第84話 カメルーラ伯爵令嬢
「カメルーラ伯爵令嬢と伯爵家について調べてみたよ」
授業が全部終わってから、クリストファー様に呼び出された私とエドは、学園内の談話室を借りて話をしていた。
「なぜ伯爵家も?」
「だって、おかしいと思わないかい。エドが婚約した途端、アンネ……嬢と似たタイプの女子を養女にして、さらには養女にしてすぐに学園に編入させるなんてさ」
エドに睨まれて、クリストファー様は私の名前に「嬢」とつけ加える。
「まず、アンリ嬢だけどね、元は王都の孤児院出身で、十六歳で衣装店の売り子に就職したようだよ。十八歳の時にカメルーラ伯爵夫人とその衣装店で出会い、すぐに養子縁組を決めた」
「彼女、十八なんですか?」
私はびっくりしてクリストファー様の話に割り込んでしまう。
だって、前に養女になって一週間で学園に編入したと聞いたからだ。つまり十八歳で三年生に編入、学年的には間違っていないけれど、素養のない生徒は一学年下に入学するのが常識だ。アンがそうであったように。
一年からにしないのは、学園は勉学の場でもあると同時に、プレ社交の場でもあるからだ。勉強は補講でいくらでも取り返しがきくが、社交は出遅れたら取り返すのが難しくなる。派閥の中の順位付けはかなりシビアなのだ。
独学で猛勉強してきたとかならば話は別だろうが。
「ちなみに、彼女の学力は読み書きと簡単な計算ができる程度だよ」
じゃあ、やはりおかしい。素養がないのならば、二年生に編入が普通なんじゃないかな。
「たまたま三年に一人欠員が出たということもあるんだろうけど、カメルーラ伯爵の意向らしいよ。と言っても、たかだか伯爵の意向が反映する訳ないから、口利きがあったみたいだけどね」
「そこまでして、三年に入りたかったんですか?」
「ああ、そのようだね」
私はエドをチラリと見る。
多分だけど、エドを傀儡としたい高位貴族がいるんだろう。その人がカメルーラ伯爵に指示を出し、エドを取り込もうとしている?
婚約者である私が邪魔だから、私に似てるタイプでさらに私より魅力的(一般的にね!自虐じゃないから)な女子を送り込んで、エドに婚約破棄させたかったのかもしれない。じゃなきゃ、いくら噂好きな学園生でも、あんなに早く噂が広まるのはおかしい。わざと噂を広めたと考えた方がしっくりきた。
ただ、その人物って人を見る目がないわ。エドがホイホイ傀儡になるような人間に見えたんだろうか?そりゃ、多少単純で一本木で、上の王子達と比べてしまうと出来が悪く見えてしまうのかもしれないが、自分の意思はしっかり持っている(ちょっと頑固な面もあるのよ)し、努力家な上、努力すればするだけ実になる秀才肌なのよ。ちなみに私もエドタイプ。クリストファー様や王太子のアイザック様は天才肌だけどね。
そう!うちのエドは出来る子なんだから、なめてもらっちゃ困る!
クリストファー様は私の表情を見て、だいたい何を考えているのか理解したのか、「アンネ嬢の考えていることはだいたい当たってると思うけれど……」と話しだした。
クリストファー様が話してくれたのは、貴族の中の派閥についてだった。貴族には大小様々な派閥があり、特に三大派閥とされるのは、エドのお姉様であるアイラ様の婚家であるベンネヴィス公爵派、昔から数多くの王妃を輩出したことのあるライニルソン公爵派、一番新しい……とは言っても三代前の王族から分家したダンケルフェル公爵派とがあった。
そのうちのダンケルフェル公爵家というのが、カメルーラ伯爵の妻の実家と親戚筋にあたるそうだ。
現ダンケルフェル公爵自体は四代目に当たり、初代も第三側室の第五王子で、王族と言っても十五人兄弟の中の十番目という、王族の中でも存在意義の薄い王子だった。本来は一代公爵である筈が、初代公爵の領地にある鉱山から、たまたま見つかった鉱石が光石で、光石を光らせる手法を見つけたとして、その功績を称えて永久爵位となったのであった。
今では光石はダンケフェル公爵領の鉱山以外でも産出されることがわかり、ごく一般的な光源になっているが、当時は画期的な発見だったのだ。
そんなダンケフェル公爵家は、一時は光石の独占販売により巨大な富を築き、貴族の中でも一大派閥を作り上げたものだが、今はその勢いは下降の一途を辿り、何とか三大派閥にしがみついているというのが現状だそうだ。
「そのダンケフェル公爵が、エドを取り込んで勢力を盛り返そうって訳ですか?」
「それだけならいいんだけどね、アイザック兄様のところに後継がいないのを理由に、廃太子論を口にしているようなんだよ」
「ハァッ!?廃太子だァッ?ザック兄様が下りたとしても、クリス兄様がいんだろ。俺は絶対に止んねえぞ」
「うん、僕も。アイザック兄様が一番王に向いていると思うし、僕は裏方がいいね。裏から手を回す方が好きだから。それに、国民全員の責任を背負うとか、肩凝りしそうで嫌だよ」
「俺はアンネ以外を背負うつもりはねぇ!別に何人でも背負えっけど、片手は空けとかねぇと、いざって時に剣もふるえないからな」
エド、背負うのは責任だからね。わかっているとは思うけどさ。あと、アイザック王太子殿下がなんとなく不憫に思えるのは気のせいかな?
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