第37話 打ち上げ4 大暴投

「ふんっ」


俺は真正面に飛んできたテニスボールを思い切り打った。


しかし俺はかなり疲れが溜まっている。


なので、遠心力を使って飛ばしたのだが変なところへ行ってしまった。


(これ、ライン出るな)


結構な力で打ったので、ラインを出てしまいアウトになるだろう。


俺はボールから目を離した。


「やんっ!」


俺の後ろで冬樹がテニスコートで聞くことのないであろう喘ぎ声を上げた。


その喘ぎ声の釣られて冬樹の方を見る。


するとだ、冬樹の大きな双山の間にテニスボールが挟まっているのが目に入った。


多分、俺の打ったボールが冬樹の胸の間にすっぽりと嵌ったのだろう。


「樹君、危ないからコントロールつけずに威力重視で打つのはやめてね」


「はい」


矢吹から注意を受けた。


こればっかりは俺が悪かったのでコクコクと縦に首を振った。


「胸が大きくて助かった〜」


すると冬樹が胸の間からボールを取ってコロコロと手で弄んでいる。


確かに胸が大きくて助かったのだが、この場に貧乳がいる事を考慮した上で言って欲しかったものだ。


横で優葉が悲しそうな目をして自分の胸を見ている。


「良いから続けましょう?」


「そうだな」


これ以上試合を停止しても、優葉が悲しい目で自分の胸を見続けるだけなので俺たちは早々に試合を再開した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「惜しかったっすね〜!樹君!」


「あぁ………惜しかった…な」


俺が冬樹の胸に目を取らた後、交互交互に点を取り続けていたのだが、惜しくも負けてしまった。


だが、いろんな意味で楽しかったので良いだろう。


いろんな、の意味はご自由に考えてくれ。


「2人とも初めてテニスやる割には上手だったね」


「そうか(かしら)?」


矢吹は服が汗で背中に張り付くほどに汗をかいていた。


汗の滴が首をツーッと伝っている。


「ふう」


矢吹が腕で汗を拭ったのだが、その汗を拭う動作が、エロいったらありゃしない。


運動したあとということもあって、顔が赤いのでものすごく扇情的だ。


なんでだろう、人は疲れていると普段どうも思わないことでも敏感になってしまうのだろうか?


さっきから俺の目は矢吹の方を向いたり、冬樹の方を向いたり大忙しだ。


「なにさっきからキョロキョロしてるの?」


「なんでもない」


俺の目があまりにもキョロキョロ動いていたので、それを不審に思ったのだろうか?矢吹が聞いてきた。


俺はなにを見てたか答えられるはずもないので、適当に流して誤魔化した。


そして時間を確認するために、ポケットからスマホを取り出した。


「あ、やばい、あんまりゆっくりしてるとダーツ出来なくなるぞ」


「え?そんなに時間経ってるっすか?」


スマホ画面には6時05分と表示されていた。


このあと外食することも考えると、早くダーツに行かないとダーツが出来なくなってしまう。


学校が終わった後行ってるからというのもあるだろうが、やっぱり楽しい時間が過ぎるのは早い。


もっと長居したいけど、帰るのも合わせれば10時を回ってしまう可能性がある。


また反省文を書かされるのはごめんなので、ここは早くダーツをやりたいところだ。


「じゃあダーツ行くか、俺ラケット返してきちゃうよ」


「ありがと」


俺は3人の手からラケットを取り受付に返した。


「んで、ダーツのルールってなに?」


「取り敢えず真ん中に矢を突き立てれば良いんっすよ」


「真ん中に近ければ近い程得点高いから、真ん中狙えば良いのよ」


「2人の言う通り」


俺はダーツを1度もやったことがないのだが、3人はやったことがあるようだ。


和気藹々と話していると、ようやくダーツ場が見えてきた。


そして空いている的の前に行き、横に置かれている説明書に少し目を通してから矢吹がダーツバレル(ダーツの矢の事)を手に取った。


「じゃあ試しに1投してみる」


矢吹が腕を上げて構えた。


なんか上手そうな雰囲気が漂っている。


そしてそのまま矢吹がダーツバレルを投げた。


「は!?」


矢吹の投げたダーツバレルは、俺の足元にキンッと音を立てて転がった。


あと数センチズレていたら俺の足の指にブッ刺さっていただろう。


「あ、ごめん」


「どうやったらあの体制からこっち飛んでくるんだよ!?」


俺は矢吹の左斜め後ろにいるので、矢吹はダーツバレルをほぼ真後ろに投げたと言うことになる。


大暴投だ。


意外と矢吹はダーツが下手くそなのかもしれない。


「じゃあ次私よ!」


今度は冬樹がダーツバレルを持って、矢吹の立っていたところに立った。


「後ろには投げるなよ?」


「流石にあんな暴投はしません!」


冬樹が自信満々にそう答える。


普段の冬樹の様子を見ているとこの反応に不安しか感じないが、今日の冬樹は割とまともそうなのでそこまで不安は感じなかった。


「ふんっ!」


冬樹がダーツバレルを投げたのだが、どう考えてもダーツバレルを投げる時の声じゃない声を出した。


確実に力んでいる。


つまり、あまりコントロールが効いていなくて勢いだけあるダーツバレルを放ったのだろう。


どこに飛んでいくか分からない恐怖で俺は反射的に目を閉じてしまった。


「あれ?どこいったのかしら?」


冬樹の呟きに、俺は恐る恐る目を開けるとどこにもダーツバレルがなかった。


横を見ても、的を見てもどこにもない。


「どっかいっちゃったね……」


「最後に探せば良いんじゃない?」


「じゃあ次俺投げるわ」


矢吹、冬樹が2連続で大暴投をしているのでここで流れを変えたい。


このままだと優葉まで暴投する恐れがある。


「イタッ!」


俺の頭頂部に強烈な刺痛が走った。


そして足元にダーツバレルが転がっている。


「………上だったか」


俺は頭頂部を押さえながら天井を見た。


よく見ると小さな穴が空いている。


さっき冬樹が投げたダーツバレルだろう。


「どうやったらあんなとこ飛ぶんだ!?」


ダーツ場に俺の悲鳴が響いた。

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