第9話 意味不明
「っと、これを渡せばいいんだっけ?」
俺は家に帰ってバックの中にある紙を取り出した。
本当にこれの紙はなんなんだろうか?
現在の住所や郵便番号、名前などを書く欄があり、他は切り取られているのか何も書かれていない。
「ん?なんだこれ?」
2つ折りされた紙を開くと、間から何か1枚の封筒が出てきた。
(樹君は見ないでね)
そう書かれている。
俺的には見ないでと言われると余計に気になるんだけど……
一瞬見ようか迷ったが、変な事が書いてあって次に冬樹と会うときに気まずくなるのはごめんなので開けないでおいた。
まあ親に渡すものなので変な事は書いていないはず、そう願いたい。
「母さん、これ。友達から」
俺はその紙と一緒に封筒を渡しに行った。
「あら〜、誰からかしら〜?」
そうおっとりとした反応を見せたのは俺の母親、久城春風(はるか)だ。
「冬樹雪花って人から。何書いてあるかは俺も知らない」
それだけ言って俺は母さんに手紙を渡して部屋に戻った。
「ネトゲやるか〜」
今日はどうも勉強をする気力が湧かないのでゲームをやってからやろう。
蜜柑大好き星人(今できる人いる〜?)
メルタン(できるよ)
エンジェル(できるわよ)
ダークマター(できます!)
タイミング良くみんな出来るみたいだ。
早速俺はゲームを起動して、通話グループへと入った。
「あ、みんなあの封筒届いた?」
グループに入った途端そんな声が聞こえてきた。
「あ〜あれね、なにあれ?言われた通りに親に渡したけど」
「私も親に渡しときましたっ!」
矢吹と優葉も渡されているようだ。
俺も結局なんだったのか気になっているので、冬樹に聞いてみたが
「大会に関係するものよ」
とはっきりと言ってくれない。
やましい事は無いと願いたいが、隠そうととしてるあたりがすごく怪しく不安になる。
「まぁそれは置いといてやりましょう!」
冬樹が強引に話を変えた。
ますます怪しい。
「雪花ちゃん、あれ本当はなんですか?」
優葉が冬樹にそう聞いた。
優葉も気になるのだろう。
「………そう!あれは大会の親の同意書よ!」
その間は何?
あと親の同意書なら隠す必要なくない?
ますます怪しくなったがここまで言うのを拒否していると、余程聞かれたくないことなんだろうと思い、俺たち3人は親の同意書と言う嘘を信じたことにして、これ以上深掘りしないでおいた。
そのあとはいつも通りの会話、プレイをしてゲームを終えた。
ゲームと通話を終えて、1つ気掛かりなことがある。
それは冬樹がゲーム中に言った言葉だ。
近くに沢山の敵がいたので俺たちが小屋っぽいのに籠っていると冬樹が
「これからはこうなるね……」
と言った。
冬樹はどんなことを考えて言ったのかは分からないが俺はその発言に少し嫌な予感を感じた。
まあ気にせいだろう。
多分冬樹からの謎の封筒とかで気が立っているだけだ。
「樹〜ご飯出来たわよ〜」
今日は普段より少しだけ終わるのが早かったので、母さんと時間がズレないで食事が取れる。
そして食卓へ行くと、明らかに普段より豪勢な料理が置いてあった。
「なんか今日、豪華じゃない?」
「樹にも春が来たんだから仕方ないじゃない!」
俺に春が来たぁ?
今は夏に近いし、春なんてとうの昔に来たんだけど……
まぁ、いいか。
母さんは良く意味不明な事を言ったりする事があるので俺は特別気にしないでおいた。
ただその意味不明な発言が時々本当に何かと関係している時もある。
でもこれは本当に意味が分からないので何とも関係ないだろう。
「その、最近雪花ちゃんとはどうなの?」
食べ始めると初っ端からそんな事を聞いてきた。
なんで冬樹の事を?と思ったが、どうせ五月が親に冬樹と俺の話をして、それが母さんに伝わったとかだろう。
「普通に飯一緒に食べたりするくらい」
別にやましことは何もないのでそう答えておいた。
すると、母さんは「若いって良いわね〜」とかよく分からない事を言ってご飯を食べ始めた。
本当になんだろうか?
俺は不思議に思いながら目の前のスペアリブに齧り付いた。
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「あとちょっとで夏休みだー!」
俺は冬樹と昼飯を食べながらそう叫んだ。
頭からあの封筒の内容が完全に忘れ去られた頃合いだ。
「そうね、あと2日かしら」
「大会って夏休みの最後の週だっけ?」
「そうよ」
そう俺たちが申し込んだGALAXYカップは夏休み最後の週に開催されるのだ。
だから夏休みの間は勉強もそこそこしつつ、他はゲーム三昧の日々になるだろう。
俺たちはRITの話をしながら、昼飯を食べていた。
「そういえば、今度あの2人と会うことになるわ」
「なんで?」
「今度2人がこっちの近くに来るそうよ」
もう1度オフ会をする約束などしていないので会うことは無いと思っていたが近々また会えるらしい。
会えるのは嬉しいが、なんでこっちに来るのだろうか?
こっちは東京とかと違い遊べる所で溢れかえっているわけではないので、来ても行き先に困るだけだ。
それに俺はあの2人から何も聞いていない。
「家に帰った頃には分かると思うわよ」
そんな事を話しているうちに昼休みが終わりに差し掛かっていた。
「じゃあ、また明日」
「じゃあね」
そう言って俺たちは屋上を後にした。
午後の授業を終えて家に帰ってくると、やたらと大きなトラックが家の前に止まっていた。
「なんだ?」
よく見ると引っ越し業者のトラックだと分かった。
引っ越しの予定なんてないのにどうしたんだろうか?
玄関に近づくと、作業服を着た男の人が俺の部屋のタンスを持って出てきた。
「ん!?」
それを見た瞬間、俺は強烈に嫌な予感を感じて急いで自分の部屋へと向かった。
「なにがあった……」
ベットと机の上のPC以外全てが消えていた。
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