第46話 リンゴ病 後編 

「…………ちょっとだけ腹減った………」


あの後すぐにリンゴ病だと診断されてタクシーを呼び、家に帰った訳なのだが俺は少しお腹が減っていた。


体調が悪いにも関わらず何故か食欲だけは普段通り。


そして俺は料理が1ミリも出来ない。


外食には他の人に菌をばら撒いてしまうので当然行けない。


頼みの綱の冬樹、矢吹、優葉は熱でダウン。


今頃爆睡していることだろう。


「おかゆくらいなら俺でも作れるかも……」


そう思い、重だるい身体を引きずってキッチンへと向かった。


4人ともリンゴ病に罹っているので、菌をうつさないように気を付ける必要がないのが不幸中の幸いだろう。


「ご飯はどこだ?」


キッチンについてまずそう言った。


悲しい事に俺はここに引っ越してから、キッチンに入った事がほぼ0だ。


1度アイスを取りに入ろうと思ったのだが


「樹くんは待ってて、私が取りに行ってくるから」


と冬樹に言われてしまい、俺は入る機会を完全に失った。


まあ、冬樹が居ない時とかにいくらでも入れるのだが、俺もキッチンがそこまで気になるわけではないので意識の外へと追い出されていたのだ。


なので、どこに何があるのかさっぱり分からない。


「樹くん……どうしたんっすか?」


俺が棚をゴソゴソと漁っているとキッチンの入り口近くから優葉の声が聞こえた。


俺のドアを開ける音と足音で起きてしまったのだろうか?


だとしたら、凄く申し訳ない事をしてしまった。


「どうしたの?」


「私もお腹がちょっと減っちゃったっす」


俺と同じ理由で起きてきたようだ。


そうだ!優葉ならキッチンに何度も入った事があるのでご飯の場所を知っているかもしれない!


「優葉、ご飯の場所知ってる?」


「ご飯なら冷蔵庫に凍って入ってるっすよ」


「なんで凍らしてるの?」


「余った分を捨てないで保存してるだけっすよ、凍ったのを電子レンジで解凍すれば食べられるっす」


「へぇ…………」


今、これからは優葉たちの事を手伝おうと強く思った。


あまりにも無知過ぎて自分が恥ずかしくなってきたからだ。


「何作るんっすか?」


「おかゆを作ろうかな、と」


「手伝うっすよ」


「いや、大丈夫。優葉は寝てていいよ」


普段優葉たちが頑張ってくれているので、こういう時こそ俺が頑張る時だろう。


「樹くんが変な事して火事とか起きたら大変なので手伝いつつ見守っておきます」


「………よろしく頼む」


中学生の頃に鯛焼きの解凍時間を間違えて加熱し過ぎてしまい、電子レンジからモクモクと白い煙が上がり、鯛焼きを炭化させた事があるのを優葉の言葉でふっ…と思い出したので素直に手伝ってもらう事にした。


途中で矢吹と冬樹にもお粥を食べたいか聞き、食べたいとの事だったので4人分のお粥を作る事になった。


「あとは味付けすれば完成っすね」


2人(8割優葉)でお粥を作り、残すは味付けだけとなった。


「ん?なんだこの瓶?」


「何っすかね……?これ?」


棚から塩とオリーブオイルを取り出すと、その奥に小さな小瓶が置いてあるのが目に入った。


「元気になる調味料……………いやこわっ」


小瓶を手に取ると、中には謎の液体が入っておりラベルには手書きで「元気になる調味料」とだけ記されていた。


元々のラベルはどこにも無く、何の物なのか全く分からない。


「塩とオリーブオイルだけじゃ味気ないっすし、これ入れてみないっすか?」


確かに塩だけじゃ味気ないっちゃ味気ない。


4人の誰かが毒物を持っていたりm脱法ドラッグをやっているはずがないのでこの液体も何かの調味料なんだろう。


「あ、もしかしてこれオイスターソースじゃないっすか?」


「色的にそうかもしれないな」


液体は濃い黒色をしている。


鼻が詰まっているので匂いは分からないが優葉が言うのだからオイスターソースなのだろう。


なんで「元気になる調味料!」というラベルを付けたのかは分からないが。


「じゃあちょっとだけ入れるか……」


あんまり入れ過ぎると味が濃過ぎて大変な事になると言われたので俺は1人分のお椀に小さじ1杯くらいのオイスターソースを入れた。


お粥の汁が少しだけ茶色に染まって、美味しそうだ。


「部屋戻って食べるか」


「そうっすね」


そして俺と優葉は部屋に戻り、4人でお粥を食べてお皿をキッチンに戻し眠りに着いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あっっつ………」


俺は異様な身体の暑さに気付いて目を覚ました。


時計を見ると、まだ寝て10分程度しか経っていないのが分かった。


「なんでこんな暑いんだ……?」


単純に熱が高くて身体が暑いのかと思ったが、どうも股間が暑い。


暑いというか血液がめっちゃ集まってる感じがする。


つまりめっちゃムラムラしていた。


「あっついっす……」


「あつ…」


「暑いわね………」


すると優葉たちも暑いと言って身を起こした。


そしてあろう事か3人ともそのまま上着を脱ぎ下着姿になってしまった。


「本当に鼻血出る………」


「仕方ないじゃない、暑いんだもの」


今更な気もするが、異性がいる状態で下着姿はないだろう。


特に矢吹。


今まで1度も見せて来なかった下着姿を大公開している。


「あと、ちょっとムラムラするわ」


「ミーも」


「私も」


「え………?」


どうやら3人とも熱で頭のネジが緩くなってるらしい。


頭で考えた事がそのまま口に出ているようだ。


「樹くんは?」


「ムラムラするな、あっ……」


俺も頭のネジが緩くなっていたらしい、見事に口が滑った。


「じゃあ決まりっすね」


「何が?」


すると、3人がヨタヨタとした足取りで俺の方へと歩いて来た。



後書き


テストから解放されると清々しいですね!


ちなみに鯛焼き炭化くだりあったじゃないですか、あれ実話です。

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