第21話 何も事情を知らない人の様子
「樹君、ツーショットとらないっすか?」
「良いけど、どうして?」
俺は冬樹が風呂に入っている間、優葉にそうお願いされた。
いきなりどうしたんだろうか?
「一緒に撮った写真1枚もないな〜って思ったからっす」
「そういうことね」
確かに言われてみれば俺たちは1度も写真を撮っていない。
「なら冬樹が風呂出てくるまで待ってみんなで撮らない?」
「私、樹君とツーショットが良いっす」
「まぁそういうことなら……」
こんなに可愛い事を言われては断れない。
俺は少し腰を屈めて、優葉が構えたカメラに映り込んだ。
そして少しだけ笑って写真が撮られるのを待った。
なんで少しだけなのかって?
最初ニッコニコの笑顔にしようかとも思った。
でも、俺は口角があまり上がらないので無理矢理上げようとすると気持ち悪い笑顔になってしまう。
かといって真顔で映り込むのも嫌だったので中間を取り微笑を浮かべる事にしたのだ。
「ハイチーズ、(カシャ)」
スマホのカメラが光った。
「どうだ?」
カメラの光で目を細めてしまったから、睨んでるみたいになっているかもしれない。
「うん……まあ大丈夫っす!」
「何、今の間。ちょっと怖いから見して」
「分かったっすよ〜」
優葉がスマホ画面を見せてきた。
俺の顔は想像していた通りの表情になっていた。
昔から写真写りが悪いので、そこも不安だったが写真写りも良い。
これなら残しても大丈夫だろう。
「あ、あと手の写真も撮っていいすか?」
「手の写真?」
また急にどうしたんだろうか?
それに俺の豆塗れの手の写真とか誰得なんだ。
「その…繋いでる所を撮りたいな…と……」
「まぁ良いけど、なんでそんな写真撮るの?」
繋いでる所となると少し怪しい。
ツーショットまでは理解出来たが、手だけの写真とか誰に需要があるのだろうか?
何かに写真を利用してるのかもしれないな……
俺は少し疑い始めた。
「……だめっすか?」
子供が何かを頼む様なつぶらな瞳で見てきた。
優葉が童顔なのも相待って、とてつもなく可愛い。
「分かったよ」
俺は即答した。
この状況でお願いを断れる男子はこの世に存在するのだろうか?
断れるのであれば、そいつは人の心を失っているだろう。
「じゃあこっちきて欲しいっす」
「別のところで撮る必要ある?」
「いいから来て欲しいっす」
優葉が向かったのは寝室だった。
「まさか監禁するつもり?」
優葉は俺を監禁したという前科があるので、あまり油断できない。
「そんなわけ無いっすよ」
優葉の様子を見るに本当の様だ。
流石に監禁はしないらしい。
というか、今の状態で監禁しようとしても俺は自由の身なのですぐ逃げれるか。
「ここに手を出して欲しいっす」
「はいはい」
ベットの上に掌を出す様に言われた。
すると俺の手が柔らかい優葉の手に上から握られた。
(手汗大丈夫か?)
俺は握られた瞬間、そんな事を考えた。
手汗は全く出ない体質なのだが、意識しながら女子と手を繋ぐとなると気になってしまう。
優葉も手汗塗れの手を握るのは嫌だろう。
ただでさえ、豆がたくさんあってゴツゴツしてるのに手汗までセットになったら最悪だ。
「やっぱりこうしたいっす」
今の状態では写真を撮らずに、優葉が指を絡めてきた。
俗にいう恋人繋ぎというやつだ。
すると俺は余計に手汗が気になってしまい手元を凝視していた。
「カシャ」
俺が手元を凝視して固まっている中、写真が撮られた。
「ありがとうっす!!」
「ああ、うん」
結局何がしたかったのか分からなかったが、優葉は自分のスマホを胸に抱いて幸せそうな顔をして寝室から出て行った。
あれだけ幸せそうな顔をしてもらえたなら写真を撮った甲斐があるだろう。
俺もリビングに戻ろうと寝室から出た。
「なに?いちゃついてきたの?」
リビングに入って速攻、矢吹の揶揄う声が聞こえてきた。
「違う!」
「そうっす!」
「はいはい、じゃあ何してきたの?」
優葉相手にされてなくね?
「優葉に言われて写真撮ってきた」
「え……」
矢吹が俺の方を向いて固まった。
そして目だけで優葉の方を見て、また俺を見てきた。
それを繰り返している。
「どうした?」
「どうしたんっすか?」
挙動不審だったので俺と優葉は矢吹にそう問いかけた。
「ううん、なんでもない」
なんか今日は矢吹も優葉も変だな。
「樹君〜入ってもいいよ〜」
脱衣所から冬樹の声が聞こえた。
「分かった〜」
そう返事をして俺は脱衣所に向かったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
矢吹side
樹君がお風呂に行ってしまった。
「よし!じゃあこれをオンスタにあげよう!」
すると突然、優葉ちゃんがオンスタにさっき撮った写真をあげようとしている。
オンスタに上げる必要あるのだろうか……?
は!もしかして優葉ちゃん、樹君と付き合うために外堀を埋めようとしてるの?
だとしたら樹君に彼氏役をやってもらう計画が危うくなる!
「ちょっとま…」
「これでよしっと、雫ちゃんどうしたの?」
「いや……なんでも無い……」
止めようと思ったが投稿してしまった様だ。
これじゃあ樹君にミーの彼氏役お願い出来ないじゃない!
いや、でもミーの頼もうとしている彼氏役は万が一バレた時のためのものだ。
そもそも私がヘマをしなければ役目などないので問題はそこまでないか。
万が一、樹君が彼氏だとバレたら樹君が最低ド屑の変態二股男として広まってしまうが、それは私がどうにかして止めればいいだろう。
よし、これなら頼んでも大丈夫。
樹君がお風呂上がったら頼んでみよう。
「優葉ちゃん、樹君の事本当に好きよね〜」
雪花ちゃんが小声で話かけてきた。
「この短期間で、よくあそこまで人を好きになれるよね」
「あれ?雫ちゃんはあの話聞いてないの?」
ミーはまだ、そこまで優葉ちゃんと話していないので優葉ちゃん関連の話をあまり聞いたことがない。
「なんの話?」
「優葉ちゃんが樹君の幼馴染だって話」
「は?」
優葉ちゃんが樹君の幼馴染?
2人はオフ会で会ったのが初めてじゃないって事?
「それ、詳しく教えて」
「ごめんね〜私も詳しくは教えてもらえて無いんだ〜」
本当に優葉ちゃんが樹君の幼馴染なら、あそこまで短期間で好きになるのにも理由がつく。
だとしたら本当に優葉ちゃんは樹君の幼馴染なの?
ミーの頭は大混乱だ。
ただ、普段の樹君の様子的に、多分優葉ちゃんが幼馴染だという事に気づいてない。
顔をも忘れてしまう程、疎遠にでもなったのだろう。
「なんで樹君にその事言わないんだろうね」
流石の樹君も幼馴染の存在くらいは覚えているだろう。
なら自分が幼馴染だと明かして、樹君と幼馴染として仲良くしてた頃の距離感を取り戻せばすぐ付き合えそうなのに。
なんでこんな回りくどい事をしてるのだろう?
意味が分からない。
「優葉ちゃんなりの考えがあるんじゃない?」
「そうなのかなぁ〜」
「あ、そういえば!昨日RITでさ〜〜」
優葉ちゃんの話題から話が逸れていき、のんびりとした雑談が始まったのだった。
後書き
今日からカクコンだ!
追記
星180行った……これは200行くのも夢じゃないかもしれない。
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