンケーキの写真撮った。


これが家庭科のノートに貼られているのを想像すると、違和感しか感じないが問題は無いだろう。


「早く食べないとパンケーキ萎んじゃうから早く食べましょう?」


「「「じゃあ、いただきま〜す!!」」」


こうして、美味しいスフレパンケーキを食べただけの実習課題が終わった。


後書き


スフレパンケーキってほんと、めっちゃ作るの難しいんですよね。


筆者も、真昼間っからスフレパンケーキを作るのに熱中していたがためにこんな時間の投稿になってしまいました。


すいません。

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