第22話 知らない所で動いていた、もう1つの計画
「樹君、唐突なんだけど彼氏役をお願いしてもいいかしら?」
「は!?」
俺は風呂から上がって速攻そんなことを言われた。
「ちょっと事情があって彼氏の存在が必要なんだけど、学校の男みんなキモいから樹君しか頼める人がいないの」
「事情って何?」
事情の内容によっては断る様だ。
ただでさえ冬樹との件で騒がれてるのに、これ以上騒がれるとかごめんだからな。
「男払いをしたいの?」
「男払い?」
「ほら、ミーって可愛いでしょ?」
自分で自分を可愛いとか言うやつ初めて見たわ。
実際可愛いから良いんだけどさ。
「だから男共が蚊みたいによってくるわけ。で、それが嫌だから彼氏が居るって言って近付く人を減らしたいんだけど、そのうち不都合が生じてきた時に彼氏がいないと面倒なことになりそうなのよ」
「ほうほう」
随分と贅沢な悩みだな。
世の中には男にモテようとして頑張ってる女子もいるはずなのに。
「ね、この通り!お願い!!」
矢吹が頭を下げてきた。
まさかこの、矢吹が頭を下げるとは……
本当に困っているのだろう。
「分かったよ、ただし変な騒ぎは起こさないでくれよ」
「ありがとう!!」
そして俺は矢吹の彼氏役になる事を承諾した。
のちにこの約束が修羅場を引き起こすとも知らずに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「暇だなぁ」
俺は机に突っ伏しながらそう呟いた。
「あ、樹!!」
「おおどうした、落ち着け五月」
随分と慌てた様子で五月が俺に近づいてきた。
「優葉さんに彼氏出来たかもしれないぞ!」
「え!?」
マジか。
俺らが知らなかっただけで優葉には彼氏が出来ていたのか……
という事は、優葉は自分の家に戻るだろうな……
彼氏も自分の彼女が知らない男と一緒に住んでるのとか、絶対嫌だろうし。
「ほらほら、見てこれ!」
五月が自分のスマホ画面を見せてきた。
その画面には「ゆうちゃん」という名前のユーザーが誰かと手を繋いでいる写真が映し出されている。
「ゆうちゃんっていうのが優葉のこと?」
「そうだよ」
「なんで優葉のオンスタ持ってるの?」
「いや、持ってるというか公開アカウントで結構フォロワーいるよ」
ほら、と言って五月が少し画面を近づけてきたので見てみるとそこにはフォロワー13578の文字。
想像以上に有名だな。
そりゃここら辺一帯の学生みんな知ってるわ。
「で、ほらほらこの写真」
再度五月が写真を見せてきた。
豆がたくさんある男特有のゴツゴツしている手と優葉の綺麗な手が恋人繋ぎをしている。
「確かに男の手っぽいが……これどこで撮ってんだ?」
後ろが真っ白なので、壁か何かの前で撮っているのだろうが質感が壁っぽく無い。
「もしかしてこれベットじゃない!?」
「ガチか」
わざわざベットで撮るという事はそこまで進んでいるんだろう。
「まさか優葉に彼氏が…………」
………ん?
というかこの写真いつ撮ったやつだ?
優葉って昨日、矢吹と一緒にわざわざ俺の学校まで来て一緒に帰ったよな?
彼氏がどこに住んでるのか知らないが、写真撮って俺たちの所までくる時間無くないか?
優葉の学校からだと、相当急がないと俺たちの帰りには間に合わないはず……
どういう事だ?
「ちょっともう1回あの写真見せて」
「いいよ〜」
五月にもう1度写真を見せてもらった。
俺は1度自分の手を見た。
そして、画面の手を見た。
豆の位置や指の長さが俺とほぼ同じだ。
…………これ俺じゃね?
昨日の夕方何をしたか考えてみる。
俺には、よく分からないまま優葉に恋人繋ぎした手の写真をベットの上で撮った記憶がある。
まさかあの写真をオンスタの公開アカウントにあげたのか!?
しかもフォロワーが約14000人のアカウントに!?
とんでもない事をやらかしてくれたな!!
「どうしたの、樹?」
「………なんでもない……」
「優葉さんのこと知ってる人多いからこれから少し話題になりそうだね」
「……そうだな……あははは………」
俺は引き攣った笑いでそう返した。
「そういえばお前ら見たか!?あの優葉さんの投稿」
「見た見た、彼氏出来たっぽいよね」
「クッッソ、俺狙ってたのに!」
「お前じゃ無理だよバカ」
名前も知らないクラスメイトが軽口を叩きながら教室に入ってきた。
もう、優葉の写真の話は広まっている様だ。
情報の回りが早すぎる。
「優葉さんって〜」「え〜〜」「マジかよ……」
段々とクラスに人が入ってきて騒がしくなってきた。
大方が優葉の昨日の投稿についての話だ。
(絶対にバレない様にしないと……)
俺はこれから隠し通す覚悟を決めて、机に突っ伏した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
優葉side
「いい感じに広まってるっすね」
表示回数とグッドの数が凄い勢いで伸びていく。
そして返信欄に(彼氏!?)などというコメントが増えていく。
これで私はみんなから彼氏が居る疑惑をかけられただろう。
想像以上に上手く進んでいる。
「優葉ちゃん!!彼氏出来たの!?」
殆ど話したこともない女子が話しかけてきた。
「どうっすかね………」
「何その反応!彼氏いるの?」
「教えないっす」
私は敢えてみんなの興味を引く様に、濁して言った。
予想通りクラスほぼ全員の意識がが私たちの会話に集まっている。
「お前ら〜席につけ〜」
担任が教室に入って来てホームルームが始まった。
「みんなの興味が冷める直前に、この写真をあげれば完璧っすね」
そう呟いてる私は樹君と撮ったツーショットをスマホを先生から隠しながら眺めた。
後書き
優葉ちゃん、暴走し始めましたね。
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