第91話 秋の社交シーズン 5
「エドモンド様!」
貴族令息達を引き連れたアンリがエドの前に立ち、キラキラした瞳でエドを見上げていた。
豊かな胸元を強調するサーモンピンクのドレスを着ており、貴族令嬢ならばしないような生花で髪の毛を飾ったアンリは、良い意味で他の令嬢達とは違って目立っていた。また、お高く止まっている貴族令嬢達とは違い、気さくな感じが魅力的に映るらしく、彼女と親しくなりたい子弟達が群がっていた。
「あの!あたしとダンスを踊ってくださいませんか?さっきアンネさんと踊っているのを見て、とってもお上手だったから、下手なあたしでもきっとスマートにリードしてもらえるんじゃないかって思って」
「は?俺があんたと?無理」
アンリは断られるなどとは思っていなかったのか、エドに差し出した手を無視されて、戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「あ……、もしかして、アンネさんに気を使ってます?それか、あたしと踊っては駄目だって言われてるとか?アンネさん、酷いです」
アンリは両手を胸の前でギュッと握り、瞳を潤ませて私に詰め寄った。
「意味わかんねぇな。俺がアンネ以外と踊る気がねぇんだよ。そっちに男がわんさかいるだろ。そいつらと仲良くしとけよ」
「そっか!やきもちやいてるんですね。エドモンド様可愛い。この人達は勝手についてきているだけで、あたしは全然その気はないですから、安心してください」
エドモンドは深くため息をつき、私をきつく抱きしめた。
「俺はアンネが好きだっつってるだろ!いい加減しつこいんだよ」
「ちょっとエド、声大き過ぎ」
「だってこいつ、言葉通じねぇんだもん」
ちょうど音楽が途切れた瞬間だったせいか、エドに抱きしめられている状態で広間にいる人々から注目を浴びてしまった。
「いいから、離しなさいって」
「婚約者を抱きしめて何が悪い」
「開き直らない」
「だいたい、この女が変な噂流したせいで、自分の娘にもワンチャンあるかもって思った勘違い野郎が、わさわさ寄って来て超迷惑だったんだぜ。しかも、その娘はクリス兄様のとこに行ってんのに、親父だけ俺んとこにくるとか、意味わかんねぇだろ?」
ほーほー、どうせなら女性に囲まれたかったということですか?
「ふーん、娘さんも来て欲しかったんだ。さっきは何人かいたよね。良かったじゃん」
尖った口調で言うと、何故かエドはクシャッと表情を緩めた。
「あ、こら、そういう意味じゃねぇだろ。でも、やきもちやくアンネも可愛いな」
だ~か~ら~、くっつくな!抱き締めるな!キスをするな!
「あたしにやきもちをやかせる作戦ね。でもエドモンド様、やり過ぎには注意ですよ。本当の気持ちも疑うようになっちゃいますから。でも、あたしはちゃんとわかってますから!じゃあ、また学園で」
アンリは令息達を引き連れて去って行った。
「あれ、思い込み激しくない?」
「本気、勘弁して欲しい。あと、あれと三年同じ学年とか、やってられないんだけど」
「無視すれば良くないか?」
さっきまで令嬢達に囲まれていたステファン様だったが、特殊性癖(!?)を披露したおかげか、無事に令嬢達を撃退できたらしかった。
「無視してたら、どんどん話があいつに都合良い方へ進んで行くんだよ。そんで、ベタベタ触られて、振り払ったら怪我したふりされて、責任取れとか言われるんだぜ」
うん、そのまんまなことがあったね。
エドがゾッとしたように言うと、ステファン様はハハハと笑い声を上げる。エドからしたら笑い事じゃなかったし、私も少〜し嫌な思いしたんだからね。
「まぁ、君は女性慣れしてないからね。少し女性のかわし方を勉強した方がいいよ」
あれ?前も似たような話をしなかたかな?
「ステファン様のかわし方もどうかと思いますけどね」
「でもさぁ、完璧に諦めてもらえるじゃん。さっきの子だって、アンネちゃんと違うところを強調して無理って言えばいいじゃん」
二人の視線が私の胸に集中し、地団駄を踏みたくなった。
胸か!やっぱり胸なのか!?
「そうだな、今度はそこを強調して言ってみる」
「エド……喧嘩売ってる?」
私はぽかぽかとエドを叩き、エドは笑ってそれを受ける。
「君達は本当に仲が良くてやけるよ。そうだ、さっきのエドモンド君に言っておいた方がいいんじゃないか?」
「さっきの?」
私は手を止めて「ああ……そうだよね」と、元両親達が接触してきたけとをエドに話した。
ゴールドバーグ伯爵家の養子に入った男性が、学園の教師に就任したらしいこと。伯爵家の事業が、私を離籍したことが原因で傾きかけていること。私との仲を修復して、それを対外的にアピールしたがっていること……など。
「調子が良い話だ!」
「だよね。でもさ、伯爵家の事業がうまくいかなくなったら、伯爵家で働いている人達や、領民にも影響でるかと思うとさ……」
かと言って、全部を水に流して生家と良好な関係を築けるほど、私は人間もできていないんだよね。
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