第104話 取り調べ

「とりあえず、女性陣は先に取り調べに入ってる。カメルーラ伯爵は王宮で拘束中で、晩餐会が終わったらダンケルフェル公爵と合わせてこちらへ連行予定だ」


 三大派閥の長であるダンケルフェル公爵を、王宮主催の晩餐会で大々的に拘束する訳にもいかず、晩餐会が終わるまで出席者に扮した騎士達が見張っているらしい。カメルーラ伯爵は、途中逃げようとする素振りを見せたから捕縛し、ダンケルフェル公爵についている騎士達との合流待ちだそうだ。


「ダンケルフェル公爵夫人はさすがだな。ほぼ、知らない、わからないしか言っていないらしい。ただ、瓶を従姉妹から貰い、それをカメルーラ伯爵夫人に譲ったということだけは言質が取れているから、カメルーラ伯爵夫人と令嬢の聴取の内容によっては、最悪極刑もありえる。公爵や伯爵は、関わり度合いにもよるが、爵位剥奪もしくは降格は確実だな」

「もし大丈夫なようなら、僕もダンケルフェル公爵夫人の取り調べに参加させてもらえませんか?」

「ステファン殿下がですか?」


 ステファン様は、にこやかな様子でダンテ中隊長に申し入れをした。その笑顔に腹黒さを感じるのは私だけかな?


「はい。僕ならば彼女に本当のことを証言させることができると思いますよ。ただ一つ、僕が内密にと言ったことを聴取書に載せないで貰えればですが」

「承知いたしました。シャンティ国第二王子殿下をダンケルフェル公爵夫人の取り調べ室に案内しろ。それと、殿下の発言の記載はしないように」


 ダンテ中隊長が側にいた騎士に命令すると、ステファン様は騎士と共にダンケルフェル公爵夫人の取り調べ室に入って行った。そっちの様子も気にはなったが、私とエドはカメルーラ伯爵夫人が取り調べをされている部屋の隣にある小部屋に入った。

 監視部屋と呼ばれているこの小部屋からは、カメルーラ伯爵夫人の取り調べの様子が見ることができた。


 壁にはマジックミラーが仕込まれており、それを覗くと質素な椅子に腰掛けた派手なおばさん(カメルーラ伯爵夫人)と、その向かい側に騎士の女性二人が座っていた。壁際にはもう一人、若めの男性騎士がいて、会話を記録しているようだった。

 あちらの会話が聞こえるように、こちらの声も聞こえるから、部屋の中では喋らないように言われていた私達は、取り調べの様子をただ黙って見守った。


 ★★★カメルーラ伯爵夫人取り調べ室★★★


 注)(カ)カメルーラ伯爵夫人、(騎)取り調べ中女性騎士


(カ)「ですから、私はあれがなんだかわからずに、アンリにあげたんです。公爵夫人がアンリの境遇に同情してくださって、綺麗な瓶だから娘さんにってくださったから」

(騎)「なんの説明もなく?中身の入っている瓶を受け取ったんですか?」

(カ)「だから、さっきからそうだって言っているでしょう」

(騎)「アンリさんは、数ヶ月前に養女になさったんですよね?」

(カ)「そうです。十七年前に誘拐された娘だと、一目見てわかりましたから」

(騎)「十七年前と言いますと、アンリさんは一歳ですね」

(カ)「一歳になる少し前でした」


 カメルーラ伯爵夫人はハンカチで目元を押さえる。取り調べ中の女性騎士は、資料をペラペラとめくった。


(騎)「確かに、ご令嬢の行方不明届けは出ていますね」

(カ)「あなた方がしっかり捜査してくれないから、私達が自力で探し出したんです!」

(騎)「なるほど、一歳の時に誘拐された娘と再会し、一目で母娘だと認識した。アンリさんについては調べたりはしなかったのですか?」

(カ)「それと今回の話に何か関係ありまして!?血の繋がりがあれば、直感でわかるものなんです」


 それはないな……と、私は自分の経験から思った。

 実際に血の繋がりがあったのは私で、アンはただ母親に似ているだけの他人だった。でもあの人達(本物の両親)は、他人を娘扱いして本物の娘を捨てたんだよね。血の繋がりがあれば直感でわかるのなら、私はいまだにゴールドバーグ伯爵令嬢だっただろう。


 エドが私の手を強く握ったから、私もエドの手を握り返してみた。あのことは、私の傷になんかなっていないよと知らせる為に。


(騎)「そうですか……。しかし、アンリさんのいた孤児院に問い合わせしましたら、彼女は生まれてすぐ、まだ臍の緒もついた状態で孤児院に捨てられていたそうですが」

(カ)「そ……それは……孤児院の方の記憶違いでは。いえ、もし仮にあの子が私達の本当の子供じゃないとしても、私達の愛する娘に似たあの子を見つけたのは運命なんです。神様が子供と生き別れた私達を慰める為に、あの子を私に合わせてくれたと信じています」


 運命なんだ。凄いな。この場合の神様は、「平民ですがなにか!?」の小説の作者だろうか?


(騎)「運命ですか。それでは、アンリさんの背格好や雰囲気が、第三王子殿下の婚約者であるサンドローム公爵令嬢に似ているのは偶然ですか?わざと、そういう娘を選んで養女にしたのではなく?」

(カ)「な……、たまたま似ていただけで、うちのアンリの方が美人ですし……スタイルだっていいじゃありませんか。そうよ、全然似ておりません」


 確かにそうなんだろうけど、むかつく!エドが耳元で「おまえのが可愛い」って囁いてくれたから良しとするけど。


(騎)「そうですか?しかし、カメルーラ伯爵に娘探しを依頼されたという人物の裏が取れていまして、見た目や背格好を細かく指定されたと。髪の色や目の色、黒子の有無とかならわかりますが、一歳から合っていない娘の背丈や体型などわかりますか?失礼ながら、カメルーラ伯爵も伯爵夫人も、小柄で華奢とは言い難い体型をなさっておいでですし」


 確かに、カメルーラ伯爵夫妻とアンリが並んでいて、似ているところなど一つもなかった。娘だと直感でわかったと言うのはかなり無理があるんじゃないだろうか?


(騎)「第三王子殿下の趣味にあった娘を養女にし、第三王子殿下を誘惑させようとしたんではないですか?」

(カ)「まさかそんな……。夫が何を思って娘を探していたのかはわかりかねます。もしかしたら、夫にはそんな思惑もあったのかもしれませんが、私は心からアンリが本物の娘だと思っただけです」

(騎)「しかし、学園でアンリさんが第三王子殿下に付き纏っているという証言も取れています。第三王子殿下とアンリさんについての噂を広めるように、カメルーラ伯爵に頼まれたという、男爵家や子爵家からも証言が取れていますよ」

(カ)「夫がそんなことを?アンリが第三王子殿下に付き纏っていたことも知りませんでした。もしかすると、夫がアンリに何か指示を出していたかもしれませんが、私は本当に何も知らないのです。」


 カメルーラ伯爵夫人は机に突っ伏し、騎士達が何を聞いてもただ泣き声を上げるだけだった。



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