第7話 冬樹の適当言い訳が招いた悲劇
「久城、いつから冬樹先輩と仲良くなったんだ?」
「どこに食べに行ってたの?」
「ウラヤマシイ」
教室に戻った瞬間にみんなに取り囲まれた。
ただでさえまだ高校に入ってばかりで先輩と関わりあることが異常なのに、その相手が2年生で1番可愛い人だったらそりゃ問い詰めたくもなるだろう。
さて、あとはこれをどうやって説明するかだ。
五月に助けを求めようと思ったが教室にはいないようだ。
じゃあもう誤魔化すしかない。
多分、冬樹の様子的に学校ではクールで真面目を装ってるようなので
「ネトゲの友達とオフ会して会ってみたら冬樹先輩だった」
とでも言ったら冬樹のイメージ崩壊に繋がりかねないのでそれ以外の理由で説明する必要がある。
「普通に仲良くなった」
我ながら酷い誤魔化し方だと思う。
もっとマシな誤魔化し方はいくらでもあっただろう。
でもさ、仕方ないじゃん。
急に問い詰められたんだもん上手い言い訳出てこないって。
「こんな短期間で仲良くなれるわけないだろ」
ですよね、そう言われますよね。
俺が誤魔化そうとしたせいでさらに声が大きくなった。
「もしかして脅してでもいるのか?」
とんでもない憶測をしてる奴も出てきた。
もっと別な誤魔化しを考えないと。
「ねぇねぇ、冬樹先輩とどうやって知り合ったの?」
「イイナ、イイナ」
考えようとしているのだが、五月蝿過ぎてよく考えられない。
あと質問に混じって怨嗟と嫉妬の籠った声が聞こえたらり、視線を向けられたりする。
にしても人が多い。
俺の周りだけ人口密度がおかしなことになっている。
何か適当に誤魔化せるやつを早く……………あ、あった!
「そ、そうそう。俺と冬樹は親の繋がりで仲良くなったんだよ!」
最強の言い訳、親の繋がり。
大抵は親の繋がりとでも言えば誤魔化せるし、みんな納得してくれるだろう。
「まぁ……それなら仲良くなることもあるか」
「ズルイナ」
一部は納得してくれたみたいだ。
怨嗟、嫉妬の声と視線は止まることを知らないけど、一旦騒ぎは落ち着いーー
「おい!1年の久城とかいうやつはこのクラスにいるか!」
まさかの先輩登場。
俺の教室に平穏は訪れなかった。
これでゴツい先輩とか来てたら、俺しばかれる気がすると思いながら先輩たちの方を見た。
幸い、滅茶苦茶身体がゴツいとかそういうのはなく普通の先輩という感じだったのでしばかれる事はないだろう。
いざとなったらこちらも反撃できる。
「俺ですけど」
「冬樹さんとどういう関係だ!」
どこかに呼び出されるのだろうと思っていたが、その場で単刀直入に聞いてきた。
しかし残念だったな、俺にはもう最強の言い訳があるのだよ。
いくらでも誤魔化すことはできる!
「親の繋がりで仲良くn」
「嘘をつくな、冬樹さんは秘密の関係と言っていたぞ!」
「うん?」
その先輩の1言でクラスは静寂に包まれ、俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
「どうなんだ?」
俺が黙っていると先輩が再度聞いてきて、クラスはさっきよりもうるさくなった。
「もしかして身体の関係なのか?」
先輩も勝手な憶測を大声で言い始めた。
何故みんな憶測することが好きなのだろうか。
そしてさっきの先輩の発言はクラスに混乱を招いた。
「身体の……?」
そんな呟きが聞こえる。
多分みんなの頭の中がこうだろう。
秘密の関係?もしかして身体の?だとしたら誤魔化そうとしたことにも理由がつく。じゃあ本当に身体の関係じゃん!
もう嫌になりそうだ。
スマホが震えた。
ホーム画面に通話アプリから送られてきた冬樹のメッセージが表示されている。
エンジェル(面倒だったから適当に言い訳した、あとわ…)
長くて写りきってないが、あとはよろしくとでも言いたかったのだろう。
打ちミスなのか「わ」になっているけど。
とんでもない言い訳をしてくれたもんだ。
おかげで俺の教室は地獄と化している。
するとまた、スマホが震えた。
メルタン(言い訳ってどういうこと?)
ダークマター(何かあったんですか?)
矢吹と優葉からのメッセージも表示されていた。
何故こいつはグループの方に送って……
じゃない!今は早く言い訳しないと!変な誤解が広まってしまう!もう広まってるけど。
「いや、あの秘密の関係っていうのは親の繋がりを指したことだと思います」
先輩なので一応敬語にしておいた。
「じゃあなんであんな言い回しをしたんだ?」
「それはこっちが聞きたいですよ」
適当に誤魔化したとはいっても、もっとマシな誤魔化し方は無かったのだろうか?
別な意味で俺より酷い誤魔化し方だ。
「あー樹君?大丈夫?」
その瞬間だった。
この大騒ぎの原因を作った人の声が聞こえ、足音が近づいてきた。
「冬樹さん!?」
そう冬樹が来たのだ。
俺にクラスにはかなりの人が集まっていたので遠くから見えたのだろう。
「本当に身体の関係なんですか!?冬樹さん!」
この先輩、オブラートというものをご存知ないのだろうか?
さっきから言うことが直球すぎる。
あと憶測を言うな。
「何をどうやったら身体の関係と誤解されるの?」
小声で冬樹が聞いてきた。
「それは冬樹がそういう誤解を生みそうな言い訳をしたからでしょ」
「それは樹君の言い訳の仕方が悪かったんでしょ」
こいつ…人のせいにしてきやがった!
とんでもない奴だ!
「私と樹君、ネ友とのオフ会で会ったんです」
「あれ?隠さなくていいの?」
小声でそう話しかけた。
俺は冬樹の名誉のために必死に隠していたのだが、冬樹が俺の努力を帳消しにするような事言った。
「言って良いってメッセしたじゃない」
まさか「わ」のあとが「たしの事、何も隠さなくて良いよ」だったのか。
だとしたら俺は無駄に騒ぎを大きくした事になる。
「あの、ネ友とのオフ会っていうのは?」
「言わなきゃ分からない?」
絶対言わないと分からないのに、なんか圧がある言い方をした。
あと無表情になっている。
説明するのが面倒になって、有無を言わせない雰囲気にしようとしたのだろう。
そして冬樹の思惑通り教室はさっきより静かになった。
「おい!お前ら!もう授業はじまるぞ!いつまで騒いでるんだ!」
突然どこからか先生が怒鳴ってきた。
前にある時計を見ると授業開始5分前だった。
「おい!だからいつまでここに居るんだ!」
先生が再度怒鳴った事によって、先輩たちも急いで教室へと戻っていった。
「じゃあねっ」
冬樹はまた笑顔に戻り、先輩に混じって教室に戻っていったのだった。
後書き
遅くなりました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます