第10話 勝手にお引っ越し~
「え………どういうこと……?」
俺の部屋からタンスやら本棚やらの家具が文字通り消失していた。
「おい、母さん!これどういうこと!?」
「あれ?今日から雪花ちゃんたちと一緒に住むんじゃないの?」
冬樹と一緒に住む!?
そんなの聞いてないんだけど!?
一瞬いつもの意味不明発言かと思ったが、引っ越し業者が来てるのでそれは無いだろう。
俺はプチパニックを起こしていた。
学校から帰ってきたら、勝手に俺が冬樹と暮らすって決まってたんだぞ。
しかも引っ越し業者まで来ていて、準備が始まっている。
こんなことがあれば誰だってパニックになるだろう。
「なんで冬樹と住むことになってんの?」
「樹が自分で封筒渡してきたじゃない」
その言葉で俺はハッとした。
まさか……あの封筒の中は住居の契約書だったのか!?
だとしたら、あそこまでして冬樹が隠そうとするのも納得がいく。
俺は冬樹がやった事だと確信して、冬樹を通話グループに呼んだ。
「「「おい(ねぇ)冬樹(ちゃん)?」」」
通話を開くと俺以外の2人も同タイミングで通話グループに入ってきた。
「なんで俺は引っ越しすることになってんだ?」
「「え、樹君も(すか)!?」」
矢吹と優葉の声が揃った。
「今度、RIT大会あるじゃない。で、それに私は勝ちたい。だからみんなで会って練習した方が上達早そうだし、東京に4人で住む用の大っきい部屋を借りました!じゃあね!」
「「「は!?」」」
それだけ言って冬樹により通話グループが強制解散させられた。
つまり、俺は今日から東京に引っ越し矢吹、冬樹、優葉の3人と一緒に暮らすことになるわけだ。
これから男子高生と女子高生3人が一緒の部屋で衣食住をともにする。
うん、大問題だ。
どう考えても、思春期の男女が同じ屋根の下で寝るべきではない。
「樹〜家出発するよ〜」
「今!?」
母さんが俺を呼び出してきた。
「なんで冬樹と一緒に住むこと許可しちゃったの!?」
普通の親だったら顔も見たことない人と一緒に住むことを許したりなどしないだろう。
ましてや女子3人となんて。
女子3人の親がこれを許可した事も不思議でならないが。
「いや〜樹にも春が来たんだって思うと感慨深くてね〜、女の子と関わる良い機会じゃない」
あの時の春ってそういう意味か!
勝手に俺が3人のうち1人を好きだと思い込んでやがる!
「孫を見れるのも近いかもしれないわね〜」
「全然近くないから変な妄想するのやめて!?」
そうは叫んだが、母さんは自分の世界に入り浸ったままのでもう諦めて放置しておいた。
「よし!じゃあ行くわよ!樹!」
「嫌だぁぁぁぁ」
車に引き摺り込まれた。
こんなことってある?
学校から帰ってきたら、1回しか会ったことない人と一緒に住むといって引っ越し業者に荷物を持っていかれ、車に引き摺り込まれる。
俺は呆然としながら母さんの運転する車に揺られたのだった。
「樹〜着いたわよ〜」
「あぁ、着いちゃったんだ……」
車を降りて俺は今から住む部屋のある建物を見渡した。
「どういうことすかね、これ………」
隣から優葉が話しかけてきた。
優葉も俺と同様呆然としている。
「はぁ…………」
今度は矢吹が来た。
頭を手で押さえている。
まさか、ネ友との再会がこんな事になろうとは誰も思っていなかっただろう。
「じゃあね〜、楽しんで〜」
「樹〜孫の顔楽しみにしてるわよ〜」
「またね〜優ちゃん」
「「「あ、待っt……」」」
「バタンッ、ブ〜ン」
俺たちを連れてきた親車に乗って帰ってしまった。
あまりの薄情さに俺たちは3人は口をあんぐりと開けた。
「今からここにみんなで住むのよね……?」
「うん、多分そういうことになるね」
「………意味不明っす」
そういう反応になって当然だろう。
今からリアルで殆ど関わりのない、ネ友と一緒に住まなければならないのだから。
「遅れてごめ〜ん」
「「「大丈夫〜、じゃ、ねぇんだよ(すよ)!!」」」
全ての元凶が顔を出した。
「本当にどういうことだ!?」
「ここに住むって本当ですか!?」
「説明してくださいっす!」
3人で冬樹に抗議の声を上げた。
しかし冬樹はどこ吹く風で「落ち着いて」とかほざいてる。
「落ち着くから1から説明してくれ」
「分かったわよ。まず、私たち今度大会出るでしょ?だから私はやるなら勝ちたいわけ。本番は会ってやることになるだろうし、遠くで練習するより一緒に練習した方が上達が早いと思うから引っ越ししてもらいました」
冬樹の言うとおり本番は会って一緒にやることになる。
それに一緒に練習した方が連携も取りやすいし、上達が早いのは確かだろう。
だが、一緒に住まなければならないほど重要か?それ。
「それ、一緒に住まなければならないほど重要っすか?」
よし、よく言った優葉。
俺の気持ちを代弁してくれてありがとう。
「本当は半分くらい私欲も混じってます」
「「「だろうな!」」」
冬樹には同年代の子と一緒に住みたいというか願望があったのだろう。
そしてゲームを言い訳にして俺たちと一緒に住もうという魂胆だった。
そしてそれが上手くいってしまい今、俺たち見知らぬ土地に放り出されたというわけだ。
俺、矢吹、優葉は今の状況が現実に見えず空を見上げてぼんやりしていた。
冬樹は「上手くいって良かった〜」とでも言いたげな笑みを浮かべていたが。
「………………クシュンッ」
静まり返ったアパートの駐車場に優葉のくしゃみが響いた。
「取り敢えず、部屋入ろうか」
優葉のくしゃみで俺は我に返り、これから住む部屋に入ったのだった。
後書き
学校の定期考査でやらかして指名課外に行かないと行けなくなったので今日から1週間投稿しない日が出るかもしれません。
(なるべく毎日投稿できるように頑張ります)
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