第105話 取り調べ 2
「凄えな。あの夫人、自分は知らぬ存ぜぬで、最後には旦那に全部なすりつけたぞ」
「嘘泣きも、なかなか堂に入っていたよね」
小部屋から出た私達は、かなりゲンナリしていた。全て他人のせいにする伯爵夫人の態度は不愉快だったし、知らないと申し開きをするにはあまりに無理があったからだ。
「今の取り調べの様子をカメルーラ伯爵に知らせてみたらどうだ。あんたの奥さん、全部あんたのせいにしてたぜって。怒って本当のこと喋るかもしんねぇぞ。その様子を伯爵夫人にも見せたら面白くないか?」
お互いに話を合わせない為に別々に聴取しているのだろうが、このままだとみんな自分は知らなかったで話が進まなそうだし、確かにエドの提案が起爆剤になるかもしれない。
カメルーラ伯爵は一人で逃げ出そうとしたらしいし、妻をかばって自分が罪をかぶるタイプではないだろうし。
「それいいな。ちょうどカメルーラ伯爵の聴取も始まったようだから、ちょっと行ってみようか。おい、カメルーラ伯爵夫人を十分後に監視部屋に連れてくるように」
ダンテ中隊長は、側にいた騎士に声をかけると、今度は取り調べ室に私達を連れて入った。
中には横柄な態度でふんぞり返るカメルーラ伯爵と、男性騎士が二人、記録係の騎士が一人いた。
「なんだおまえは!」
部屋に入ってきた大柄な
大柄なダンテ中隊長が一番最初に部屋に入ったせいか、カメルーラ伯爵にはダンテ中隊長しか見えていないようだった。
「中隊長」
取り調べ用の椅子に座っていた騎士が、立ち上がって敬礼した。
「中隊長?ふん、こいつらよりは格上か。私はカメルーラ伯爵だ。伯爵である私をこんな場所に連れてきて、ただで済むとは思うなよ」
「なるほど、ただで済まないのならどうなるんだろうな」
「ダンテ中隊長、後ろがつかえてるんだから、ドアの前を塞がないでくださいよ」
エドがダンテ中隊長を押して取り調べ室に顔を出すと、カメルーラ伯爵は慌てて椅子から立ち上がり、ヘコヘコと頭を下げた。私も続いて取り調べ室に入ってドアを閉めたけれど、大柄な二人のせいで中は見えない。
「これはエドモンド殿下。先ほど話していた物騒な薬のことで、勘違いがあるようです。あの瓶は妻がダンケルフェル公爵夫人からいただいたもので、私はそんな瓶の存在すら知りませんでした。私は全くの無関係、取り調べをされても埃一つでてきませんよ」
弱者には居丈高な態度を取って威圧するくせに、強者には腰が低いタイプなのか。きっと、騎士は爵位が低いか平民出身だろうくらい思っているんだろうな。
「そうか?あんたの嫁さんが、エドモンド殿下を誘惑する為に、エドモンド殿下のタイプの女を見繕って養女にしたって言ってたぜ。しかも、その養女に色々指示してエドモンド様にちょっかい出させたのもあんただってさ」
「は?いえいえ、アンリを見つけてきたのは妻です。いきつけの衣装店で良い娘がいるからって。まさかエドモンド殿下、そんな迷言はお信じになられますな。だいたいおまえ、私の妻がそんなことを言ったとか、ふざけたことをぬかすな!」
侯爵令息に「おまえ」はアウトじゃないかな。面白いから教えておいてあげようと、私は後ろから首を出してダンテ中隊長に話しかけた。
「ダンテ侯爵令息様、カメルーラ伯爵夫人はエドに薬を盛った件についても、自分は知らなかったって言っていましたね。あと、伯爵がアンリさんに指示を出したかもしれないともね」
カメルーラ伯爵は、こんな場所にひょっこり現れた私にも驚いたんだろうが、「侯爵令息」という単語を聞いて真っ青になってしまった。
しかもその後に、王子に薬を盛った首謀者だと自分の妻に罪をなすりつけられたのを知り、真っ青だった顔色が怒りでドス黒く変化した。
そりゃそうだ。王族に害のある薬を盛ったとなれば死罪確定らしいから、そんなことを軽々しく言われたら激怒もするだろう。
「待ってください。私は確かにダンケルフェル公爵に、エドモンド殿下を懐柔する手段として、エドモンド殿下の好みに沿った娘を探すように言われておりました。サンドローム公爵令嬢似の、さらに魅力を足したような娘を探していたのも事実です。しかし、実際にアンリを探し出したのは妻ですし、アンリに指示を出していたのも妻です」
カメルーラ伯爵は、死罪回避の為に顔に汗を浮かべながら必死に弁明を続ける。
「私がしたのは、エドモンド殿下とアンリの噂を扇動したくらいで、他は全くの事実無根!神に誓って宣言いたします。薬の件は妻が勝手にアンリにやらせたんです」
だから、この世界の神様は多分ただの人だって。私がいた世界の小説家なんだけどな。
「あなた!私がアンリに何をやらせたですって!?」
あ、もう聞いていたんだ。
部屋中にカメルーラ伯爵夫人の声が響き渡り、カメルーラ伯爵は見えない夫人を探すようにおっかなびっくり周りを見回した。
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