第3話 音ゲーファイト→リアルファイト

「マジでかいな」


神奈川では絶対に見ないであろう大きさの建物が沢山あった。


あいつらもデカい、広いとか言っている。


「さて、音ゲー対決っすよね!しばいてやりますよ!」


「随分自信満々じゃないか、出鼻を挫いてやるよ」


まず俺と優葉、矢吹と冬樹で対決して勝った人同士で勝負することになった。


「その太い指と腕でどこまでできるでしょうかねぇ〜?」


俺は中学時代ボクシングをやっていたことが原因で腕と指が太くて音ゲーには不向きな身体になっていた。


だが、舐められては困る。


俺は指が太い分、触ってる部分の判定が他の人よりデカいというズルに近い能力を手に入れたんだ。


だから負ける気がしない。


「じゃあ曲これしますっ!」


彼女は100円玉を筐体にいれ、このゲーム最高難易度の曲を選んだ。


「俺1番この曲得意だけどだいじょぶそ?」


(これは勝った)


そう確信した直後だった。


「じゃあ始めますね」


俺は画面右上を見て絶望した。


右上に相手の称号が出てくるのだが、その称号がこの曲をフルコンボの1つ上、AP(オールパーフェクトの略)しないと貰えないやつだったのだ。


そして俺はこの称号を持っていない。


得意とはいえ、難易度が高すぎるので殆どの人がフルコンボが限界だ。


「あれ?樹これ持ってないのか?」


「…………」


「これはボコボコに出来そうな予感、乙で〜す」


次の瞬間、大量のノーツが流れてきた。


そして2分後、俺は優葉の宣言どおりボコられていた。


優葉がAPに対し、俺はフルコンボも出来ていなかった。


「いや〜樹をここまでボコれるとは」


「……………」


「あれ?くやちくて言葉も出ないでちゅか?」


しかもめっちゃ煽りに来てる。


「コイツウザすぎるんだけど、助けて」


「自分から勝負挑んどいて負ける樹くんが悪いのでは?」


助けてを求めたが、素っ気なく拒否された。


「じゃあ私たちの番ですね」


矢吹と雪代の2人が筐体に100円玉を入れた。


「じゃあミーも、樹さんと同じ曲でいきますか」


「賛成!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いや〜まさか樹がビリとはね〜」


矢吹と冬樹のスコアを見てみたところ俺より遥かに高かった。


「屈辱だ」


RITではいつも俺が勝っていたから、コイツらにゲームで負けたのはこれが初めてだ。


あ、RITとは俺たちがいつもやっていてオフ会のきっかけになったfpsゲームのことだ。


「すまん、ちょっと用を足してくる」


ゲームに熱中していたからあまり尿意を感じていなかったらしい。


急にトイレに行きたくなってきた。


「じゃあ私たちゲーセンの中いるから戻ってきたら声かけて〜」


そしてトイレに行き戻ってくると


「連れがいるので無理です」


冬樹の感情の乗ってない平坦な声が聞こえた。


「どうした?戻ってきたけど………」


THEチンピラという感じの人が2人いた。


「あ、連れの人が戻ってきたのでさようなら」


優葉が俺の腕を掴んで、引っ張った。


「おいおい、待てよ、連れってのはお前のことか?」


「うん?」


あのチンピラ野郎が話しかけてきた。


「誰だよお前」


「やっぱり、お前が連れかよ、弱っちぃ見た目してんな。こんな美少女お前じゃもったいないだろ」


ナンパか。


3人がいくら美人にしろ、俺がトイレに行ってる数分の間にナンパされるとは。


都会って怖いな。


「3人とも俺の連れなんでどこか行って貰えませんかね?」


「は?テメェじゃもったいないから俺たちがもっと楽しい所に連れていってやろうとしてるって言ってんだろ!!」


「お前みたいなチンピラは黙ってろ」


中学時代、ヤンキーに絡まれることが何度かあったので、こういう輩の対応には慣れている。


なんでヤンキーに絡まれることが多かったかって?


俺の通っていた中学はかなり治安が悪く、喧嘩やカツアゲが横行していた。


それに加えて俺の見た目が弱そうだったから。


この2つが原因だろう。


いじめにターゲットにされたこともある。


そいつらは、今やどこの高校に行っているのかも分からないが。


だから俺はいじめられないようにボクシングを習い始めた。


それがまさかここで生きるとは、思ってもいなかった。


「クソインキャが、痛い目見ないと分からないのか。」


「はぁ、バカは痛い目見ないと分からないってのはこのことか」


「このクソインキャが調子乗ってんじゃねえぞ!!」


最後の煽りで怒りに沸点に達したみたいだ。


勢いよく殴りかかってきた。


これで正当防衛が成立するので俺が殴っても問題は無くなった。


殴りかかってきたチンピラ1人の鳩尾に思いっきりパンチを放った。


「ごほっ」


チンピラ咳き込んだ。


そしてそのまま床に倒れ込んだ。


「お前もやるか?」


もう1人のチンピラに目を向けると、倒れている1人を置いてどこかへ行ってしまった。


「いや、お前らの絆薄っぺら過ぎだろ……」


「す、すいませんでした!」


俺が呆然としていると、今度はさっきのチンピラが俺に謝ってどこかへ行ってしまった。


「もうちょい俺が気をつけとくべきだったわ、ごm」


「「「ありがとう!」」」


俺の謝罪を遮って感謝を伝えてきた。


お礼を言ってくれてるのに謝るのも変なのでその後は謝らないでおいた。


「で、これからどこ行く?」


3人からの返答はない。


代わりに何故か少し顔を赤くしている。


「…………わ、私もうゲーセンから出たいっす!」


少し間を開けて優葉がそういった。


ナンパされたから出たくなるのも当然か。


「じゃあ出るか」


「はいっす……」


ついさっきまで五月蝿かった3人がしおらしくなっている。


「お前ら大丈夫か?あのチンピラに何かされたのか?」


あまりの豹変に俺はあのチンピラに何かされたのではないかと疑った。


もし何かされていたら、あのチンピラを見つけ出しボコボコにすることになってしまうが。


「だ、大丈夫っすよ、何もされてないっす。ちょっと疲れただっけっすよ、ね、2人とも!」


「あ、ああそうよ、大丈夫」


「ミーも大丈夫……」


疲れていただけだったらしい。


「で、ゲーセンから出てどこ行く?」


「ミー、お腹減った」


時間を見てみると午後5時だ。


外歩いてたし、このくらいの時間にはお腹が空くのは当然か。


「財宝島行きたい」


冬樹がそう言った。


財宝島とは焼肉屋で1人2000円くらいで食べ放題に出来る。打ち上げなどで定番のお店だ。


「じゃあ財宝島でいいか?」


「ミーは良いよ」


「私も良いっす!」


2人の同意も得れたので俺たちは少し早めの夕飯に向かったのであった。

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