第93話 何かがおかしい 2…アンリ視点
★★★アンリ視点★★★
あれから夜会ではエドモンド様に近付くこともできず、ゴールドバーグ先生とももう一度話したかったのに、全く話をする隙がなかった。話しかけようとすると、偉そうなおじさんと難しい話を始めたり、女性を誘ってダンスフロアーに出てしまったりで、取り付く島も無かったの。
新聞に書いてあるとは言ってたけど、別に教えてくれても良くない?……って思ったんだけど、そんな感じで先生は捕まらず夜会は終了。結局、図書館に足を運ぶハメになっちゃった。
今年の新聞って簡単に言ってくれたけど、今は秋なのよ?しかも、新聞って毎日朝晩出るのよ?いったい何部見ればいいの?それと、新聞ってどうやって読むのよ。変な区切り方してて、さっぱりわからないじゃない。
図書館の机に新聞を山積みにし、すでに読む気をなくしたあたしは、早々に机に突っ伏してグダグダしていた。
元がおバカなのよ。別にあたし可愛いし、頭なんか良くなくていいのよね。勉強するなんて時間の無駄。そんなことに時間を使うなら、お化粧の仕方を研究したり、ドレスコーデを研究してた方が断然有意義だわ。衣装店で働いていた時だって、あたしにドレスを選んで欲しいってお客様が沢山いたんだから。
礼儀作法とかも意味わかんないし、あれも駄目、これも駄目、別に好きにしたらえじゃんって言えば、「平民育ちはこれだから……」とか馬鹿にされる。本当にやってらんないわ。
新聞を捲っては、活字の多さに目眩がし、ついつい現実逃避に違うことを考えてしまう。
それにしても、エドモンド様とアンネさんの婚約のことが新聞に載るのはわかるけど、アン・ガッシとミカエルのことまで新聞に載るのはなんでかしら?平民から成り上がったシンデレラストーリー的な?それなら、あたしがエドモンド様と結ばれたら、新聞の一面にデカデカと載るんだろうな。
文章を読むでもなく、大きな文字だけを目で追っていたら、『サンドローム公爵令嬢、矢で射たれ重症』と言う記事を見つけた。
ウワッ、暗殺未遂的な?でも、矢が刺さったんなら傷物じゃん。絶対に傷跡残ってるよね。ってか、矢で射た人、詰めが甘いよ。なんで毒塗っておかないかな。いやいや、そこでアンネさんが死んでたら、悪役令嬢としての役割りを果たせないもんね。生きていて良かったのかな。
それにしてもアンネさん、全く悪役令嬢の仕事してくれないんだから嫌になっちゃう。これは、よく小説であるみたいに、悪役令嬢に彼女を仕立て上げないと駄目なやつかな?でもそれだと、彼女が主人公っぽくなっちゃわない?
またペラペラ新聞を捲っていたら、やっとエドモンド様とアンネさんの婚約の記事を見つけた。
そこには、アンネさんの生い立ちがさらっと書いてあった。それは小説の序盤に書いてあったモブに対する簡単な説明文そのままで、その後平民堕ちしたアンネさんとエドモンド様が偶然再会し、愛を育み婚約に至った……って、まんまじゃん。こんなに苦労して探した意味は?もっと実はこんな裏話があってみたいなのはないわけ?!
あたしは思わず新聞を握りつぶしてしまった。
「学園の備品は大事にした方が良い」
頭上から声がして、視線を上げるとゴールドバーグ先生がいた。
「先生!新聞見てみたけど、普通のことしか書いてないじゃないですか!アンネさんが、どうやってエドモンド様に取り入ったのかとか、二人の関係性がどのくらい進んでいるのかとか知りたかったのに」
「逆に、そんなことまで新聞に載っていると思って調べていた君に驚きだよ」
ゴールドバーグ先生は呆れ顔で、私が握りつぶした新聞を綺麗にのばした。
「知っていれば、アンネさんに対する対抗策も練れるじゃないですか。エドモンド様の好みにも寄せられるし」
「君、エドモンド殿下を狙っているの?クリストファー殿下じゃなく?ずいぶん特殊な美意識をしているんだな」
まあ、わからなくもない。世の中の美意識は、本編ヒーローであるミカエルに寄せてあるから、男性でも中性的で華奢なタイプがイケメンって言われる。でも、あたしはどっちかというと男らしく逞しいワイルド系がタイプ。エドモンド様なんて、まさにタイプど真ん中。特殊でけっこう!それにあたし達は結ばれる運命だしね。
「ああ、ほら、ここに君が探していたアンという娘のことも載っているぞ」
「ずいぶん他人行儀ね。先生の妹になるんじゃないんですか?」
「妹?何を言っているんだ。君が言っているのは、アンネ嬢をゴールドバーグ家から追い出して、一時期ゴールドバーグ伯爵令嬢を名乗っていたアン・バンズのことだろ」
アン・バンズ?アン・ガッシじゃなかったっけ?
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