第35話 打ち上げ2 あ……どうも……

「ふ〜あっぶねぇ……負けるところだった」


俺は椅子に座り、コーラを飲みながら呟いた。


あのあと2巡目から8巡目まで女子3人にリードされていたのだが、9巡目と10巡目で俺がどっちもストライクを取るという奇跡を起こして、ギリギリで巻き返すことが出来た。


「まさか最後3回連続でストライクを取るとはね〜」


「冬樹も上手かったけどな」


冬樹はあのあと、ストライクを2回出した。


俺みたいにまぐれじゃなくて、狙って回転をかけたりしてストライクを取っていたので冬樹はかなりの実力者なのだろう。


優葉も両手投げにも関わらず、割とピンをたくさん倒していたので負けそうになった。


「いや〜、勝ちたかった〜」


矢吹がそう言った。


3人の中で矢吹が1番俺のスコアに近かった。


差はたったの2だ。


ボールが軽いおかげなのか終始高速のボールを放ち続けて、スペアやらストライクを出しまくっていた。


最後矢吹が投げるのを失敗していなかったら、今頃俺は床に跪いていただろう。


「じゃあ次何やるっすか?」


「少し休憩してから決めよう」


日頃から運動不足である俺は、ボーリングワンゲームでバテていた。


それに対して、矢吹、優葉、冬樹はピンピンしている。


楽しいのは分かるが、どこからあの元気が出てくるのか俺には分からない。


「樹君バテるの早くないっすか?」


「俺は優葉たちほど若くない」


「何言ってるんっすか」


そんな軽口を叩きつつ俺は身体を休ませた。


「テニス、サッカー、バスケ、ダーツ、この4つだったらどれが良いっすか?」


要望通り、少し休憩したあと俺たち4人は次の行き先を考えていた。


そして優葉の持ってきた館内マップを見て、ボーリング場から近目のものを幾つか選んだところだ。


「うーん、サッカーとかバスケって結構身体能力の差が出ちゃうのよね〜」


冬樹が考えながら呟いた。


冬樹の言う通りサッカーやバスケは、体格の問題で俺が有利になってしまう。


どうせやるなら、パワーよりテクニックが必要になるやつをやりたい。


そっちの方が面白そうだし。


「テニスやったあとダーツとか良さそうね」


「それが良いわね」


俺たちは立ち上がって、ボーリング専用靴などを返してボーリング場をあとにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「私人生初テニスよ」


テニス場まで歩いていると、冬樹がそう言った。


「大丈夫、俺も人生初テニスだから」


実は俺もこれが人生初テニスだ。


俺の中学校は体育の授業過程にテニスが無いので、テニス部にも所属していない限りやる機会は殆ど無い。


「そうなのね、ミーは中学でテニス部だったわよ」


ボーリングの時から運動神経の良さが垣間見えていたが、矢吹は中学時代テニスをやっていたのか。


だから、ボーリング玉をあのスピードで投げれたのか。


「私も中学の時テニス部だったっすよ?」


優葉もテニス部だったらしい。


完全に偏見なのだが、テニス部というよりは陸上部というイメージが俺の中であったので意外だ。


「知ってるわよ」


「え、なんで知ってるんっすか?」


もしかして優葉と矢吹は過去に会ったことがあるのだろうか?


優葉が俺の幼馴染だと発覚する事件もあったので、俺が知らないだけで2人は会ったことがあるのかしれない。


「総体の関東大会決勝で試合した記憶があるけど」


「ん…………?あ!!あれ雫ちゃんだったんっすか!?」


優葉が何かを思い出したかのような顔をして驚いた。


「そうよ、あれ私」


「そうなんっすね……すごい良い試合だったっすよね」


「そうね、私も楽しかったわ」


「雫ちゃん……」


「優葉ちゃん……」


奇跡の再会で、スポーツマン2人の間に友情が芽生えた。


それにしても、県の決勝戦で試合したのか………


ということは、2人ともテニスめっちゃ強くないか?


やる前から決めるのは早いけど、県トップクラスの実力を持つ女子に勝てる気がしないのだが……


「どっちが勝ったの?」


感動的な場面に冬樹が割り込んできた。


勝敗は俺も気になるが空気を読みなさい、冬樹。


「僅差で私が勝ったんっすよ」


「すごい接戦だったから周りも盛り上がってたわよね」


プレイしてる本人がそう感じるということは相当盛り上がっていたのだろう。


俺は中学時代ボクシングをやっていたので、試合中に常に観客が大声を上げていた。


が、試合中はボクシングに夢中になっているのでそこまで気にならなかった。


「それが私が有名になっちゃった理由なんっすけどね」


ここまで名前が知れた有名人になってしまったのは総体が原因だったのか……


でも言われてみればそうだ。


こんな美少女2人が県の決勝戦で接戦を繰り広げていたら観客の記憶によく残るだろう。


男子の頭には尚更よく残りそうだ。


「テニス場ここっすね」


各々が思い出に浸っているとテニス場に着いた。


「流石ラウンドワンだよな、広い」


ざっと見るだけで、5面ほどのテニスコートが目に入った。


これだけコートがあるならどこかしら空いているので待つ必要は無さそうだ。


「じゃあラケット借りてくる……」


俺は3人にそう言ってラケットを借りに行こうとした足を動かしたところで止まった。


「パコン、パコン」


俺の目線の先には、一定のリズムでラケットを振る1人の男子高校生がいる。


その男子高校生の容姿がどうも見覚えのあるのだ。


朝の時間、俺の睡眠を邪魔してくるアイツに……


「あ、樹!!」


そいつが振り向いてきて俺の名前を呼んだ。


正面からそいつと向き合う形になった。


どっからどう見ても五月だ。


あの睡眠を邪魔してくる五月だ。


「あ………どうも………」


俺は知らない人のふりをしてラケットを借りに行こうとしたのだが……


「どうしてここにいるんだ!?」


呼び止められた。


後書き


最近、寒いですよね。急に年末って感じがしてきました。

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