第50話 余計に熱上がるわ

「あ、お疲れ様っす、大丈夫でしたか?」


ゲーミングチェアに座った優葉が首だけ後ろに向けてそう話しかけてきた。


あの後、俺は死にそうになりながら歩いて家へと帰った。


五月、五月母と遭遇した事で、かなり精神をすり減らされたためゾンビの様な顔をしていたから心配してくれたのだろう。


「大丈夫……かな?」


「なんで疑問形なんすか?」


五月があの事を口外したら、大丈夫じゃない。


だが、五月は言っちゃまずい事と良い事の区別はしっかり付けていそうなので、大丈夫だと思う事にした。


「そうだ、はい、これ」


俺はツル◯ドラッグで受け取ってきたアフターピルを優葉に渡した。


「ありがとうっす!」


そう言うと、優葉はゲームを中断して、台所に3人分の水を取りに行った。


「ところでさ、俺死にそうなのに、優葉たち回復早くない………?」


「ミーたちもちょっと前に起きたんだけどね、熱測ってみたら平熱近くまで下がってた」


すると優葉と同様、ゲーミングチェアに腰掛けた矢吹と冬樹が此方を向いてきた。


「俺、余裕で38度くらいあると思うぞ」


その証拠に身体がめっちゃ熱い。


あと顔が真っ赤なままだ。


「早く飲んじゃいましょっ!」


優葉がコップをおぼんに乗せて持ってきた。


そしてそのおぼんの隅っこには多分ピルだと思われる錠剤が置かれている。


「「「かんぱーい」」」


そう言って3人がピルを飲んだ。


「……………」


かんぱーいと言ってジュースとかを飲むなら分かるがピル飲むって。


普通1人でしか飲まないはずのものだから、なんか凄く変な気分になる。


「取り敢えずは安心ね」


「この数ヶ月後、3人ともお腹膨らみ始めちゃったら笑えるわね」


「全然笑えないよ!!!」


体調が良くなった事で3人とも軽口を叩く余裕まで出来ている様だ。


俺の体調は相変わらずあまり良くないが。


「じゃあ、俺は寝るわ………」


「おやすみ」


「ああ」


身体が「休ませてくれぇ〜」と訴え始めたので、俺は3人にそう言って寝室へ向かった。


「…………いや、寝れんて」


ベッドに寝転がって早々、そう呟いた。


それもそのはず、昨日は殆ど丸1日寝た事で眠気は一切無いし、身体が1度完全に起きてしまったから寝ようにも寝れないのだ。


でも、身体は疲れているのでベッドから動けない。


俺が風邪を引いた時に1番嫌いな時間だ。


動けない、けど、寝れない。


「樹君〜」


「お〜どうした冬樹……っ!?なんちゅう格好してんの!?」


凄くのんびりとした声が聞こえた後、ドアが開き冬樹が姿を現したのだがその格好が問題だった。


「ウサギに目覚めちゃった」


「ウサギに目覚めちゃったってなんだよ」


そう、冬樹はバニーガールの姿で現れたのだ。


リンゴ病でなのか単なる羞恥からくるものかは分からないが、頬が赤く、恥ずかしげな印象を抱かせるので蠱惑的だ。


でも、急な出来事で蠱惑的な姿に興奮するどころか、ポカーンと口を開けることしか出来なかった。


「何故にバニーガールに?」


「樹君の童貞を奪っちゃったお詫び」


「なんも学んで無いやん」


その行為が原因で俺たちはめっちゃ焦ってたのに、何故また同じ事態を引き起こしそうな事をするのだろうか?


「あと、かなり際どい状態だからどうにかしてくれ」


股間に少し布が食い込んでいて、かなりまずい格好になっている。


「今更じゃ無いかしら?」


「あれは俺の意識が無かったからノーカンだ」


もうやる事はやってしまっているので今更と言われればそうなのだが、あの時俺は意識が無かった。


つまり、ハーレム4Pをしたとは言ってもその時どんな風にヤッたのかとかも知らないし、3人の全裸を見ていないため殆ど童貞と同じ様なもんだ。


「身体は大人、心は童貞、その名も名探偵樹!と言うわけね」


「頼むからあの名作アニメの名言を穢さないでくれ」


最悪な名言が今ここに誕生した。


身体は大人、心は童貞ってなんだよ。


「じゃあさ、心も童貞卒業しちゃえば?」


「今はアカンだろ」


冬樹が言おうとしてることは、バニーガールの格好で部屋に入ってきた時から大体察しが付いている。


意識がちゃんとしていてお互いの合意の上でヤリたいということだろう。


だが、妊娠疑惑かかってる今、そんな事をやろうものなら妊娠疑惑じゃなくて妊娠確定に変わって人生終了だ。


「ボテ腹キメセッー」


「やめろやめろ」


今までも充分、冬樹の発言は過激だったが、さらに過激になっている気がするのは気のせいだろうか?


男子が言う様な軽い感じの下ネタならまだ大丈夫だが、さっきは完全にアウトな発言をしようとしていた。


「というかそんな格好してると熱ぶり返すぞ、元気とはいえまだ菌は残ってるから」


「むぅ、ガードが固い」


冬樹が不満げな表情でそう言った。


「同級生の男子たちは少し胸持ち上げて上目遣いすれば、堕ちて言う事聞いてくれるのに」


「とんでもねえ悪女じゃねえか」


「冗談よ、あんな人たちには上目遣いもしないし、胸を強調したりもしないわよ」


表ではめっちゃ丁寧な対応してるのに、陰であんな人呼ばわりされてる先輩たちが少し可哀想に思えてきた。


「樹君、早く寝たい?」


「?そりゃもちろん寝たいさ」


「じゃあ樹君の精力を私が吸い取るから樹君は全裸でベッドに寝転がってればいいわ、そうすれば、段々と疲れて意識が遠退いてくるはずだから」


「サキュバスじゃないか」


「じゃあ、全裸になって」


「マジでやろうとしてんの!?血流良くなって余計に熱上がるわ!!」


冬樹が俺のベッドに足を上げたのと同時に、俺は近くにあった毛布で身体を包み込んだ。


「なんで俺は菌以外とも戦わなきゃならないんだ………」


俺は毛布に包まりながらそう呟いた。


後書き


まさか10万pv行くとは。


正直、思ってもいませんでした。


書き始めた当初は良くて1万pvかなと予想していたのですが……


ほんっとうに読者の皆さんには感謝しかありません。

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