第30話 校則は破ってはいけません5
「やっと夏って感じがしてきたっすね」
「そうだな〜、あちっ」
俺と優葉はそんな事を話しながら手持ち花火を楽しんでいた。
今まで、特別夏っぽい事をしてこなかったので今が夏だという感覚があまり無かったが、花火を始めると急に夏を実感した。
冬樹に色仕掛けされたり、ロケット花火でいじめられたりして気付かなかったが、ひっきりなしに蝉も鳴いている。
「樹君」
「ん?ん!?ロケット花火をこっちに向けないで!?」
矢吹が笑いながら、俺に火のついたロケット花火を向けて来た。
さっき、公衆トイレの中で見た光景が思い出されるのでやめてほしい。
「冗談」
矢吹が手を上に向けて、ロケット花火を放った。
雲1つない、真っ黒な空に小さな光と「パァン」と音が響く。
「残り5本まとめて打ち上げたら大爆発して面白そうね」
「音凄そうだな、やってみるか!」
俺たちは余ったロケット花火を手に取り、導線をまとめて蝋燭に近づけた。
導線に火がつき、ジリジリとロケット花火に近づいていく。
「シューーーーーー」
ロケット花火本体に火が付いたらしく、音が鳴り始めた。
「さあ、どれくらいの音がなるのか」
「パァンパァンパァン…………」
爆竹を爆発させたみたいな破裂音が鳴った。
「意外と小さいわね」
「思ってもそれを言ってはいけないよ」
「あははは〜」
その後も俺たちは、色々な手持ち花火を楽しみ残ったのは線香花火だった。
「締めはやっぱり線香花火っすよね」
「誰が1番長く落とさずにいられるか勝負しましょう!」
「やるなら何か罰ゲームが欲しい」
「じゃあ負けた人はジュースみんなに奢りと、1位の人の言う事を聞くで良いっすか?」
どうして矢吹は1位の人に何かあげるじゃなくて、ビリの人に何か罰を課するのだろうか?
そして何故、2人はそれに便乗して酷い罰ゲームを課すのだろうか?
「それで良いわよ」
「樹君も良いっすよね?じゃあみんなで一斉に線香花火に火つけるっすよ」
俺は線香花火を手に取り、4人で一斉に火をつけた。
「樹君」
「なんだ、冬樹」
冬樹に呼ばれた。
まだ、玉が大きいわけでもなく落ちる不安は殆ど無いため俺は冬樹の方を見た。
「やぁん、樹君のエッチ!」
「…………」
冬樹が空いてる方の手を器用に使い胸元が見えるように服を引っ張っていたので、俺は黙って自分の線香花火に向き直った。
のだが、先の玉がプルプルと震えている。
心の動揺が出まくりだ。
「あ、火花………」
30秒ほど経ち、ようやく玉から火花が飛び始めた。
「ふーっ、ふーっ」
「妨害しないで!」
横で優葉が冬樹にちょっかいを出していた。
こんな事をやっていたら、玉が落っこちてしまうだろうに。
でも、2人で潰しあってくれるならありがたい。
「愚かな………ぁ………シュッ」
そして正面を見た瞬間、俺が手が震えてしまい4人の中で1番最初に玉を落としてしまった。
「あ!樹君落とし…………ぁ…………シュッ」
冬樹が俺を煽ろうと顔を上げると冬樹もまた、笑顔が凍り付き手が震え玉を落とした。
なんで2人とも手が震えたかって?
それはだな………
「冬樹雪花と、1年の久城樹、だな?」
正面に生徒指導の鬼頭(きとう)先生が立っていたからだ。
毎日夜を徘徊している、あの噂は本当だったのか。
しかも、1度も会った事ないのに俺の顔と名前を覚えているとか怖すぎだろ。
「残りの2人は………他校生か」
鬼頭先生が矢吹と優葉の事を見てそう呟いたあと、俺と冬樹の事をギロッと睨んできた。
「これはどういうことか説明出来るかな?」
「「……………すぅ」」
俺と冬樹が少し後退りし、その距離を埋めるように鬼頭先生が歩いてくる。
その様子を矢吹と優葉が可哀想なものを見る目で眺めている。
「コトッ」
冬樹のポケットから何か、箱状のようなものが落っこちて音を立てた。
暗くてよく見えないが、おそらく正体はあの時のコンドールだろう。
あの時のままポケットに入れっぱなししたらしい。
「それは何かな?」
「……マ、マッチ箱………」
冬樹が震えた声で嘘をついた。
そして鬼頭先生がずんずんとその箱に近付いて、箱を拾い上げた。
「ほぅ、これがマッチ箱かね?」
持ち上げた事によって明かりがあたり、0.02mmという文字が浮かび上がる。
言い逃れなど出来るはずがない。
逃げようとも考えたが、結局来週学校に行くので嫌でも会うことになるだろう。
「おおよその事情は承知した」
俺と冬樹、矢吹と優葉を交互に見てそう言った。
確実に誤解を生んだだろう。
「今すぐ学校に来い、と言いたいのだが他校の友人もいるなら、来週生徒指導室に来い」
「「は、はい、分かりました………」」
血も涙もない冷徹な先生だと聞いていたが、温情はあるらしい。
このまま学校に来いとは言われなかった。
「じゃあ、これ以上遅くなるなよ」
「「は、はいぃぃぃぃ!」」
それだけ言うと、鬼頭先生は少し小走りでどこかへ行ってしまった。
「まぁどっちにしろこれで切り上げる予定だったし、帰ろ」
「そうっすね!」
「「帰ろう」」
俺たちの初めての夜遊びは先生に見つかった恐怖心で幕を閉じた。
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