第25話 許し?からの暴走

「なんでその呼び名を?」


いっくん。


これはあの幼馴染の俺の呼び名だった。


「いっくん!これちょうだい!」


「ヤダ!」


「エイッ!」


「うわぁぁぁぁん!」


と言った流れで、いつもオモチャとかを強奪されていた記憶がある。


なんで小さい頃の記憶が殆どない俺がこの流れを覚えているかって?


俺はあの頃からボッチだったので、幼馴染以外と話さなかったからだ。


なのに、どうして優葉がこの呼び名を知っているんだろうか?


なんとなくそう呼んだだけだろうか?それとも……


「それは………」


呟きに釣られ、優葉を見ると(やってしまった……)という顔をしている。


まさか本当に優葉があの幼馴染だった?


いや、そんなはずない。


雰囲気といい、何からなにまで違いすぎる。


でも仮に、優葉があの幼馴染だったら出会ってばかりの俺にあんな事をする理由がつく。


名前を覚えていたらすぐに分かったのだが……


もう少なくとも3年以上、顔も合わせていないので殆ど記憶から消え去っているから確かめようがない。


「優葉はあの幼馴染なの?」


「バレちゃいましたか」


優葉が少し肩を竦めてそう言った。


あの幼馴染と言っただけでその反応をするという事は本当にいつも俺の事を虐めてきたあの子が優葉なのか……


意外と早く認めたな。


「なんで俺が気づくまで待ったの?」


俺が気付かなかったのも酷い話だがどうして優葉は、俺に自分が幼馴染だと明かさなかったのだろうか?


「ごめんなさいっす」


突然優葉が頭を下げて謝ってきた。


なんで謝るのだろうか?


謝るとしたら今まで気付かなかった俺だろうに。


すると少しだけ優葉が顔を上げた。


そして見えたその目には俺に対する怯えやら申し訳なさが滲んでいる。


余計に分からなくなった。


「なんで謝るの?」


「樹君に私が小さい頃何をしたか覚えてないんっすか?」


「多少虐められたくらいしか………」


「!!」


優葉がさっきより怯えた目になった。


なんでそんなに怯えるのだろうか?


ここまで怯えられるとこっちも悲しくなってくるのだが………


「………樹君は私に虐められてたの怒ってないんっすか?」


少しの空白の後、優葉がそう聞いてきた。


「泣かされた記憶くらいならあるけど、別に怒ってないよ?」


これと言って心身に大きな損害を負っているわけでもないので、怒るほどのことでもなかっただろう。


「本当っすか?」


再度確認してくる。


「逆になんで嘘をつく必要があるの?」


そういうと少しだけ優葉の表情が和らいだ。


「なんで優葉はそんなにあの時の事を気にしてたの?」


殴られたりしていたならまだしも、物を取られたりファーストキスを奪われた程度だ。


この程度で俺が起こるはずがない。


なのにどうしてこんなに心配しているのだろうか?


「私、虐める以外にも樹君に結構酷い事してたっすよ?」


(俺も覚えてるけど別に大丈夫だよ)と言おうと思った。


「なにしたの?」


しかしここまで不安がる事は、俺が覚えていないだけで他にも何か俺にしているのではないかと思ったので、敢えて何をしたのか聞いてみる。


「覚えてないんっすか?」


「キスされた事くらいしか………」


「それだけなら別にいいっす」


「他にも俺に言えないこと何かしたの?」


“それだけなら”が怪し過ぎる。


「なにもしてないっすよ?」


目が泳いでいる。


「絶対何かしてるだろ」


「………興味本意で樹君のチン◯ンを握って泣かせた事っすよ」


「ん!?」


泣かされた記憶はあるが、どうやら俺は股間を握られて泣かされた事があるらしい。


全く覚えていなかった。


だが、生殖機能に問題が発生してるわけでもないので別に怒るほどのことではないだろう。


見られて握られたというのはかなり衝撃的だが、俺も色々と変わっているので小さい頃のを見られていた所でどうという事はない。


「これでも怒ってないんっすか?」


「うん、だって小さい頃の事じゃん」


「本当っすか?」


「ほんとほんと」


ここまで弱気な優葉は初めてみた。


それだけ不安だったのだろう。


「なら前みたいに服を強奪して風邪引かせて合法的に部屋に閉じ込めても許される……?」


「小さい頃の話だから許しただけで、今やったらただのヤバいやつだよ?」


おい、さっきまであんなに不安そうにしてたのに許してもらえると分かった瞬間、露骨に態度変えてきたな。


というか今それをやろうとしたところで、俺に逆襲されて終わりだろうに。


「小さい頃みたいに、一緒に居てもいいんっすか?」


「うん、いいよ」


そう言うと優葉は口角をニッと上げ、俺に不適な笑みを向けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんで逃げるんですか?いっくん?」


「やめてくれ、冬樹と矢吹が居るから……」


(あの笑みの原因はこれだったか……)


優葉があの幼馴染だと発覚した日の夜、俺はベットの上で優葉に抱き付かれていた。


原因は小さい頃みたいに、一緒に居ても良いと言ってしまった事だ。


俺には小さい頃の記憶がほぼないので、絶対一緒に寝てないの言い張れないからなにも言えない。


それにあの様子を見るに、断って優葉が「やっぱり怒ってるっすよね……」と再度落ち込んだら嫌だ。


そんな事を考えていると、優葉が少し体勢を変え、腕を俺の首に巻き付かせた。


こうなってしまうと体勢的に引き剥がす事ができない。


「ん〜〜」


しかも口も塞がれて声が出ない。


「やふきぃ、はふけてぇぇ」


俺は矢吹に助けを求めた。


口を押さえられているのでくぐもった変な声になってしまったがなんとなく意味は伝わるだろう。


それに色々厳しい矢吹のことだ。


すぐに暴言を吐きながら助けてくれるに違いない。


「樹君………変な声は出させないでよね………やるなら静かにお願い……」


矢吹も睡魔には勝てなかったらしい。


なんか意味不明な事を言って寝てしまった。


「うう、アレが樹君のだったら……」


冬樹も冬樹で意味不明な事を言っている。


「逃がさないっすよ、良いって言ったの樹君っすもんね?」


優葉が先ほどよりも距離を詰めてきて、背中に双山が当たるようになってしまった。


俺は健全な男子高校生なので嫌でも意識がそちらへ向いてしまう。


「寝れねえよぉぉ〜」


そして次の日、無事に俺は寝不足になったのだった。


後書き


昨日更新出来なくてすいませんでした……

実は4年ぶりにインフルになってしまっていて執筆出来る体調じゃ無くなってました。

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