第101話 晩餐会
だから、この配置おかしいって。
正面に王族(私がど真ん中)が横並びに座り、その前に長いテーブルが縦に十列以上並び、向かい合って貴族達が座っている。後ろの方に座っている人なんか、顔の識別がつかないくらい遠い。
王様の挨拶で晩餐会が始まり、和やかな雰囲気で談笑しながらし食事を楽しんでいるが、これから断罪劇が始まるのかと思うと、せっかくの豪華な食事にも手が進まない。
多分、この会場にいる貴族は皆、なんで私がここに座っているのか謎に思っていると思うよ。なんかね、視線が痛いもの。場違い……って顔に書いてある気がする。
「ほら、アンネの好きなトマトのマリネだ」
エドがフォークにトマトをプスッと刺して、私の口元に持ってきた。いやいや、待て待て。目の前に座る貴族達がガン見してるから。バカップルじゃないんだから、衆目の前で「アーン」とかしたら駄目でしょ。お妃様、そんなホノボノとした視線を向けてこないでください。
エドは厳つい表情のまま、私の目の前からフォークを退けようとしない。せめて甘々な表情……ができたらエドじゃないか。
私はエイヤッと口を開けて、エドのフォークから食べたわよ。エドが良い子とばかりに私の頭を撫でてきたから、もう諦めた。餌付けされているように、エドの手から食べたわよ。
もうね、「無」になるしかないよね。
ほとんどのコース料理を食べ終わり、あとはデザートのみになった時、エドは自分の分のケーキを食べきると、私の分のケーキにも手をのばして食べ始めた。
子供みたいななりをしている私だけれど、甘い物は苦手なのよ。そんなことは他の人は知らないから、「ケーキだけ奪うとか、なんで?」みたいな表情になってしまっている。
まさか、「私、甘いの苦手なんです」ってアピールする訳にもいかず、最後の一口になった時、私はフォークでケーキをすくうと、エドの口に突っ込んだ。
フフン、最後の最後で「アーン」仕返してあげたわよ。
「ヤバッ……いっちゃんうまい」
大声で言った訳じゃないのに、エドの低い声が会場に響く。
しかも、厳つい顔をほんのり上気させて、ヤバイのはこっちよ!こんな大男のことが可愛いとか思っちゃったじゃん。もう、ギュッとしたくなっちゃうよ。
エドが私の頭を自分の胸に引き寄せた。
「ちょっと、何してるのよ」
「おまえこそ、なんて顔を晒してんだよ」
「どんな顔よ」
「エロい顔」
「ハァッ!?」
思わず素になって、エドの胸をバシバシ叩く。エドはニマニマ笑いながら、そんな私の頭をグシャグシャに撫でる。
「エドモンド、いくら婚約者であるアンネ嬢が可愛くても、そんなに力任せに頭を撫でたら、せっかく綺麗に結った髪型が崩れてしまうじゃないか」
「そうよ。せっかく私がプレゼントしたヘアアクセサリーが曲がってしまったではありませんか」
アイザック様が苦笑しながらエドモンドにストップをかけ、王妃様も王様の隣から顔を出してエドに文句を言う。私の隣に座っていたメリル様が、さりげなく私の髪型を直してくれた。
そんなエドの溺愛ぶりと、王族にも可愛がられている私を見て、貴族達の認識も変わったようで、晩餐会後の場所を移しての懇親会では、沢山の貴族が挨拶に寄ってきた。
私の右横にはエドが、左横にはロイドお父様が立ち、体格の良い二人に挟まれた私は、捕まった宇宙人みたいに見えることだろう。
「これはサンドローム公爵、ご無沙汰しております。珍しいですな、公爵がこういう公の場に出席なさるのも」
「ああ、ダンケルフェル。久しいな」
この人がダンケルフェル公爵!
鋼色の髪の毛に、鷲鼻が特徴的な神経質そうな風貌をしている。痩せ型長身で、その腕にはブロンドのふくよかな女性をエスコートしていた。年齢的に彼女がダンケルフェル公爵夫人だろう。
「公爵様、エドモンド殿下、ご挨拶申し上げます」
ダンケルフェル公爵夫人がカテーシーをし、明らかに視線は二人だけに向けられ、私のことはスルーしていた。
ロイドお父様はエドに目配せすると、ダンケルフェル公爵と他の貴族達に話しかけにいった。公爵と公爵夫人を離して、夫人に探りを入れろということらしい。
「そうだわ、私の親しくしている友人の娘さんが、エドモンド殿下と同級生だと聞きましたわ。確か、今日も来ていた筈……」
ダンケルフェル公爵夫人はキョロキョロと辺りを見回し、ある方向を見て手を上げた。
するとすぐに中年の夫婦とアンリさんが小走りでやってきて、周りにいた貴族達を押し退け、エドの真正面に立つ。
「王国の太陽、第三王子殿下にご挨拶申し上げます」
「カメルーラ伯爵と、その夫人です。娘さんのことは、エドモンド殿下はよくご存知ですわよね」
アンリさんは、ピンクゴールドの髪に小さな生花を散りばめ、可愛らしさを強調するメイクをしつつ、胸元がガッツリ開いたドレスを着て色気をアピールしていた。そのアンバランスさがコケティッシュな魅力と言えなくもないが、下品に感じてしまうのは、ない者(どこが!とは言わないけどね!!)の僻みだろうか。
「エドモンド様、ごきけんよう」
アンリさんはエドの隣に立ち、小首を傾げて軽くカテーシーをする。きちんとしたカテーシーではないが、胸の谷間を強調しつつ、自分を可愛く見せる角度を研究したのだろう。微笑んでいる口元には、「あたしから目が離せない筈よ!」という自信が浮かんでいた。
しかし、エドは全くアンリさんは見ておらず、その後ろに控えていた貴族達に目配せした。目配せされた貴族達は、自然な様子でダンケルフェル公爵夫人、カメルーラ伯爵夫妻並びにアンリの後ろに移動した。
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