第98話 危険薬物だったって
「この間のアレだけど」
「アレ?」
いわゆるピロートーク中、それまではまったりとした雰囲気だったのだが、エドは思い出したくないことを思い出してしまったという表情で、ベッドから起き上がった。
素晴らしい肉体美、割れた腹筋に盛り上がった胸筋、世の中の女性はこんな素晴らしい筋肉を醜いとか言うんだから、意味がわからない。むき出しになった上半身に、思わず見入ってしまう。
「エッチ」
エドが胸を隠すようにし、私はエドの脇腹をチョップする。
「で、アレって何?」
私は頭の上で丸まっていたガウンを素早く着て、エドと同じように起き上がり、ヘッドボートに枕を立てかけて寄りかかった。
「ほら、この間の夜会、あん時にあの女に盛られた薬。アレ、かなりヤバイやつだった」
「ヤバイって?まさか、依存性がある麻薬みたいな媚薬だったとか!?」
「いや、依存性はないけど、人間の凶暴性を極限まで高めるってのが主作用で、副作用として性的興奮を高めるんだと。戦とかで、狂戦士を作る為に作られた薬だった」
「なんだってそんな薬……」
媚薬は副作用とか、ちょっと意味がわからない。アンリ的には、媚薬でエドを落とすのが主目的じゃないの?
「薬はグラスの縁に塗られていて、わずかな量しか摂取しなかったからあの程度ですんだけど、小瓶一瓶くらいを飲むと、暴れ続けて最後は廃人になるらしいぜ。まさに狂戦士だよな」
「エドを狂戦士にして何をしたかったの?彼女、自殺願望でもあったの?」
「知るかよ。でも確かに誰かを殴り殺したい、全部壊したいって衝動は半端なかったな。アンネ見るまでは本気でやばかった。拳が砕けてもかまわないって思ったし、アンネがこなかったら、ドア蹴破って夜会会場に乱入してたかもしれないぜ」
私はまだ包帯の巻かれているエドの拳に触れた。拳は折れてはいなかったが、木の破片などでザクザクに切れてかなり深い傷ができていた。本人は包帯なんかいらないとたいして手当てもうけようとしなかったから、手当てしないと私の部屋に入れないよって言ったら、渋々傷の手当てをさせてくれた。包帯を巻いたら巻いたで、お風呂に入れないからお風呂の介助をしろってかなりゴネられて、まぁ、しょうがないからお手伝いしましたよ。
ただ、包帯を水につけない為に手伝いに入った筈が、エドがアレやコレや仕掛けてくるものだから、結局は包帯はびしょ濡れになり、巻きなおす羽目になったけどね!
話が脱線したわ。
エドの身体も傷つくような薬を仕込んだアンリに、怒りしかなかった。私のエドにこんな傷を負わせて、本当に許せない!
「そんな危険薬物、エドに使うなんて許せない!」
「まぁ、その副産物として、なかなかいい体験をさせてもらったから、俺的にはラッキーだったけどな」
あの時は、媚薬を使われたんだと思ったから、なんとか発散させなきゃって……。かなり積極的にしましたよ!否定はしませんよ!ただ、下手したら廃人になるような薬を盛られて、「ラッキーだった」はかなり引くからね。
「その薬って、簡単に手に入るものなの?」
「いや、一般人にはまず無理。危険薬物指定で、他国からの輸入も制限かかるから。一部商会のみ取り扱い可能だけど、そこから漏れたとは考え辛いな。シャンティ国原産の植物からできてる薬だから、あいつに聞いた方がわかるかもしれねぇな」
「それじゃあ、アンリさん個人が手に入れるのは難しそうだよね」
「ああ。うまく行けば、薬の流れから伯爵家に指示を出している奴も引きずり出せるかもしれない」
エドは、あいつに借りは作りたくないんだけどな……とつぶやきながら、ベッドから足を下ろした。
「そんじゃあ、ちょっと行ってくるか」
「え、今から?どこに?」
「シャンティの王子のとこだよ。夜に行くって、連絡もしてあるしな」
簡易なシャツとズボン姿に着替えるエドを見て、呆れて声も出ない。約束しているなら、私とアレやコレやする前に行ってきたら良かったのに。
「また戻って来るから、鍵、開けろよな」
「遅かったら寝ちゃうよ」
エドは屈んで私の頬にキスをすると、通常通り窓から出て行った。傷の手当てって名目で、普通に部屋に来たよね?そっちから出たらまずいんじゃないかな。
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