第23話 協力関係
「おい!みんな!雫さんも彼氏出来たらしいぞ!」
昼食を取って5時限目の準備をしているとクラスメイトが騒ぎながら教室に入ってきた。
「え〜!」
「優葉さんに続き雫さんまで……」
驚きの声や、悲しみの滲んだ声がクラスに響いた。
そんな事はどうでも良い。
問題は矢吹の彼氏が俺だという事だ。
昨日、矢吹のお願いで俺は臨時の彼氏になる約束をした。
そして矢吹は早く男が近づかない様にしたいらしく、速攻で広めたらしい。
ネットを通じて俺たちの学校に広まって来たという事は、開明高校の生徒は既に広がっているだろう。
もう噂の収拾はつかない。
つまりだ、俺は2股している事になる。
優葉の彼氏と矢吹の彼氏、どちらも正体は俺だ。
どっちも校内外問わずモテまくってる2人だ。
バレてしまえば、俺の人生が詰んでしまう。
「まさか雫さんにも彼氏が出来たとは、2人の事好きだった人はショック受けそうだね〜」
五月が話しかけて来た。
「………そうだな………」
「なんか優葉さんの時といい雫さんの時といい、変な間があるけどどうしたの?」
「なんでもない」
「いーや、なんでも無くないね。樹はいつも右手の親指と人差し指を擦りつける癖があるからね」
「え!?」
俺は急いで右手を確認したが、右手の指がダランとしている。
あ、嵌められたと思った時には遅かった。
「やっぱり隠し事してんじゃん」
ここまで言われてしまうと五月にはもう隠せない。
「放課後話すから今は待ってくれ」
「分かった」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で、何隠してたの?」
「矢吹と優葉の彼女の件」
俺は放課後誰も居ないことを確認し、教室で五月と向き合っていた。
「優葉に彼氏いる疑惑かかってるでしょ?あれ俺」
「え?」
「あれ俺」
「2回も言わなくて良いけど、本当?」
「うん」
訝しげな目を俺に向けてくる。
仕方ないよな。
校内外問わずモテまくってる美少女の彼氏が、全然目立たない陰キャだなんて信用出来るはずがない。
「そうか、おめでとう!」
「え?」
さっきとは一変急に笑顔になり俺を祝ってきた。
「中学生からずっと社交性が無くて、友達ができずにボッチだった樹に彼女が出来たとは!」
「なんかディスってね?」
社交性が無いのも、ボッチなのも事実なんだけど、言葉にされると心にサクッと刺さるんだよね。
というかこの祝福モードどうにかしないと!
「待ってくれ、俺は優葉と付き合ってない」
「どういうこと?」
「俺も分かって無いんだ。昨日一緒に手の写真を撮る様にお願いされて、それが勝手にオンスタに上げられたんだ」
「どうやって写真撮ったの?」
「そりゃ一緒に住んでるんだか………あ」
完全にやらかした。
「一緒に住んでるってどういう事?」
ルームシェアの事は言わないつもりだったのに。
まぁ、五月にはいずれにせよバレてたか。
毎日一緒にいて隠し通せるわけがない。
これを機に言ってしまおう。
「文字通り、一緒に住んでる」
「ルームシェアって事?」
「そういう事」
五月は理解が早くて助かる。
「あと、矢吹と冬樹も一緒」
「ええ!?」
もうルームシェアに事は明かしてしまったので言っても問題は無いだろう。
「オフ会のメンバーでルームシェアしてるって事?」
「そう」
これまた理解が早い。
どういう思考回路をしてたらこんなに早く理解出来るんだ。
「なんでルームシェアする事に?」
「今度RITの大会があるんだけど、一緒に練習したいからだって」
「理由浅っ!?」
確かに浅い理由だとは思うよ。
知らぬ間に業者に荷物運ばれて、母さんも俺を置いて行ってしまったから拒否権ないかったんだから仕方なくない?
「で、一緒に住んでて優葉さんが独断で彼氏疑惑を広めたと」
「そういうこと」
「じゃあ矢吹さんの彼氏も樹?」
「エスパーかな?」
こいつ、俺の思考読んでるのかよ。
「実際俺はどっちとも付き合って無いんだけどね」
しかしクラスメイトやその他の生徒は皆んな、優葉と矢吹に彼女が居ると思い込んでいる。
俺が「2人には彼女居ないよ!」と言ったところで現実逃避してる可哀想な陰キャとしか見られないだろう。
「もしバレたら3股男にされちゃうのか……」
「なんで3股?」
「冬樹さんとも付き合ってる疑惑かかってるの知らない?」
何それ、知らないんだけど。
確かに冬樹とは学校でもそこそこ仲良くしていた。
でも普通それだけで、付き合っているとは思わないだろう?
「あ〜、樹は前の冬樹さんを知らないんだったか」
俺には元気な変態女子というイメージしか無い。
あまり男子と話さないとは聞いているが、前はどんな感じだったのだろう?
「前まで冬樹さんは、氷結の姫ってあだ名を付けられてたんだよ」
なんで氷結の姫?
髪色が銀色だからか?
「由来はどんなイケメン男子に告白されても喜ばないし笑わないし、話しかけても冷たい反応しか返さないかららしい」
「あ〜」
言われてみれば、冬樹の2年生に対する対応はかなーり冷たかったな。
先輩が可哀想になるくらいだった。
「そんな感じだった人が樹の前だと笑うんだぞ?付き合ってるって噂を生んでもおかしくないだろ?」
確かに………
会った時から冬樹は笑っているので感覚が麻痺していたが、前まではそうではなかったのか。
そう考えると、付き合ってると誤解されるのは当然か……
「もし何かあったら隠すの手伝ってくれないか?」
「もちろんだよ、親友よ」
こうして俺たちは協力関係を結んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます