第59話 断罪
同立一位のエドとロイドお父様の前には私が、三位のステファン様の前にはカナリア様が、四位のどこぞの貴族の前にはその夫人が、そして五位のニール・ガッセの前にはアン・バンズが立った。
ウワッ……。ちょっと怖くて会場が見れないよ。
ミカエルは綺麗な顔を嫉妬で歪めているし、ニール・ガッセの婚約者であるイライザさんは凄まじい形相でアンを睨みつけている。
五位から順番に獲物をプレゼントして行くのだが……。
ニール・ガッセは、跪いてアンの手を取ると、その美貌を褒め称えながら大きな黒い鳥を差し出した。鳥の羽で扇子を作り、肉はディナーとして調理してアンを屋敷に招待したいと言い、その手に口づけする。
アンは、それを受けるとも受けないとも言わなかったが、手に口づけをされても拒否はしなかった。そして、ニールに手を取られたまま壇上で笑顔を振りまいた。
アンに見つめられて微笑まれたと勘違いした会場にいる男性達が、デレデレと壇上のアンを見つめる中、四位の貴族は夫人に猪を、三位のステファン様は生きたままの小鳥をプレゼントし、ロイドお父様の番になった。
「私、ロイド・サンドロームは、娘であるアンネ・サンドロームにこの美しい狐を捧げよう」
尻尾は襟巻きに、体の毛皮は敷物にして贈るとし、優しいハグをしてくれた。
「お父様、ありがとうございます」
私がお礼を言ったタイミングで、国王様が立ち上がり、ロイドお父様を讃えて拍手を贈り、私がサンドローム公爵家の養女になったことを会場中に響く声で告げた。
そしてエドの番がくると、エドはロイドお父様の前に立った。
「じいちゃん、数は同点だったけど、獲物のデカさは俺の勝ちだよな」
「フン!高級さでいったらわしの勝ちだろうが。熊の毛皮など、上品さに欠けるわ」
「俺のは食えるぞ。しかも肉も大量にとれる」
なんだろうね、どっちが本当の一位か言い争いをし始めちゃったよ。しかも、公衆の面前で。
「エド、司会の伯爵が困ってるよ」
私がこっそりエドを突っつく。
「アンネ、おまえの一番は誰だ」
え?その言い方、何か違くない?
私が戸惑っていると、ロイドお父様は私を然りげ無くエドの方へ押し、「しょうがないから一位は譲ってやる」とつぶやいて後ろに下がった。
エドは跪いて私に手を差し出した。
「俺の唯一はアンネ、おまえだ。他の誰にも譲る気はない。俺と結婚して欲しい」
公開プロポーズに会場はどよめき、市民達は口笛を吹き囃し立てた。
「返事は?『はい』か『イエス』のどっちだよ」
真面目な顔で馬鹿なことを……。
「馬鹿ね、どっちも同じじゃない。どっちでもいいわよ」
私がエドの手に手を差し出すと、エドは立ち上がって私を抱き上げた。
「ウワッ!」
「ッシャ!聞いたな、こいつは今から俺の婚約者だ。」
「ちょっ……下ろしてよ、馬鹿!」
エドは満面の笑みで私を高く持ち上げてグルグル回る。
マジで気持ち悪く……。
ロイドお父様がエドの頭を叩き、私はなんとかリバースする前にエドの胸に自由落下する。地面に落とされることなく、抱きしめられて止まり、ゆっくりと地面に下ろされた。
「この馬鹿タレが!子供じゃあるまいし、馬鹿みたいにはしゃぐな。見ろ!アンネの顔色を。それでなくても怪我をしとるのに、傷口が開いたらどうするつもりだ」
ロイドお父様、わざと傷口のことを口にしました?
