第85話 カメルーラ伯爵令嬢 2

「じゃあ、アンリさんはカメルーラ伯爵に言われてあんな態度を?」


 そう聞きつつ、それも違う気がするんだけどね。

 もし演技だったら、もう少し好かれるような態度をとると思うんだよ。いや、もしかするとあれくらい積極的な方が男ウケがいいの?でもさ、押して駄目なら引いてみるって言葉もあるじゃん。駆け引きってやつだよね。彼女、押して駄目ならさらに押す!って、押しっぱなしな気がする。

 ジリジリ絆されるタイプならまだしも、エドは弾き飛ばして我が道を行くからね!残念でした。


「それはわからない。アンリ嬢の勤務先の同僚に聞き取り調査をしたんだけれど、伯爵夫人が店に来た時に接客したのがアンリ嬢で、アンリ嬢が赤ちゃんの時に誘拐された娘にそっくりだって号泣したらしいよ」


 誘拐だか取り違えだか、この世界のテッパンなのかな。


「じゃあ、その誘拐された娘があいつだって証拠があったっての?」


 エドは話には参加しているが、内容には興味がないようで、私の手を握ったり指を弄ったりと忙しい。


「ないんだよね。夫人の話だけ。でも、調べてみたら確かに夫人の娘は一歳の時に行方不明になっていた」

「じゃあ……」

「今回は彼女が伯爵家の本当の娘かそうじゃないかは、君達には関係がないから調べてはいないけど、ついでに調べてみようかな。相手の情報は多い方が良いしね」

「そういう情報って、王家直属の諜報部隊使うんですか?ほら、私の時も色々エドが調べてくれたでしょ?」


 私がゴールドバーグ家の本物の娘かどうか調べてくれたり、私と取り違えられたんだって主張したアン・バンズの本当の家族を探したりとかした時も、そういう部隊の手も借りたみたいだったから、今回もそうだと思ったのだ。


「いや、今回は相手が貴族だったり衣裳店だったりしたから、女性の方が情報を仕入れやすいかと思って、知り合いの女子達に頼んでみたら、思った以上に情報を仕入れてくれてね」


 知り合いの女子……、つまりは過去に関係があったガールズということは、クリストファー親衛隊の面々ね。上は侯爵家から下は男爵家まで、六年生から三年生までの七人の麗しい令嬢達で、狩猟大会の時は彼女達の証言に助けられた。今はクリストファー様の彼女ではなくなり、同じ人物クリストファー様を推す者同士として、サークル活動をしているらしいのだが、クリストファー様との関係も良好なようで何よりだ。


「あと、三年のカイリーンとナーニアがエドの護衛を買って出てくれたよ」

「護衛!?俺に?」


 エドが私の手を弄るのを止めて素っ頓狂な声を出した。


「ああ。カメルーラ伯爵令嬢にウザ絡みされてるのを見ていると、イライラするそうだ。あんな女一人あしらえないようでは、社交界で生きていけませんわよだって」


 エドは情けなさそうな顔になる。女性にもててこなかったせいか、アンネ以外の女性にはどうにも苦手意識が強く出てしまうようだ。


「クリストファー様はあしらい慣れてそうですよね」

「まぁ、否定はしないよね。エドも少し女性慣れしてあしらい方を勉強しておいたほうがいい。カメルーラ伯爵令嬢みたいな女性はこれからも出てくるだろうし、その度にアンネ嬢を不愉快にさせていたら可哀想じゃないか」

「でも……女子慣れしてスマートに対応するエドは、なんかエドっぽくない気がするな。私は今のままのエドが好きかなぁ」


 そりゃね、私以外の女子にオタオタしちゃう姿は見たくはないけれど、今の無骨なエドのままでいて欲しいと思うのは私の我が儘かな?


 そんな気持ちをこめてエドを見上げると、エドは口に手を当ててフルフルと震えていた。


「どうしたの?気持ち悪い?オエッとしそう?」

「俺もアンネが好きだ!大好きだ!」


 エドがガバッと抱きしめてきた。


 いや、力強いから!息できないし!口は悪いし性格はひねくれてるのに、愛情表現だけはドストレートなんだよね。


 その日から、カイリーンとナーニアががっちりとエドの両脇をガードし、アンリはエドにくっつくことはもちろん、会話すらもできなくなったらしい。


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