第6話 恐怖のロシアンルーレット

「久城樹君いますか?」


誰かに名前を呼ばれた。


が、生憎俺を呼ぶような人物は他クラスに居ない。


委員会や部活などもまだ始まってない上に、他クラスに友達が作れるほど俺のコミュニケーション能力は高くない。


要するになんで呼ばれたのか全く分からないということだ。


だから、普段反応してしまった。


「はい、久城樹は俺です、あ」


「あ」


教室に入ろうとしてきた冬樹とバッチリ目が合ってしまった。


周りの男子は「あれが噂の先輩が」「超可愛い」などと言っている。


そんなに噂になってたのか……


と、感嘆している場合では無い。


なんで冬樹が俺の教室に?


昨日、電車の中でボッチ飯だと言っていたが俺を煽りにでも来たのだろうか?


もしくは、一緒に食べに来たか……


我ながらキショすぎる妄想をしてしまった。


一昨日関わりが出来たとはいえ、一緒に昼飯を食べるほどの仲にはなっていないはず。


「あ、あの樹君、い、一緒にた、食べないかしら?」


訂正、冬樹の中では一緒に食べるほどの仲になっていたらしい。


というかさっきの発言でクラスがざわめいている。


先輩で1番可愛いと称されている人が1年の教室まで来て、男子生徒を昼食に誘ってるんだから当然だ。


男子たちが嘘だろコイツみたいな目で俺を見ている。


何を思っているのか分からないが、俺たちは偶々ネトゲで仲良くなっただけだ。


とはいえ誘いを拒否する理由も無い。


「分かりました」


そう返事をして弁当持って立ち上がった。


「屋上で食べよう?」


中学校は屋上が立ち入り禁止だったが、冬樹情報によるとこの学校の屋上は普通に人が立ち入る前提なのか屋根が作られているらしい。l


だから、普通にご飯を食べれるほどには綺麗なはずだ。


「地味に階段長いな……」


1年の教室は1階にあるので3階分の階段を登らなければならない。


あと、2階より上に行くのは入学直後の学校案内以来なのでどういう構造か分からない。


2、3階は当然先輩のクラスが多くある階なのだが沢山の先輩に睨まれた。


冬樹は見た目的にもかなりモテているはずだ。


先輩からしたら、入ってきてばっかりの見知らぬ1年と好きな人が一緒に昼食を取ろうとしてるわけだ。


睨まれるのも必然だろう。


「おい、そこの1年」


そして当然声をかけられると。


「何でしょうか……?」


離れろだの、どういう関係かだの言われそうな気がしてならない。


「あ……やっぱりなんでもない」


先輩は俺ではなく俺の少し後ろを見でそう言った。


そしてそのまま、教室へと戻ってしまった。


後ろを見ても冬樹が笑っているだけだ。


結局何が聞きたかったのだろうか?


俺は首を傾げるしか出来なかった。


そのあとは、声はかけられずに睨まれるだけで済んだのですんなりと屋上に行けた。


「人生初めての屋上はいかに……!」


屋上に続く扉を開けた。


「ちょっとぉ、こんなところで……」


「別に誰もいないんだからいいだろ……」


開けた直後そんな会話が聞こえてきた。


そこには若干まずい格好をしている先輩2人がいた。


「あ…………」


「あ…」


俺はまずいものを見てしまったと思い全力で目を背けた。


まさか学校であんな事をやっているとは思ってもいなかった。


先輩もまずいものを見られたと思ったのだろう。


2人とも俺たちの横を通り過ぎて中に戻ってしまった。


「あれは見なかったことにしましょう」


冬樹もまさかあんな場面に遭遇するとは思ってもいなかったみたい(というか遭遇すると思っていたらエスパーだ)で少し顔を赤くして少し早歩きでベンチに向かった。


「ふぅ」


ようやくご飯を食べ始めることができる。


屋上に行くだけであんなことになるとは思ってもいなかった。


「意外と人いないんですね」


「今日はいつも居るはずのサッカー部が居ないからね」


普段はサッカー部が居るらしい。


「ねぇねぇ、ロシアルーレットしない?」


弁当を食べ始めると冬樹が真顔でそんなことを言ってきた。


何故か分からないが悪寒が止まらない。


「なんでロシアンルーレット?」


俺を呼び出してまでロシアンルーレットをしたかったのだろうか?


「ここに8チョコがあるでしょ?そのうち1つはチョコではない全く別の味がする」


そう言って冬樹が開けた箱には8つのトリュフチョコレートが入っている。


どうやらチョコでロシアンルーレットをやりたいようだ。


俺の悪寒はこれによるものだったらしい。


「全く別の味っていうのは……?」


「食べてからのお楽しみっ」


顔さっきまでの真顔はどこへやらニッコニコの笑顔に変わっていた。


「いや……やめておく」


嫌な予感しかしないので俺は拒否した。


あの笑顔は裏の理由がありそうだったからだ。


「あれ?チキっちゃうの?あーでも仕方ないかーボッチだからノリ分かんないかー」


明確に煽られた。


しかも今の煽りめっちゃ効いた、文字通り頭がピキッとした。


「やってやるよ、チョコ選ぶから見せて」


そして見事にその挑発に乗ってしまった。


単純すぎるとは思ったが俺はあの煽りに耐えることが出来なかった。


「じゃあこれにするわ」


少し悩んで俺は右から2番目のトリュフチョコを選んだ。


「よし、じゃあ口に入れた瞬間チョコを噛み砕いてね!」


言われた通り俺はチョコを口に入れ勢い良く噛み砕いた!


「…………あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ」


口の中で凄まじい痛みを感じ、身体中から汗が噴き出てきた。


それに辛いじゃない、痛いんだ。


劇物でも口にしたのではないかと錯覚したほどだ。


何かチョコではないものを噛んだ気がした、その直後の出来事だった。


「残念〜ハズレ〜、8分の7を引くとは運が悪いね〜」


笑いながらそう言ってきた。


今聞き捨てのならない事を聞いた気がする。


「おい、さっき8分の7とか言わなかったか?」


いくら水を飲んでも口の中の痛みが落ち着つかないのでヒリヒリしたまま聞いた。


「言ったよ!」


言ったよ!じゃあ無いんだよ。


それもうロシアンルーレットじゃないやん。


ハズレの方が多いのであればそれはただのくじだ。


「ちなみに何の味?分からなかったんだけど」


口の中が痛かったので、辛いものだとは分かったが何かまでは分からなかった。


「キャロライナリーパー」


「予想は出来たけどとんでもないもん入れてるな!?」


キャロライナリーパーとは世界1辛いと言われている唐辛子だ。


丸っこい見た目をしているのでトリュフチョコにも綺麗に隠れたのだろう。


あのチョコじゃない何かはキャロライナリーパーを噛んだ食感だったらしい。


正直言って今も結構痛みに耐えている。


というか悶絶しないで耐えられている俺凄いのでは?


「どこに売ってたんだよ……」


「Amazonで買った」


今日ほどAmazonを恨んだ日はないだろう。


俺はそのあと痛みの走り続けている口で昼食を食べ始めたのだった。


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