第17話 料理も見かけで判断しちゃダメ

「………1つやばそうなのあるな」


俺は3人の作った料理を見てそう呟いた。


テーブルの上には3つのお皿と3杯のご飯が置いてある。


右からチキン南蛮、唐揚げ、得体の知れないスープの順に並んでいる。


チキン南蛮は野菜と肉がいいバランスで盛ってあるし、酢の香りがして美味しそうだ。


唐揚げも焦げていたりするところがなく、綺麗な焦茶色で美味しそうだ。


この2つは普通に食べられるだろう。


問題は1番右だ。


緑……?深緑……?見た事ない色をしている。


真ん中にトマトっぽいのが浮いてるのは分かるが、他はもう分からない。


食べちゃダメなような匂いはしないけど、色がダメなやつだ。


恐怖。


「誰がどれを作ったの……?」


「誰か分からない状態で判定してもらいます!誰がどれを作ったか当ててください!」


まさかのクイズ式だ。


しかしもう、ある程度検討は付いている。


俺は右から優葉、冬樹、矢吹だろう。


優葉は監禁中に、冬樹は学校で昼飯を食べている時に「いつもお弁当自分で作ってるんだ〜」と言っていたので料理上手なのは確定だろう。


矢吹の料理は1度も見た事がなく料理上手か分からなかったのだが……


どう考えても2人が作るわけのない料理が1つある。


それが恐らく矢吹のだ。


「食べなくても何となく分かるから、みんなで食べよう?な?」


俺はあの得体の知れない物を食べたくないので、そう言って逃げようとした。


「食べてみたら意見変わるかもしれないから一応食べて!」


「はい……」


逃げる事が出来ないと分かったので俺は、無難な唐揚げを口に運んだ。


「うま……」


絶品だった。


肉の旨みが衣の中に収まってて、肉汁多いし、衣もさくさくだ。


でも脂っこく無い。


多分、優葉のだろう。


あの時の味噌汁と同じ、身体に優しい味がする。


次に俺は得体の知れないスープをお皿に取った。


チキン南蛮に行くんじゃないのかって?


チキン南蛮が美味しいのは見た目で確定しているから最後に口直しをするために取っておく。


何だろうか……これ……


近くで見てもよく分からない。


ただ美味しく無いだろうなというのは想像できる。


矢吹の顔を見てみたのだが、自信満々な顔をしていた。


(よし!覚悟を決めろ!俺!)


矢吹を傷つけることになるから、死ぬほど不味かったとしても吐くことは許されない。


俺は覚悟を決め、ソレを口に入れた。


「お、ん?おぉぉぉ!」


鼻を程よいバジルの香りが抜けた。


後からトマトの酸味がやってくる。


美味い……こんな見た目で美味しいだと……!


料理も見た目で判断してはいけないと分かった瞬間だった。


「美味しい!」


「「美味しいの!?」」


俺が感想を言うと優葉と矢吹がそう叫んだ。


矢吹作だと思っていたのだが、冬樹が得意顔をしている。


「これまさか冬樹が作ったやつ?」


「うん!」


ごめん、矢吹。


俺は矢吹の事を疑い過ぎていたらしい。


そしてチキン南蛮に箸を伸ばしたのだが、顔にチキン南蛮が近づいた瞬間に俺は箸を止めた。


(あれ?酢の匂いヤバくね……?)


明らかにチキン南蛮からする強さじゃない刺激臭がする。


酢の入ってる瓶に鼻近づけた感じ。


よくよく考えてみたら、椅子にも座らず少し遠目から見ていたのに酢の匂いがしてる時点でおかしいのだ。


もしかしてこっちの方がヤバいのでは…?


俺は若干の不安を抱きながらチキン南蛮を口にした。


(酸っぱ!)


やっぱり酸っぱかった。


これ絶対に酢入れる量間違っただろ……


「どうしたの?」


俺が固まっていると矢吹にそう聞かれた。


「これ矢吹のでしょ?」


「うん」


「調味料入れる量確認した?」


「してないけど、どうかした?」


「ん!?いや、何でも無い。美味しいよ」


やっぱりかぁぁ!


確認しろよ!


致命的なミスしてるぞ!


酢が効き過ぎてるだけで不味くは無いから美味しいとは言っておくけど!


「じゃあどれが誰の料理か分かった?」


「唐揚げが優葉、謎スープが冬樹、チキン南蛮が矢吹でしょ?」


「正解!」


正解というかさっき矢吹と冬樹自白してたじゃん。


消去法で唐揚げが優葉だって分かっちゃうんだよ。


勿論味でも分かったけどね?


「どれが1番美味しかった?」


「優葉の」


これはもう一択だろう。


他のも美味しかったがやっぱり優葉が圧倒的だった。


「流石私の夫っすね!!」


「違う。断じてそういう意味を込めて言った訳ではない」


また俺の妻だとかほざいている。


いつになったら辞めるんだろうか?


俺も優葉の事が好きなら何の問題もないが……


でも、交際関係は成立するだろうが生憎俺は好きな人と付き合いたいんでな。


絶対、流れで決めたくないタイプの人間だ。


それに今は好きな人など存在しない。


「言っとくが俺はちゃんと好きな人と付き合いたい派の人だから。顔が良ければ何でも良いわけじゃない」


「へぇ、じゃあ本当に付き合うチャンスあるってことすか?」


今の発言だと確かにそう捉える事が出来なくもない。


でも、まだ会って3日だぞ?


早すぎるだろ。


「まぁ、そうとも捉えられるな」


「ない」というのも酷い話なので少し濁して答えた。


「分かったっす」


一瞬だけ優葉の顔に真剣味が帯びた。


あれ?これ俺チャンスを与えてしまったようなものでは?


「あの、変な事はしないでよ?」


一応釘を刺しておく。


「私の勝手っす」


おわったぁぁ!


残念な事に男の理性とは脆いもので、優葉レベルの美少女に色仕掛けされてしまえば簡単に崩壊してしまう。


そして当の優葉は普通に色仕掛けをやりかね無い。


「俺は優葉の今後を心配してるんだよ?ほんの一時の感情で決めちゃったらあとでこうkー」


「いらん心配っす」


「夫婦の痴話喧嘩は程々にね」


矢吹が茶々を入れてきた。


「夫婦じゃない!!」


「そうっすよね、やめるっす」


「否定して!?」


俺は違うと声を上げるが、優葉がその気になっているので俺の声は届かない。


「2人はずっと熱々でも、料理はすぐに冷めちゃうから早く食べましょう?」


「食べるけど、何でもかんでも俺たちのこと絡めて言ってくるのやめて?」


「そうっす!私たちはずっと熱々っす!」


そんな会話をして俺たちは3人が作った料理を食べ始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る