第49話 なんでこういう時に限って……!!

「お久しぶりです、真澄さん」


清水真澄さんは五月の母親だ。


五月の家に言った際に何度か顔を合わせた事がある程度なのだが、俺の名前を覚えていたのか。


俺の母親と真澄さんは仲が良かったので、もしかしたらそれ関連で覚えていたのかもしれないな。


「ほんっと、見ない間に大きくなっちゃったわね〜」


最後に会ったのが、大体1年半前なので大きくなったと感じるのも当然だろう。


「いやいや、真澄さんも変わらないですね〜」


「久城君はお世辞が上手ね」


「全然お世辞じゃ無いんですけどね」


俺が初めて五月の家に行った時(3年前くらい)と容姿が全くと言って良いほど変化していない。


それどころか、若くなってる気もする。


美魔女とはこの事を言うのだろう。


「樹はどうしてここに?」


それはまずい質問だ。


五月の母親の前で「アフターピル貰いに来ました」なんて口が裂けても言えない。


速攻で俺の母親に連絡が行きそうだし、多分真澄さんに揶揄われる。


「久城君も大人の階段登っちゃったのね〜」


などと言われそうだが、残念な事に幾つか階段をすっ飛ばしている。


それにこの場には五月もいるのだ。


夏休み明け、地獄の揶揄いラッシュが来るに違いない。


「そういえば久城君、女の子と同棲始めたんだって?」


「え?」


なんで真澄さんがそれを知ってんだよ!!!


「この前春風さんから連絡があってね」


なんで母さんはすぐ人に話しちゃうかな?


1歩間違って、クラスメイトに話が広がったら俺の学校生活終了するんだけど。


「孫の顔を見るのはいつ頃になるのかしら〜って楽しみにしてたわよ」


良くこんな小っ恥ずかしい事を、真澄さんに向かって言えたな。


それになんで真澄さんもちょっと俺に期待する様な目を向けてるの??


俺まだ学生だよ?


そして今まさに、その孫の顔が見えそうで結構焦ってるんだよ?


「真澄さんはどうしてここにいるんですか?」


「五月が足を痛めちゃったらしくて、湿布買いに来たの」


「それで樹は何買いに来たの?」


「風邪薬買いにきた」


「じゃあなんで財布持ってきて無いんだ?」


「…………」


五月の言う通り俺はバッグなどを持ってきておらず、手にあるのはファイルに挟まった3人の個人情報の紙だけだ。


だが言えない、アフターピルを貰いに来ましたなんて絶対に言えない。


かと言って、嘘をつける状況じゃない。


いや!でも五月は察しがいいから勘づいて引いてくれるかーー


「どうした?そんなに言えないことなの?」


なんでこういう時に限って、めっちゃ踏み込んで来るんだよ!!


「あれ、なんで樹が冬樹先輩の保険書持ってるの?」


「え?」


俺はそう言われて、急いでファイルを見た。


すると、ファイルの外から見える部分に冬樹の写真が貼ってある保険書が挟まれていたのだ!!


「冬樹の薬を俺が貰いに来た」


五月も処方箋などを持ってくれば、こういうドラッグストアで薬の受け取りが出来るのを知ってるはずだから、これで誤魔化せるはず!


「冬樹先輩風邪とか引いてるの?」


「そそ、今絶賛リンゴ病発症中。で、俺も罹ってるから今こんなに距離置いてる」


人にうつしてしまったら大問題なので、さっきからずっと真澄さんと五月とは距離を置いて話してる。


「樹は体調大丈夫なの?」


「今は楽だよ」


正直に言うと頭がガンガンしているのだが、気を遣わせてしまいそうなので虚勢を張っておいた。


「樹も体調が良いわけじゃ無さそうだし、ここら辺で」


「おお、じゃあな」


ふぅ〜、上手く誤魔化せた。


これで安心してピル受け取れる。


そして俺は専門薬剤師さんのいるカウンターに足を進めた。


「えーと、薬の受け取り人になっている久城樹という者なんですけど……」


「あ、ああ、久城さんですね、お待ちしておりました」


この人、一瞬だけ凄い訝しげな目を俺に向けてきたな。


でも、3人分のアフターピルを受け取ろうとしてるんだからそれも仕方ないか。


この人からすれば「何やったんだコイツ……」って思うだろうし。


「保険証の提示をお願いします」


「はい〜」


俺はそう言われたのでファイルの中から3人の保険証を取り出し、薬が来るのを待った。


「おお、樹、また会ったな」


「そりゃ同じ店の中に入ればな」


そして最悪なタイミングで薬剤師さんがやってきた。


「久城さん、こちらが受け渡し予定のアフターピルです」


「え?アフターピル?」


「…………………」


「久城さん、説明をするのでもう少しこちらに来て下さい」


「はい」


俺は現実から目を背けるかの様に、薬剤師さんの方に近づき説明を聞いた。


どうやら、副作用があるらしい。


吐き気がしたり、他にもーー


「で、樹、アフターピルってどういう事だ?」


「五月………」


何故、俺は隠し事をしようとすると不運が重なったり、アクシデントが起きて隠し通す事がが出来ないのだろうか?


「え、まさかヤッたの?誰と?」


「すまねぇ五月、俺はもう童貞じゃあ無くなっちまったみたいだ」


「おい、マジでヤッたのかよ、しかもアフターピル貰ってるって事はナマでか?」


「……………」


なんで今日はこんなに深々と俺の事情に踏み込んで来るんだ?


普段だったら何かを察して、何も言わないのに。


これもまた不運という事なのだろうか?


「じゃあな、五月」


「あ!おい、ちょ、説明しろって!!」


俺は早歩きでドラッグストアから去った。


後書き


作者とは完全に無縁の事ですけど、ピル買うのって保険証とか必要なんですね。


法律とか世界の設定は割と忠実に再現したいので調べてみたら、ピル買うのにいっぱい決まりがあってめっちゃ書き直す事になった😭

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