第5話 帰りの電車での笑み

「まもなく川崎〜川崎〜」


「ねぇねぇ」


家の最寄り駅に着くまで電車に乗っているろ後ろから声をかけられた。


「誰だ?ーーなんだ、冬樹か」


冬樹が俺のことを見ていた。


住んでる県が同じなので同じ電車に乗っていたようだ。


そして俺も冬樹を見た。


改めて見ると、本当に天使のようである。


綺麗な銀髪にシミ1つ無い真っ白い肌だし、顔立ちも整っている。


あと、結構大きな双山がある。


「そういえば、同じ高校なんだっけか?」


不埒な事を考えそうになったので冬樹に話しかけた。


「そうよ、私も同波高校」


まさか、先輩の中にこんな美少女がいたとは。


入学してまもないとはいえ、気付かなかった俺の目は節穴なのかもしれない。


入学式の時に先輩はいたので銀髪はとても目立っていただろうに。


「そういえば、冬樹は何か部活入ってるの?」


「どこも入って無いわよ。自分で言うのもあれだけど私が入ってしまうと人数の偏りが起きてしまうから」


言われてみると、確かに偏りが発生しそうだ。


ましてや、サッカー部などの男子が主な部活にマネージャーとして入部したら、転部するやつもでてくるだろう。


可愛すぎるのも悩みの種、か。


というか、冬樹って何組なんだろうか?


「冬樹って何組なの?」


「1組よ」


俺のクラスの1年1組と2年1組は距離が遠い。


どうりで俺が名前しか知らないわけだ。


まぁ仮に、クラスが隣でも俺はあまり人に興味を持たないので名前しか知らなかったと思うけど……


「樹君は何組なの?」


「俺は1組です」


「へぇ〜」


一瞬天使のような笑みから悪魔のような悪い笑みが見えた気がしたが気のせいだろう。


というか気のせいだと信じたい。


この天使のような人が悪い笑みを浮かべてるのとか見たくない。


「ねぇねぇ、樹君はいつもお昼誰と食べてるの?ボッチ?」


なんだこの人、急に俺のこと煽ってきたぞ。


だが残念、俺には五月という腐れ縁の友達ががいるのでボッチではない!


と言いたいところだが五月は俺と違い、社交的で友達が多い。


だから、俺はボッチで食べていた。


いつも教室の端っこで1人で食べている。


「ボッチだけど……」


「へぇ〜」


またさっき見た気がする悪い笑みを浮かべた。


あの笑みは気のせいじゃなかったらしい。


なんか悪いことを考えてそうな笑みだ。


何を考えてるんだろうか……怖い……


「逆に冬樹はボッチじゃないのか?」


いかにも人付き合いが良さそうという感じなのでボッチでは無いだろうが一応聞いてみた。


「え?ぼ、ボッチじゃ無いよ?」


めっちゃ目が泳いでるし、少し声が震えてる。


明らかに嘘をついている様子だ。


「え?嘘でしょ?ボッチなの?」


「ボッチじゃない!」


力強く睨んでくるが、少し顔が赤いせいであまり迫力がなくどっちかといえば可愛くなっていた。


その証拠に電車の男性乗客が冬樹の事をチラチラと見ている。


「じゃあ今度教室に行って確認してみるかーー」


さっき煽られたので少し仕返しをしてやろうと思い俺はわざと棒読みでそう言った。


「はいはい、本当はボッチですよ。すいませんねー」


こいつ開き直りやがった。


「まもなく川崎〜川崎〜」


もう少しからかってやりたかったが最寄り駅に着いてしまったようだ。


「俺降りるわ、じゃあな」


「じゃあ”また”ね」


別れの挨拶を告げて俺は電車を降りた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くっ、あの程度の運動で筋肉痛とは」


俺は週明けの体育の授業での50m走で筋肉痛に苦しめられていた。


昨日の朝、起きた時に少し違和感があったのだが、今朝起きると違和感ではなく痛みへと変化していた。


あの程度の運動で筋肉痛になるとは、俺が思っていた以上に運動不足だったのだろう。


というか、あれを運動と呼んでいいのだろうか?


「あれ?樹、足痛いの?」


五月が話しかけてきた。


こいつは運動神経がめちゃめちゃ良く5.8秒とかいうイカれたタイムを叩き出していた。


「ああ、そうだよ」


「なんか怪我したの?」


「ネ友とオフ会で歩き回ってたら筋肉痛だ」


別にオフ会をしたことは隠すことでも無いので五月にそう言った。


それに五月は俺がネトゲにのめり込んでいて、特定の人とやっている事を知っている。


なんならエンジェル、冬樹がいなかった時に変わりに入ってやったこともある。


「あー、あの人たちとね」


「次、久城だぞ〜」


「げっ」


どうやら俺の番が来てしまったようだ。


そして、運動不足&筋肉痛というデバフのかかった帰宅部志望の俺には、まともなタイムを出すことが出来なかった。


「キーンコーンカーンコーン」


俺が走り終わってちょっとしてから授業終了のチャイムが鳴った。


足が攣りそうになっていたが、幸い次は昼休みなのでゆっくりすることができる。


「ふぅ」


俺は定位置の角席に行き、母に作ってくれた弁当を開けた。


その瞬間だった。


透き通った声で俺を呼ぶ声が教室に響いたのは。


「久城、樹君、いますか?」


後書き


これからの投稿時間は今日と同じくらいになりそうです!

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