第76話 もしかして私って悪役令嬢? 2
授業に全然集中できなかった。
私の知らないところで、新しいヒロインと新しいヒーロー(エド説が有望)の恋愛エピソードなんかが展開されていたりなんかしたらと思うと、居ても立ってもいられないって、こういう状態のことを言うんだろうなって実感した。こんな時、学年が違うのってキツイ。
もちろん、今が続編に突入したかなんてわからないし、エドの気持ちが変わるなんて思ってはいないけれど、私以外の女子とキュンドキッみたいなシチュエーションがあるかもしれないと思うと、モヤモヤが大爆発しちゃうよね。
というわけで、私はお昼休みに三年生の教室にダッシュした。いつもならば、選択授業を止めた私は王宮へ向かう馬車に乗っている時刻だが、御者には少し待ってもらって、エドが学食へ向かう前に少しでも話したかったのだ。
しかし、教室にはすでにエドはいなかった。ならば学食か?と、学食へ向かう途中、渡り廊下に差しかかったところで、中庭にエドとアイリが並んでベンチに座っているの姿が目に入った。アンリの膝の上にはバスケットが置いてあり、その中からサンドイッチを出してエドに手渡していた。
つい数時間前、「クラスメイトというだけで、そんなに親しくないよな」と言っていなかっただろうか?そんな相手と、中庭で昼食を取るって、十分仲良くないか?
思わず、エドの視界に入らないように柱の影に隠れてしまった。話している内容は聞こえないが、アンリの笑い声だけは聞こえてくる。
私の知らない数時間で、まさか恋が発展するような出来事があったっていうの!?
出ていこうか悩んでいる時、校舎の方から人が来る話し声が聞こえてきて、私は慌ててその場所を後にした。その後、王宮へ行って王子妃教育を受け、休憩時間にはエドの妹のカナリア様とお茶をしたり、王妃様と晩餐をしてから帰宅したのだが、正直、勉強したことも、王妃様達と話したこともほとんど覚えていなかった。
「お嬢様、何かございましたか?」
メアリーが就寝前の私の髪の毛をとかしながら、鏡越しに私の表情をじっと見つめていた。
エドとアンリのことを考えていた私は、いつここに座ったかも思い出せないままに、気がついたら一日が終わりそうなことに驚いた。
「何かあったか……なかったかもわからないの」
「ちょっと意味がわかりかねます」
私を心配しているのは確かなんだけれど、言い方が冷たく聞こえるのは、メアリーのテッパンだから気にしない。
「実はね……」
私はアンリについて知っていることを話しだした。と言っても、たいしたことは知らない。貴族の養女になった元平民ということと、その見た目くらいだ。後は、エドに興味がありそうなことくらい。
「なるほど……。貴族令嬢達の間では、細くて中性的な美貌の男性が好まれますが、平民にはエドモンド様のようながっしりしていて逞しい男も魅力的に映るようです。生活力に惹かれるんでしょうね。それで、エドモンド様がその伯爵令嬢と浮気でもなさいましたか?」
「浮気……はまだわからない。でも、今日お昼を一緒に食べていたみたい。中庭で。二人で」
王族の呪いについてはメアリーにも話せないから、エドがミカエルのように浮気をすることはないということは言えない。でも、心が揺れても浮気は浮気ではないだろうか。
しかも、物語のテッパンとしては、悪役令嬢(この場合は私!?)の存在がスパイスとなって二人の仲が深まったりするのよね。
でもさ、恋人が浮気しそうになってたり、自分の恋人にモーションかける女子がいたら、一言物申すのは当たり前じゃない?意地悪とかじゃなくてさ。
「エドモンド様を見る限り……お嬢様にベタ惚れですけれど」
「確かに朝まではそうだったよ。朝にアンリさんと話をした時は、まだ距離があったから。たった数時間の間に何があったのかは知らないけど、昼にはグッと距離が縮まってたのよ」
メアリーは首を傾げる。その顔は、エドモンド様がそんな短期間で心変わりなんかする筈ないと言っていた。
「どうせ今晩もエドモンド様は忍んでやってくるのでしょう?」
「どうせって……知ってたの?」
エドはいつも夜中に二階の窓からやってくるから、てっきり誰にも知られていないと思っていた。夜中に侍女や侍従が廊下の見回りはしているが、エドはそういうのには耳聡いから、ちゃんとやり過ごしているつもりだったのだ。
「そりゃ、誰がお嬢様のシーツを替えると思ってるんです。それに、バレたくなければ、換気も十分になさいませ」
めっちゃ証拠残しまくりじゃん。しかも恥ずかしい状況証拠をさ。
「大丈夫です。私が証拠隠滅してますし、公爵様には報告しておりませんから、ご安心ください」
頼りになる侍女は健在だった。
メアリーと話すことで少し気持ちが浮上した私は、メアリーが退室した後に窓の側に椅子を持ってきて、鍵を開けてそこに座ってエドを待った。
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