第18話 冬樹の闇

「あ、今日学校じゃん」


ベットに寝転がりながら、見慣れない天井を見て俺はそう言った。


身体を起こして周りを見るが、寝室には俺以外誰もいない。


時計をみると、もう6時半くらいなので3人とも準備しているのだろう。


俺もそろそろ準備しなければならない時間だ。


「よし、起きるか」


俺は立ち上がって、寝室のドアを開けようとした。


「ん?開かないな」


ドアノブをガチャガチャやっているのだが開かない。


ウソでしょ?俺また監禁されたの?


「誰かー開けて〜」


「あ、鍵開けるの忘れてた」


このままだと遅刻してしまうので助けを求めると、矢吹の声が聞こえたので今回は監禁じゃないようだ。


ガチャッと音がしてドアが開いた。


「おはよう」


「おはようございます」


「なんで鍵閉めてたの?」


「着替えてて、間違って樹くんが入ってこないようにするためだよ」


そういうことか。


確かに矢吹は既に制服に着替え終わっている。


この様子だと優葉も冬樹も着替え終わっているのだろう。


「樹く〜ん、雫ちゃ〜ん、パン焼けてるっすよ〜」


優葉が俺と矢吹を呼ぶ声が聞こえた。


俺が寝ている間にパンを焼いてくれていたようだ。


ありがたい。


俺は寝室に制服を持っていき、着替えてリビングに戻ってきた。


「全員制服で朝食っていいな……」


食卓に座って俺はそう呟いた。


朝から全員制服で食卓を囲むのは中学の修学旅行以来だ。


普段と違うのでワクワクする。


「そうっすよね!なんかいいっすよね!」


「私もこういうの憧れてたのよね〜」


「新鮮ではある」


3人共俺と同感らしい。


そのあと、少し雑談しながら俺たちはパンを食べた。


「私の高校遠いのでもう行ってくるっす!」


「「「行ってらっしゃ〜い」」」


優葉が学校へ向かった。


「ミーももう出る」


「「行ってらっしゃーい」」


矢吹も学校へ向かった。


「よし!じゃあ俺も行くか!いってきm」


「待って」


流れに乗って学校に行こうとしたところで、俺は冬樹に肩を掴まれた。


「一緒に行きましょう!!」


「え、やだ」


一緒に登校して、また騒ぎを引き起こしたくないからだ。


まだ時間に余裕があるので電車を1本後にずらせばいいだろう。


「それは私が認めないわ!」


「行ってきまーす」


俺は強引に玄関を出ようと冬樹に背を向けた。


「待って、これを見て、もし先に行くならこの写真を樹くんママにみせるわよ」


矢吹に呼び止められた。


しかも脅しっぽい事を言っている。


後ろを振り返りたくなかったが、もし本当にヤバい写真とかを持ってたら困るので俺は冬樹に向き直り、その手に持たれている1枚の写真を見た。


「なんでそれを冬樹が持ってるの!?」


そう、冬樹が持っていたのは俺が優葉にキスした時の写真だった。


俺は渡していないし、そもそも写真のデータすらも持っていないので優葉が自ら漏洩したのだろう。


あれだけ恥ずかしがっていたのによく自分でバラせたものだ。


「これを樹くんママに見せたらどうなるかしら?」


「一緒に行くからそれだけはやめてください」


すぐに俺は手のひらを返しそう言った。


母さんにあの写真を見られるくらいなら、学校で冬樹と登校して騒ぎになった方がまだマシだ。


だってあの写真が見られたら


「優葉ちゃんと付き合ったの!?孫は!?いつ頃になる!?」


とか頭のおかしい事を電話で言ってきそうだし、五月の母親とかに話してその情報を五月がばら撒いて俺の学校生活が崩壊する未来が見える。


「じゃあ行こうか」


グダグダしていたら乗ろうとしてる電車に乗り遅れてそうなので、俺たちは急いで駅へと向かった。


そして同波高校の最寄り駅に着いたところで、俺は冬樹に聞いた。


「なんか距離が近くない?」


さっきから普通に胸が腕に当たるような距離にいる。


周りの同波高校の先輩から殺意の籠った視線が飛んできていている。


「樹くんは私のものだとアピールしておかないと!」


「冬樹の所有物になったつもり無いんだけど……」


冬樹の胸に意識が向いてしまいそうなので、ぐるっと周りを見渡し意識を冬樹の胸に向けないようにした。


その時にチラッと目に入った、知らない先輩の持っている小さなバッグを見て俺はある重大なミスに気づいてしまった。


「弁当忘れた!!というか作ってない!!」


そう弁当を忘れてしまったのだ。


いつも母さんが作ってくれていたので完全に忘れていた。


お金結構厳しいけど、仕方ない。


今日は購買にするか……


「大丈夫!優葉ちゃんが作ってたの持ってきたよ!」


「マジか!」


優葉がお嫁さんお嫁さん言ってるのも伊達じゃなかった。


「はい、これ、後で優葉ちゃんにお礼言っときなよ〜」


「ほんっとうにありがとうございます。帰ったら速攻でお礼言いに行きます」


俺は冬樹が差し出した弁当を貰った。


その瞬間、周りの先輩からの殺気が増した。


多分、俺が冬樹に弁当を作ってもらったと思い込んでいるのだろう。


「おい、そこの1年」


見知らぬ先輩が声をかけてきた。


多分我慢が出来なかったのだろう。


嫌な予感しかしないが俺は先輩の方を向いた。


「あまり調子に乗るなよ」


いきなり喧嘩腰だ。


この先輩、絶対に冬樹の事好きだろ。


凄い目付きで俺のこと睨んで圧かけてくるもん。


俺より身体デカいしめっちゃ怖い。


「はい」


変に反論して喧嘩したくないので、手短に答えて駅ホームを出ようと思った時だった。


「調子に乗るな……とはどういう意味ですか?」


冬樹が先輩に圧のある声で質問するのが聞こえた。


こちらも中々怖い。


口は弧を描いているのに、目が死んでいる。


監禁してる時の優葉の顔だ。


「いえ……」


先輩は完全に口籠ってしまった。


そりゃそうだ。


理由を説明すると、同時に自分が冬樹を好きだと言っているようなもの。


言えるはずがない。


「前もでしたけど、これ以上樹くんに絡むのやめてもらっていいですか?不愉快です」


それを分かっているのか冬樹もストレートにものを言う。


冬樹の闇を見た気がした。


「すいませんでした………」


先輩はそれだけ言ってホームを出て行ってしまった。


心なしか先輩の身体が小さく見える。


なんか可哀想だ。


「ありがとう、助かった」


「んーん、大丈夫。というかあの人、多分私の事好きだよね?」


さっきの目の死んだ笑顔ではなく、純粋な笑顔でこちらに向き直ってきた。


「好きじゃなかったら、あんな事してこないでしょ……」


「好きじゃないから応えられないんだけどね〜」


今日の冬樹を見て思ったのがモテすぎるのも一概に良いとは言えないという事だ。


冬樹は好きな人が居ないので、先輩たちから猛アプローチされてもただ迷惑なだけだろう。


何よりそれを振り切るのが大変そうだ。


「そういえば時間大丈夫かしら?」


「多分大丈夫……じゃない!!」


冬樹に言われ時計をみると、歩いて丁度くらいの時間だったのに話してしまったせいで間に合うか怪しい時間になっていた。


「少し走らないと間に合わなそうだね〜」


「そんな事を歩きながら言う暇があるなら早くしてくれ!!」


俺たちは小走りで学校へ向かったのだった。


後書き


やっとテストから解放された……

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