第19話 なんでここに居るの?あとそれ聞いてない。

「やっと学校終わったわね」


「なんで俺はお前と一緒に帰ってるんだ……」


帰り道、俺はそう言った。


今日は五月とではなく、冬樹と帰っている。


五月と帰ろうとしたら冬樹が教室に来て俺を誘拐していったからだ。


首根っこを掴まれ引っ張られる俺の姿を、先輩や同級生がじっと見てきてとても恥ずかしい思いをした。


「別に良いじゃない、一緒に住んでるんだし!」


「声を抑えて!?」


一緒に住んでる事を他の人に聞かれたりでもしたら、俺の学校生活崩壊待ったなしだ。


俺も気をつけるから、冬樹にも色々気をつけてもらいたい。


あとそれのどこが一緒に帰る理由になるのか分からない。


「いいじゃない、私たちが周りに恋人同士だと認知されるだけだし」


「俺的には何にもよくないんだけど!?」


恋人同士だと認知されるのが1番やばい事だと気づいていないのだろうか?


俺なんかと付き合ってると勘違いされたら、冬樹の株が下がってしまう。


それに、俺が先輩に絡まれるだろう。


すると冬樹が手を絡めてきた。


「周りからの視線がすっごく痛いんだ、やめてくれ?」


先輩が鬼のような目をして俺たちの繋がれた手を見ている。


「ヤダ!!」


さっきより距離を詰めてきた。


少しだけ胸が当たっている。


「一旦落ち着こう?離れて?」


「ヤダ!」


さらに距離を詰めてきて、胸がさらに強く押し付けられる。


こんなところで鼻血をぶちまけたく無いので俺は冬樹に離れるようお願いしたが、逆効果だったようだ。


誰か助けてくれないかな?


そう思った時だった。


「樹……くん?」


「あちゃー」


聞き覚えのある声が後ろからした。


振り向くと、そこには死んだ魚の目をした優葉と頭を押さえている矢吹がいた。


「あれ?なんで優葉と矢吹がここに?」


俺がそう言うと


「おいおい、あの1年2人のこと呼び捨てにしてるぞ!」


「優葉様がどうしてここに!?」


「矢吹さん可愛い……」


周りがざわつき始めた。


なんでみんな2人の名前知ってるんだ?


「樹……」


後ろから置いていったはずの五月が顔を出した。


「何これ、どういうこと?」


急に周りが騒がしくなったので、俺は訳が分からず五月にそう尋ねた。


「それはこっちのセリフなんだけど、どうやってあの2人仲良くなったの?」


五月もあの2人の事を知っているようだ。


「オフ会だけど……」


「あーあー……、人生の運全て使い果たしただろうね……」


冬樹といい、こんな美少女人生で1回話せれば運が良い方だろう。


それが3人もいるのだから確かに運を使い果たしたかもしれない。


「うん、多分使い果たした……」


「ねぇ樹、本当にあの2人の事聞いたことないの?」


「何それ?」


「あの2人、凄い可愛いからここら辺の学校で超有名だよ?」


「知らん」


残念だが俺は一生部屋に籠ってゲームをしていた人間だからそんな話聞くこともない。


悲しいことに教えてくれる友達がいない。


それに、女子にあまり興味を持たない五月が知っているとなると本当に有名なのだろう。


「樹の情報網の狭さがここまでだったとは……」


五月が呆れたような声を上げた。


「こんなキラキラした空間に居られないわ……じゃあな」


五月がそう言って逃げていった。


「樹くん……?この私を差し置いて冬樹ちゃんといちゃついていたんすか……?」


正面を見ると優葉がそう言いながら距離を詰めて来ている。


目は相変わらず死んでいる。


「いや、これはだな、勝手に冬樹は距離を詰めてきただけというか、なんというか……」


俺は優葉の姿を見て、身の危険を感じたので急いで言い訳を並べた。


「拒絶する事も出来たっすよね……?」


「出来ない事もなかったけど……」


「じゃあなんで拒絶しなかったんすか?」


「そ、それは……」


優葉……!


段々と俺の逃げ道を潰してきてる!!


「やっぱり樹くんは監禁しておかないと……」


「しなくても大丈夫です、今すぐ離れます」


サッと冬樹から距離をとった。


すると同時に冬樹もサッと横に動いて俺にくっついてきた。


「離れて!?」


「ヤダ」


しがみついてきた。


「樹くんを今すぐに監禁しないと……」


何故か死んだ目をしてブツブツと呟く優葉と、意地でも離れまいとしがみついてくる冬樹。


そして、それを止めずに傍観している矢吹。


周りには野次馬が集って大騒ぎ。


現場はカオスだった。


「3人共やめて?」


いつの間にか近づいて来ていた矢吹がそう言って、俺たち3人が動きを止めた。


「なんか変じゃね?」


そう、なんか矢吹の様子がいつもと違うのだ。


冷たい目をしていると思ったのだが、今は懇願するような目で俺を見ている。


捨てられた子犬のような目だ。


すると矢吹がさっきより距離を詰めてきて、こう囁いた。


「こういうキャラでやってんだっつうの……察しろよ」


「分かった……察するぜ!イッテェェェ!」


少しふざけただけなのに指の骨が折れるんじゃないかという力で足を踏んできた。


「すいません」


「早く家帰るよ」


「はい」


「ごめんねぇ〜!帰りたいから通してぇ〜」


大声で矢吹がそう言うと、自然と道が出来た。


俺たちは矢吹を先頭にして騒がしい野次馬の中をくぐり抜け、家へと帰っていったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんで察してくれないかなぁ!?」


「痛い!!知らなかったんだもん仕方ないー」


「危うく、私の本性バレるところだったじゃん!!」


矢吹がまた足を蹴ってくる。


これは青なじみが出来そうだ。


「これ以上はダメっすよ!樹くんが可哀想っす!」


この状況を見かねて、優葉が止めに入ってきた。


「ほんっとうに……はぁ」


矢吹が蹴るのをやめた。


このままだと足の骨も逝ってしまいそうだったのだ助かった。


「あ、というか今日お弁当ありがとう。美味しかったよ」


「そんな事を言っても何も出ないっすよ!」


ふとお弁当の事を思い出したのでそう伝えると、優葉が急に照れ始めた。


「「新婚夫婦かよ」」


「違う!」


「そうっすよ!新婚じゃないっす!」


2人にツッコまれ、お互い少しズレた否定をしたのだった。



後書き


定期考査の漢字で耳鼻咽喉科が分かんなくて、耳鼻淫行科と書いて提出した事を今さら凄い後悔してる。


追記

青なじみ=青あざ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る