第77話 もしかして私って悪役令嬢? 3
窓の縁に肘をかけ、ウツラウツラしていた、窓ガラスがコツコツ叩かれて目を覚ました。
どうやら寝ていたようで、慌てて窓から退くと、窓が開いて大きな影がヌッと部屋の中に入ってきた。
「待たせたな」
「待ってないよ」
ニヤリと笑って尊大な口をきくエドの腹に、ドンドンと拳を叩き込む。私の非力じゃ痛くも痒くもないだろうけれど、モヤモヤを少しでも晴らしてやるんだから。
「お仕置きを受ける覚悟はできてるかよ」
「馬鹿、お仕置きを受けるのはあんたよ」
「俺が?何で?」
しらを切る様子にイラッとして、エドを椅子に突き飛ばして座らせると、その前に仁王立ちになった。椅子に座らせても、私よりも少ししか背が低くならないんだから本当に失礼しちゃう。
「浮気、したでしょ」
不安な気持ちが、一気に怒りに変換されたようで、年上の余裕とかさらさらなくなって、直球をエドにぶつける。
「はあ?何言ってんだよ」
「見たんだからね。私が王子妃教育で選択授業に出れなくなったからって、アンリさんとイチャイチャとお昼食べてたでしょ」
「は?……ああ、今日の昼か。別にイチャイチャなんか一ミリもしてないし、昼休みに中庭で飯食ってたらあいつにからまれたけど、一緒になんか食ってねぇよ」
「彼女の持ってたサンドイッチもらってたじゃん」
「あれは元から俺のだ。あいつが勝手に俺の弁当入れを退けて座って、中のサンドイッチを取り出して『どうぞ』とかわけわかんないことぬかしてきたから、『俺のだろ』って奪い返しただけだ」
いやいや、騙されないから。
「楽しそうに笑いながら食べていたじゃん」
話していた内容は聞こえなかったけれど、アンリの楽しそうな笑い声は聞こえたもんね。
「俺は笑ってねぇよ。とっとと飯食って離れたかったからな。あいつ、一人で喋って一人で笑って、そんで最後には『あたし達友達だよね』とか言って、俺の最後に残していたフルーツサンドを勝手に食いやがったんだぞ」
「そ……れは災難ね」
怒り心頭といった様子のエドを見て、私の中の怒りがスッとなくなる。甘い物が苦手の私と違って、エドはかなりの甘党で、特にホイップクリームが沢山入ったフルーツサンドは大好物だった。それを知っている公爵邸の料理長は、エドのお昼がサンドイッチの時は、必ずホイップクリームマシマシのフルーツサンドを入れてくれていた。ちなみに私にはピリ辛サラダチキンのサンドイッチを常に入れてくれる。
「あいつ……マジでたちが悪いぞ。本当に近づきたくないし、あんなのと浮気?絶対に有り得ない!」
フルーツサンドの恨みは根深いらしい。
「そうか……いや、うん。なんかごめん」
彼女がどんなふうにこれからエドにからんでくるのかっていう不安はあれど、エドの浮気を疑ったのは悪かったかなって思う。
でもね、やっぱり怖いのよ。
だってさ、魔法とかかある世界じゃないのに、なんでか呪いは存在するんでしょ?裏設定なんだろうけど、辻褄を合わせる為にはなんでも有りの世界なら、どこで無理矢理設定が発動するかわからないじゃない。
だから、私はエドを信用していないんじゃなくて、この世界の創造神、異世界にいる『平民ですがなにか?!』の作者を信用してないんです!……って言い訳か。
「……まぁ、ヤキモチやくくらいアンネは俺のことが好き過ぎるってことだろ?」
エドがニマニマして私の腰を引き寄せ、チュッとキスしてくる。
なんか負けた気がして嫌だけれど、その通りですよ!
最初はさ、悪役令嬢扱いからの断罪劇なんてのも頭をよぎったけれど、その前にエドの気持ちが離れることを考えたらせつなくて辛くて、ミカエルの時みたいに最悪に備えようなんて考えられなかったよ。
「そうだよ、バカ」
エドの額にコツンと額をぶつけ、拗ねた様子を隠せずに言うと、エドはグッと喉を鳴らした。
「うわぁ……それ反則だろ」
何が反則なの?
そう返そうかと思ったら、椅子から立ち上がったエドに、何故か子供抱っこをされてベッドへ運ばれた。
「何をしようとしているのかな」
「そりゃ、お仕置きだろ」
ベッドにドサリと置かれ、エドの手が私の部屋着のボタンを器用に外していく。
「こらこらこら」
いつもならば流されてしまう私も、メアリーに行為をばれていると知ったからには、そう簡単には……。
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