第8話 大会申し込み
「随分と疲れてるね」
五月と帰っていると、疲れたなんて一言も言ってないのにそう言われた。
そんなに疲れた顔をしているだろうか?
実際疲れているけど。
昼休み、冬樹に呼び出されたと思ったらバカ辛い唐辛子が入ったトリュフチョコを食べさせられ、息も絶え絶え教室に戻ると「冬樹とどんな関係だ!?」と騒ぎ立てられ、挙げ句の果てには先輩に身体の関係だと誤解される。
こんな事があったら、疲れた顔になっても仕方ないだろう?
結局、先輩もクラスメイトも誤解したままだ。
冬樹と関わり始めた初日でこれとか先が思いやられる。
「実際、その…身体の関係なの?」
「断じて違う!!」
もし五月にまでも誤解されたら本格的にまずい事になるので強く否定した。
こいつは人脈が広く他クラスにも友人がいるため、今はクラスメイトと一部に先輩の間で治っている話が、瞬く間に学年全員に広まるだろう。
そうなったら俺は学年全員からヤリチン野郎とか呼ばれる未来が見える。
そんなの絶対イヤだ。
「じゃあ本当はどんな関係なの?」
「ネ友とのオフ会で会った」
冬樹が言ってた事と全く同じ事を言っているがこれ以外どう説明すれば良いのか分からない。
「筋肉痛の原因になったあの人たちとのオフ会?」
「そう」
五月にオフ会の件を伝えていて心底良かったと思った。
「ダークマターとメルタン?だっけ?」
そういえばあの時、冬樹はいなかったのか。
「あとあの時いなかったエンジェルって奴がいる」
「あーなんかそんな事言ってたね」
俺そんな事言ってたか?
まあ別に言ってたところでどうという事はないけど。
「で、オフ会したらエンジェルって人が冬樹先輩だったと」
「そうそう」
五月は理解が早くて助かる。
今日来たみたいなヒステリックな先輩だと話が通じないからな。
「同じ学校って、そんな奇跡あるもんなんだな」
それは俺も驚いた。
会って話をしてたら、なんか聞いた事ある名前だっただもん。
しかも先輩で1番可愛いって言われてる人って。
俺は前世でどれだけ徳を積んだのだろうか?
「というか、ダークマターとメルタンって人はどうだったの?」
「どっちも女子」
「え?声、男じゃなかったっけ?」
数ヶ月前の出来事をここまで覚えてるとは流石、五月だ。
「ボイチェン使ってたんだって」
「そうだったの!?」
そんな反応にもなるだろう。
あいつら1人称も俺にして声も男にしてたんだから。
基本的に声で性別を判断するネットでボイチェンをつけられたら女子だと分かる訳がない。
「可愛いかった?」
やっぱり顔気になるよね。
「あれを可愛いと思わない人は男では無いのでは?と思えるくらいには可愛かった」
実際俺も顔は可愛いと思ったのでそう言っておいた。
性格はどうなのかって?
冬樹は面倒くさがりの若干ドSだという事が分かっている。
矢吹と優葉はネトゲ以外で1日しか関わって無いので知らん!
ネトゲでは性格が特別歪んでいるということは無かったが実際はどうなんだろうか?
俺も気になるところだ。
「じゃあね」
1人でそんな事を考えていると、五月と別れる道まで来てしまっていた。
「おお、じゃあな」
そう言って別れた。
今日のところは五月の誤解も解けたし大丈夫だろう。
「よし!じゃあゲームすっか!」
俺はいつも通りゲーミングチェアへと向かった。
「あー、一昨日ぶりだね」
通話に入ると矢吹のそんな声が聞こえてきた。
実は俺、昨日ゲームを出来ていない。
だから今めっちゃRITをやりたい。
「オフ会ぶりっすね!!」
「こんばんわ!」
もう女子だと隠す必要が無くなったので3人ともボイチェンは取っているようだ。
優葉は元気なままだが、冬樹がいつもより声のトーンが高い気がする。
「ねえねえ、前に言ってた大会の話なんだけど、登録するホームページのURL貼るね」
「おお、分かった」
そういえば焼肉屋で大会出ようとか話してたな。
画面にURLが貼られた。
クリックするとGALAXYカップという文字が表示された。
GALAXYカップというのはRITの大会の中で2番目くらいにデカいと言っても良いくらいの大規模な大会だ。
日本、海外問わず色んなところから有名選手が来る。
詳細を見てみると、俺たちは出場条件を満たしていた。
俺たちは4人はRITの古参なのでそこそこランクも高く、始めて知ったが大会にも出れるほどだったらしい。
「マジで出んの?これ」
正直なところ勝てる気がしない。
世界中から化け物じみた人たちが集まるのだ。
「想像以上に大きい……」
「まあ面白そうだしいいんじゃないすか!」
とはいえ、俺も面白そうだとは思うしプロ選手と戦えるかもしれないチャンスなのでこれ以上は何も言わずに本人確認のための住所、電話番号、メルアドなどを打ち込み始めた。
「このチーム名ってのどうする?」
4人で1グループなのでチーム名も決めなければならなかった。
「なんか格好いいのにしたいっすもんね」
「じゃあbeautiful girlなんてどうかしら」
beautiful girl=美少女、うん、俺男なんだよ。
「俺、男だからおかしいだろ」
「却下です」
「じゃあfortitudeなんてどうすかっ?」
速攻で却下され優葉は意見を出した。
fortitudeとは不屈の精神を意味している。
俺たちみんな大会初出場だし、この名前いいんじゃ無いだろうか。
というか、みんなよくこんなに英語がスラスラと出てくるな。
「fortitude、俺良いと思うけど」
「ミーも良いと思う」
「私もそれが良いと思うわよ」
冬樹と矢吹も賛成な様なので、チーム名を書く欄にfortitudeと打ち込んで登録を終えようとした。
すると「最後に登録料の支払いして下さい」との表記が出てきた。
「冬樹?これ大会出るの金かかんの?」
「1人1000円よ」
1000円なら高校生のお小遣いであれば払えなくも無い。
それに俺はRITに課金しないし、友達と遊びに行くということも無いのでお小遣いが溜まりに溜まっている。
「矢吹と優葉は払える?」
「ミーは大丈夫よ」
「大丈夫っす!」
2人もお金は大丈夫らしい。
万が一のためにスマホの中に何千円か電子マネーを入れているため、今回はそれで支払った。
これで登録終わりだ。
「よしじゃあやりますか!」
そしていつも通り、RITを始めたのだった。
「あのー樹君?」
「え?ああ、冬樹か」
朝登校していると後ろから冬樹がやってきた。
「ちょっと渡したいものがあるんだけどいいかしら?」
そう言って1枚の紙を取り出した。
「これを書いて今度持って来てくれないかしら?」
そこには住所やら名前やらを書く欄があり、契約書か何かだというのが分かった。
しかし肝心の契約内容が書いてない。
昨日大会の登録は済ませてあるし、なんの紙だろうか?
「これ何?」
「樹君は見ないで、両親に渡して。そしたら多分ハンコ押してもらえるから樹君は名前とか書いて私に渡して」
「ああ、分かった」
分かったとは言ったものの恐怖しか感じない。
だって契約内容教えてくれないんだもん。
まぁ両親の検閲を入れてというのだから変なものでは無いはずだけど。
そして俺は半信半疑でその紙を受け取った。
この紙切れ1枚がのちに俺たち4人の関係に変化を及ぼすものとも知らずに。
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