第94話 何かがおかしい 3…アンリ視点、後半アンリの母上視線
★★★アンリ視点★★★
「アンって、腰くらいまでの長い金髪で、緑色の瞳のスタイルの良い美人であってます?」
「さあ。僕は彼女を見たことはないからね。母上……ゴールドバーグ伯爵夫人によく似た女性だったとは聞いている」
小説でもそう書いてあった。だから、伯爵夫人もすぐに自分の娘だって気がついたみたいだし。
「なんで、アン・ゴールドバーグからアン・バンズに?」
「さあ?なんでも、騙されたってお二人共言っていたな」
「騙された?」
「ああ。二人の本当の娘だと言って近づいてきたのに、実は全くの赤の他人だったそうだ。貧しい男爵家の五女と、平民の娘が赤ん坊の時に取り違えられたらしい。それが君の言うアンだ」
アンが偽物!?
それって、本編すら破綻してるじゃん。
「じゃあ、アンとミカエルは?」
「ミカエル……ああ、アンネ嬢の元婚約者か。二人がどうなったかは知らないが、ミカエル君はうちの学園の最高学年にいるよね。アンとか言う娘は……ほらここ」
ゴールドバーグ先生が、さっきエドモンド様とアンネさんの婚約を讃える文面の下を指さした。
確かにそれには、アン・バンズの名前が載っていた。
「地下牢に投獄!?え?アンネさんの殺害未遂?アンネさんがアンをじゃなく?なんで?愛されヒロインが投獄って……」
「愛されって何?男癖が悪いってことか?君も気をつけた方が良い。平民では沢山の異性と関係を持つのは普通のことかもしれないが、貴族の世界ではあまり褒められたことではないからな」
ゴールドバーグ先生は、心底軽蔑するというように新聞を見下ろすと、挨拶もなく図書館から出て行ってしまった。
あたしは、それにも気付かずに新聞を食い入るように見ていた。
新聞には、平民時代からのアンの奔放な男遍歴や、平民から成り上がった経緯が書いてあった。
そりゃ、小説でもアンはクリストファー様やエドモンド様に思わせぶりな態度とったり、書いてはいなかったけど、行間を読み取るにかなり際どいことまでしてそうな雰囲気はあったけど、まさかここまでのビ○チとは思わなかったよ。
しかも、殺人まで目論むとか……。
ヒロイン怖ッ!
っていうか、これ、「平民ですがなにか?!」の世界であってる?スピンオフ的な世界だったりしない?
下手したら、あたしの二次創作小説ですらない可能性もでてこない?
下手にアンネさんを攻撃とかしたら、アンの二の舞いになったりするんじゃないの!?
この件は一回屋敷に持ち帰って、お母さんと相談しなくちゃ。
で、屋敷に戻ったあたしは、お母さんとお茶をすることになった。
「アンリちゃん、学園はどう?」
「うん、凄く楽しいわ。みんな親切にしてくれるし」
女子とはほとんど話したことないけど、男子生徒はチヤホヤしてくれるから嘘じゃないよね。
「アンリちゃん可愛いから、お母様は心配だわ。王子様くらいハイスペックな相手ならまだしも、変な男の子にひっかからないでね」
「大丈夫よ。そんなヘマはしないわ」
「そうよね。アンリちゃんは私の宝物よ。クリストファー殿下は女性にだらしないと聞くし、やっぱりアンリちゃんにお似合いなのはエドモンド殿下かしらね。どう?エドモンド殿下と同じクラスになって、エドモンド殿下もアンリちゃんに興味を持っているんじゃなくて」
お母さんは、あたしのことを本当の娘だと信じているみたいで、いつもあたしくらい可愛ければ、エドモンド様に見初められてもおかしくないって真剣に言っている。でも実際にあたしもそう思うし、あたしがヒロインの二次創作小説の世界なら、エドモンド様と結ばれるのはあたしだから、お母さんの思い込みって訳じゃないと思うわけ。
「持っているとは思うけど、なかなか進展はなくて」
「あら、そこは猛プッシュしないと。アンリちゃんくらい可愛い子にすり寄られて、嫌な気分になる男子はいないわ」
「でも……、エドモンド様には婚約者がいるから」
「まぁ、そんなこと気にしているの?略奪愛、素敵じゃない。最近、そういうのも流行っているみたいだし、選ぶのはエドモンド殿下ですもの。気にすることないわ」
お母さんに手をギュッと握られて、応援されてしまった。
少し気弱になってたかな。確かに選ぶのはエドモンド様だし、あたしはアンみたいにアンネさんを殺してしまおうなんて思ってないもの。できてせいぜい小さな嫌がらせや小細工するくらい。
もし仮にこの世界のヒロインがあたしじゃなくても、牢屋に入れられるようなことにはならないわよね。
★★★アンリの母親視点★★★
「おい、あの女の首尾はどうなんだ」
「あなた、あの女じゃなくて、私達の可愛い娘……ですから」
「ふん!こっちは金をばらまいて噂話を広めてやってるのに、いつになったらエドモンド王子を陥落してくるんだ。平民女なんだから、さっさと足を開いて誘惑すればいいものを」
「あなた!あの娘に聞こえたらどうするんです」
「まったく、ダンケルフェル公爵に言われなきゃ、あんな女……。私達の娘に似ているなんて、そんな腹立たしい嘘をつかなくてはならないなんて」
「しょうがないですわ。私達が一番あの娘を養女にするのに適していたんですもの。それに、あの娘がエドモンド王子に見初められたら、公爵様がクーデターをおこし、エドモンド王子を王位につけてくださるって言っていたじゃないですか。そうすればあの娘が王妃ですもの」
「そんなにうまくいくものか。いくらエドモンド王子の好みのタイプに似ている娘だからと言って、簡単にエドモンド王子がアレに堕ちるとは思わないがな」
ブツブツ言う夫を宥めつつ、私は懐に入れてある小瓶を握りしめた。
これは、ダンケルフェル公爵夫人からいただいた媚薬。いえ、実際は媚薬なんて甘いものではなく、かなり強力な興奮剤だ。人間の理性を奪い、性的興奮はもちろん、凶暴性を増させる薬らしい。この小瓶一瓶服用すれば、死ぬまで暴れ続けるらしい。エドモンド王子を殺してしまっては意味がないから、使うのは一滴。それでも、一時間くらいは凶暴化するらしい。女がいたら、殴りながら犯さずにはいられなくなるとか。ただ犯されるだけでは、同意だったとなかったことにされるかもしれないから、誰が見てもわかるくらい暴行の痕跡が欲しい。
多少顔に傷ができようが、手足が動かなくなろうが、生きていてエドモンド王子を繋ぎ止める枷になってもらわないと意味がない。
明日の朝、これをあの娘に渡さないといけないわね。
時間はたっぷり与えたのに、王子を堕とせなかったあの娘が悪いのよ。
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