ロイドお父様は国王様に目配せをし、それを受けた国王様が立ち上がる。
「私の四番目の子供に婚約者が出来たのは喜ばしいことだが、傷口とはどういうことだ?サンドローム公爵令嬢は怪我をしているのか?」
「はい。的当ての矢が腕に刺さり、最初は事故かと思われたのですが」
「なに?!事故ではなかったのか」
うん、国王様もロイドお父様も芝居がかった演技ありがとうございます。
「父上、俺から報告します」
エドが一歩前に出た。
「まずは、矢を射た人間を捕まえてあります。マーシャル・マンセットをここへ」
エドの一声で、騎士に連れられてオドオドとした様子のマーシャル・マンセットが壇上へ上がってくる。アンの前を通ったが、アンは顔色も変えずにマーシャル・マンセットを見送る。
「ということは、この男がサンドローム公爵令嬢を殺そうとした重罪人ということか」
国王様の言葉に、マーシャル・マンセットは真っ青になってガタガタと震え出した。そして、膝をついて大声でわめき出した。
「俺はある女性に言われたから。アンネ嬢を矢で射ろって!でも、当てるつもりはなかったんだ。殺すつもりなら、狩猟用の矢を使ってます。万が一当たっても大丈夫なように、的当て用の矢を使いました。まさかあの矢が刺さるとも思わなかったんです。しかも外して撃ったつもりが……」
マーシャル・マンセットは、騎士に押さえつけられて口を閉じる。
「この男を捕まえられたのは、兄クリストファーの証言と、その取り巻きの女子達の証言のおかげです。兄クリストファーとその取り巻きの女子の方々、壇上でその証言を」
おっと、名前を省略したよ。
それでも、呼ばれたクリストファー様親衛隊の皆様は壇上へ上がってかてくれる。クリストファー様の顔が僅かに引きつっているのは、壇上に上がらされた緊張からではないだろう。
「ねえ、彼女達がいるなら、僕の証言はいらなくないかな?」
ごもっともです。まあ、撒き餌だと思って諦めてもらいましょう。
「兄、クリストファーはビビアン・マクガイア伯爵令嬢が王家のテントから出てくるところを見かけ、その際に彼女のつぶやきを聞いたそうです」
「そうですね。つぶやきというか、ヒステリックに叫んでいましたが」
「私達も聞きました。『あんな子、間違って矢に当たればいいのに』って言っていました」
他の六人が頷き、会場がビビアンさんが黒幕かとざわめいたところで、アンが「あの……」と割って入ってきた。
「多分、私もその現場にいましたわ。確かに私もビビアンさんがそう言うのを聞きました」
衆目を集めて、アンは頬を興奮気味に上気させて発言する。
「それに、そちらのマーシャルさんもその場にいたと思います。きっと、彼女のその言葉を聞いての犯行なんですね。怖いわ」
アンがわざとらしく怯えた様子を見せて、ニール・ガッセの胸に擦り寄るように身を寄せた。ニール・ガッセもアンの肩を抱いて宥めているようだ。
一応婚約者が他にいる男性だし、自分だってミカエルという恋人がいるのに、公衆の面前でそんなに引っ付いていいのだろうか?別に、ミカエルとの関係を心配しているのではなく、一般論としての疑問ね。
「なるほど、確かに彼もその場にいたとの証言を彼女達から得ました。それで彼に会いに言ったら、即犯行を認めたんですが……マーシャル・マンセット、誰に何と言われたか教えてくれるか?」
エドに話を振られ、マーシャル・マンセットは騎士に支えられて立ち上がると、アンを指差して叫んだ。
「アン・バンズに、アンネ嬢に矢を射れば、俺のテントに行くからと言われました」
アンがわざとらしく息を飲み、ボロボロと涙を流した。
「酷いわ!私があなたの告白を断ったからって、そんな酷い嘘をついて私を陥れようとするなんて……」
おっと、そうきたか?!
自分は被害者ですってふりが凄くうまい。壇下にいる男性陣はけっこうな割合で騙されている気がする。
「私、あなたとマンセットが抱き合っているの見ましたけど。マンセットの首に手を回して引き寄せてましたよね」
クリストファー様親衛隊の一人が手を上げて発言した。
「私が、彼と?私にはミカエル・ブルーノ様という恋人がいるんですよ?あの学園一美形のミカエル様ですよ?それなのにこんな不細工な男と?見間違いじゃありません?」
だからさ、それを他の男の胸の中で主張するあなたは色んな意味で大丈夫ですか?って聞きたいよ。
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