第86話 カメルーラ伯爵令嬢 3 …アンリ視点

 ★★★アンリ視点★★★


「エドモンド様〜」


 この間は、せっかくエドモンド様と仲良くなれるイベント発生!って思ったのに、あんな変な人が代役に立つなんて本当に有り得なかった。きっと、アンネさんがやきもちをやいて、あの気持ちの悪い人を連れてきたに違いないわ。さすが悪役令嬢!でも、意地悪をされればされる程、あたしとエドモンド様の絆が深まって、悪役令嬢の断罪と婚約破棄って最終イベントに近付くのよね。その後はあたしとエドモンド様は幸せになるの。

 我ながらベタなストーリーだなって思わなくもないけれど、自己満足で書いた二次創作作品だから、ベタなのはしょうがないよね。

 でも、あたしが悪役令嬢のせいで怪我をしちゃうとかは書いた記憶があるけど、こんな内容だったかなぁ?


 そんなこと気にしてもしょうがないし、ちょっとしたズレくらいは想定内よね。あるある!


 今日は、あたしがお弁当作って持ってきたの。貴族令嬢はご飯なんか作らないじゃない?あたしの手作りって知ったら、エドモンド様は絶対に感動してくれると思うの。美味しいお弁当で、エドモンド様の心をさらにギュッと掴んじゃおうって訳。みんなは午前中で授業はおしまいだけど、エドモンド様は特別授業が、あたしは補講があるからさ、お昼休みはあたし達の愛を深めるとっておきの時間と言っても過言じゃないわ。


 お弁当の入ったバスケットを手に、エドモンド様の席に嬉々として向かったら、エドモンド様とあたしの間に女子生徒が二人立ちはだかったの。


「ちょっと、どいてくれる?あたし、エドモンド様に用事があるんだけど」


 気の強そうな二人の女子生徒は、腕を組んであたしを威圧してくる。金髪の方が侯爵令嬢のカイリーンさん、赤毛の方が伯爵令嬢のナーニアさんだったかな。家名は覚えてないけど、クラスでいつも偉そうにしていて、クラスメイトからチヤホヤされていたから、名前だけは覚えてた。


「用事ってなんですの?あなた、エドモンド様に纏わり付いているようですけれど、はしたないとは思わないのかしら」


 これって虐めイベント!?この二人の裏にはきっとアンネさんがいるんだわ。最後はエドモンド様が割って入って二人の絆が深まっちゃう感じ?それならどんどん虐めてくれてかまわないわ。


「はしたないなんて酷い……。あたしは、ただ、エドモンド様に以前お昼ご飯をご馳走になったから、お礼にサンドイッチをと思って。あたしが早起きして作ってきたんです」

「まぁ!手作り!?そんな怪しげな物をエドモンド様に食べさせるつもりなの!?」

「怪しげ……酷い!あたしが心を込めて作ったお弁当なのに……」


 バスケットを握りしめて、あたしはポロポロと涙を流してみせる。これはあたしの特技ね。いつでもどこでも五秒で泣ける。

 ハンカチで涙を拭かないのもわざと。とにかく涙を見せつけて、相手の同情をひくのが手だから。

 さあ、彼女達を窘めてちょうだい!そしてあたしの涙を拭うのよ!


 エドモンド様に視線を向けると、エドモンド様はムッツリした顔であたしを見下ろしていた。そしておもむろに口を開き……。


「礼も詫びもいらねぇよ。第一、手作りのもんなんか食う訳ねぇだろ。一応王族だしな。学食で食う時だって、毒見がついてるの知らないのか?(そんな訳ねぇだろ)」

「あたし、毒なんかもらないよ」

「とにかく、飯なら屋敷から持ってきてるし、勝手に作ってこられても迷惑だ」

「じゃあ、一緒に食べましょ。お二人はエドモンド様みたいに特別授業は選択していないですよね。御者の人が待ってるをじゃないですか?早く帰ってあげた方が良いんじゃないかな」


 暗に、邪魔だから早く帰れって言ってるのに、カイリーンさんもナーニアさんもエドモンド様の前からどきやしない。


「あなたに指図される覚えはありませんわ。それに、私とナーニアさんも特別授業を選択することにしたんですの。あなたは補講でしたかしら?エドモンド様、私とナーニアさんとで学食へまいりましょう。授業のことて聞きたいこともございますの」

「ああ、もちろん」

「じゃあ、あなたは補講頑張ってくださいね」


 カイリーンさんは、エドモンド様の肘にわずかに手を添えてあたしの前を勝ち誇ったように歩いていく。ナーニアさんもその後ろに続き、あたしの横を通る時に鼻で笑って行った。


 何あれ!!

 悪役令嬢パートIIにパートIIIって感じ!?無茶苦茶腹立たしいんだけど!


 それから、あたしがエドモンド様に近寄ろうとする度に、パートIIとIIIが邪魔してくるようになった。


 話もまともにできなくて、どうやって愛を深めればいいのよ!

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