第100話 王族女子会
「王家主催の晩餐会?この時期にですか?」
秋の社交シーズンも終わり、領地住まいの貴族達は領地に戻ってしまっているこの時期、大々的な晩餐会を開くのは珍しかった。
「ええ、これが晩餐会に招いた貴族の出席表。アンネちゃんはもちろんエドの婚約者として王族の席ですからね」
王子妃教育の休憩時間、アンネの目の前で優雅に紅茶に口をつけているのは、王太子であるアイザック様の妃であるメリル様だ。儚げな美貌の彼女だが、実は豪胆な性格をしている。そのメリル様の華奢な指が、晩餐会の出席表をめくり、席次表を指し示した。
一番前の中央……って、そこは王様と王妃様の席じゃないですか?エドの隣に王様と王妃様、私の隣にメリル様と王太子、あとクリストファー様が何故か一番端。王妃様の隣には、貴賓扱いでステファン様もいた。私の向かい側にロイドお父様やアイラ様夫妻もいる。何故、私が王族のど真ん中?
「周りには私達がいますから、安心していらっしゃい。ドレスはエドが新調したようですから、アクセサリーは私が選ばせてもらいましたの。アンネちゃんの愛らしさをたっぷり演出できていると思いますよ」
「はぁ……」
ニコニコして手をとってきたのは王妃様、エドのお母様だ。
「ずるいわ、お母様。私もアンネお姉様のアクセサリーを選びたかったのに」
プンプンと怒りながら可愛らしいことを言ってくれているのは、末っ子のカナリア様で、淡いピンクブロンドの光沢のある髪の毛を編み込んでハーフアップにしている姿は、まるで妖精のように愛らしい。厳つい顔のエドと兄妹とは信じられない。
「まぁ、出遅れましたわね。では、わたしはこちらをプレゼントしますわ」
ゴージャスな美女、アイラ様がテーブルに綺麗にラッピングされた袋を置いた。
「これは?」
「実は、最近始めた事業があってね、これはその試作品なのよ。着け心地とか、モニターになってくれると嬉しいわ。こっちはメリル妃に」
「あら、お母様にはないの?」
「……あげてもいいけど、これ以上年の離れた弟妹ができてものねぇ。はいはい、差し上げますよ」
そうは言いつつ、きちんと用意してきたのだろう。アイラ様は王妃様に袋を手渡した。
「アイラお姉様、カナリアには?私にはないの?」
「うーん、カナリアにはこっちね。これはもう少し大きくなってから」
カラフルなキャンディーの入った瓶を取り出し、カナリア様に手渡すと、「子供扱いして!」と怒りながらも、キャンディーを一つ口に入れてほっぺたを押さえて顔をほころばせていた。
「ありがとうございます。いったい何……」
袋を開けて中身を出してみて、思わず言葉をなくした。
「あらあら」
「まっ」
王妃様とメリル様も袋の中身を確認したようだ。
袋の中身は、薄くて布面積の小さな紐状の物体が入っていた。しかも、上下セットが多数。
「これ、縫製ミスではなくて?穴が開いてますわ」
メリル様、堂々と広げるのはどうかと思いますよ。カナリア様に説明できないじゃないですか。
「それは穴が特徴なんです。下着をつけたまま……」
アイラ様は王妃様に口を押さえられていた。
「カナリア、そろそろダンスのレッスンの時間ではなくて?」
「え?まだ大丈夫だと」
「先生を待たせるのは良くないわ。先に待っているくらいじゃないと。リサ、カナリアをにレッスンの準備をさせてちょうだい」
カナリア様は侍女に連れられて談話室から出て行った。扉が閉まるのを待ち、王妃様は身を乗り出した。
「で、これはどうやって着けますの?」
王妃様、ノリノリだね。
「ウフフ、これは下につけます。横で紐で結ぶんです」
「じゃあこの穴は?」
「下着をつけたまままぐわうことができるんですよ」
「「まァッ!」」
王妃様、メリル様がハモったよ。いや、そこに指を出し入れしない方がいいですよ。「こういうことね」じゃないですよ、メリル様。
「ぜひ、男性目線の感想も知りたいので、アイザックとエドにはそのうち会いに行くと伝えておいてね」
「お父様には聞かないの?」
アイラ様は微妙な表情になる。いくら姉妹のように見える母娘だとしても、やはり親のアレやコレやは知りたくないものだろう。
それにしても、私には違う世界の記憶があるから、この手の下着の存在は知っているけれど、アイラ様はよく0からこの形を作り上げたな。その想像力は逞しいものがある。
「それは遠慮しとこうかしら。で、こっちは紐パンティー。これがなにげに優れ物で、タイトなドレスを着ても履ける下着なんですの。あとはね、背中が大胆に開いたドレス用の下着とか、そもそも見えても良い下着」
「このヒラヒラはなんですの?」
メリル様が手にしたのは、いわゆるベビードールと言われるナイティーだ。しかも、かなり攻め攻めというか、可愛らしさよりもドエロを全面に出したやつだ。
「寝巻きですわ」
「まァッ!」
ですよね、清楚なメリル様には刺激が強いですよね。
ベビードールを広げてガン見しているメリル様は、ショックを受けているのかと思いきや……。
「私、これの赤と黒が欲しいです」
注文してたよ。
「了解しました。明日までに届けさせてもらいますね」
「なら、お母様も欲しいわ」
「ご注文ありがとうございます」
晩餐会についての会話の筈が、いつの間にかエロ下着の販売会になってしまっている。
「あの……ところで晩餐会なんですけれど」
「あ、そうだったわね。この晩餐会で、ダンケルフェル公爵家とそれに繋がる家門の断罪を行うつもりなの」
王妃様、その会話は穴開きパンティー片手に話すことではないと思います。
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