第40話 覚悟を決めた……というか。(R15っぽい)

 場所を移動した私達は、なぜか私の隣にはロイドお父様が座り、正面にはエドと王様が座っている。


 エドが養子縁組の証書を取り出して王様に渡すと、王様はそれに承認印を押す。貴族の戸籍については、王族が管理することになっており、特に王族のものには王の承認が必要であった。


「これで、アンネは正式に王族の仲間入りだ。私はこれを処理してくるとしよう。エド、叔父上、くれぐれもアンネを困らせることがないように。ではアンネ、二人がくだらない喧嘩をしないように見守っていて欲しい」

「はい」


 王様、私達に座ったままでと言うと、書類を手に席を立って部屋を出て行った。


 この部屋は、王族が使う談話室のようで、綺羅びやかで豪華な内装のだだっ広い部屋に、三人だけになった。


「アンネ、こっちに座れよ」

「何を言う!婚約前の娘は、父親といると決まっておるだろう」

「なら、すぐに婚約すればいいだろう。第一、じいちゃんは遠方のサンドローム領にいっぱなしなんだから、アンネが学園に通う間は王宮に住んでもらわないとだし、卒業したらすぐに結婚して、そのまま俺と暮らすようになるしな」 

「アホか!王都のサンドローム公爵邸に住むに決まっておろうが。わしも一緒だ。目を光らせておらんと、おまえが何をするかわからんからな」

「いやいや、アンネは王宮に住むから。婚約者なら、妃教育の為に王宮に住んでもいいって聞いたぞ」

「妃教育ならうちでもできるわ。うちを何だと思っておる」


 元王族の公爵家だよね。凄い肩書きがついたな。


「ロイドお父様、私は別に今のままの住まいでも……」

「「駄目に決まってる」ろうが」


 うん、語尾は違うけれど綺麗にハモったね。


「そりゃ、エドが護衛くらいはつけてはいるんだろうが、公爵令嬢というだけで悪い奴は近寄ってくる。防犯を考えても、引っ越すことは絶対だ。それに……侘しい老人の一人暮らしに、色をつけてくれんかの。せっかく家族になったんだし」

「侘しいとか、どの口が言うんだよ。いまだに現役で剣振り回してるくせに」

「煩いわ!アンネ、なんなら今からでもうちにくればいい。パーティにはもう顔を出したしな。やはりクリスマスは家族の親睦を深めないと」

「駄目だ!アンネは今日は俺と過ごす約束だからな。じいちゃんはさっさとサンドローム領に帰れよ」


 うーん、このままだと喧嘩になるかな?喧嘩の原因が私とか、なんか幸せかも。


「エド、どうせなら三人で過ごしたいな」

「ほら見ろ!……三人?」

「うん、エドとロイドお父様と」


 私の返答に目を見開いたエドは、なんとか二人で過ごす口実を探しているようで、椅子をガタガタさせながら呻いた。


「うー……でもほら……、そう!じいちゃんはヘビースモーカーだから、一緒にいるのはきついぞ」

「そんなもん、禁煙したわ!健康の為にな」

「いつだよ?!」

「今じゃ!」


 睨み合ってるよ?!どうしたらいいの?


「あ、やっぱり」


 扉が開いて、クリストファー様がヒョコリと顔を出した。


「あ、クリストファー様」

「やあ、アンネ。さっきは挨拶できなかったからね」

「何がやっぱりなんだよ」


 エドが苛々した顔をクリストファー様に向ける。


「父様がさ、絶対にアンネが困るようなことになってるから、見てきた方がいいって言われて」


 クリストファー様は、ニコニコしながら部屋に入ってくると、「困ってた?」と私の返答に困るような質問をしてくる。


「まぁ、少し……」


 苦笑いをする私に、クリストファー様は笑顔を向ける。なんだろう?少したくらんでいるように見えるのは気のせいだろうか?


「大叔父様、カナリアが大叔父様にご本を読んで貰わないと寝ないとグズっているんですが」

「カナリアが?前はわしを見て、あんなにギャーギャー泣いておったのに」


 ロイドお父様は首を傾げる。


「それはちょうど人見知りの時期だったからですよ。前にカナリアに会ったのは、カナリアが三歳の時じゃないですか。今はもう七つですからね、なんにでも興味津々なお年頃なんです。童話を一冊も読まない間に寝てしまいますから」

「ふむ……。全く、子供の我が儘はしょうがないな。アンネ、少し待っていてもえるか?すぐに戻ってくるから」


 不承不承という体を装いながらではあるが、小さい子供の願いを叶えてくれようとするロイドお父様は、やはり優しさを表すのが不器用なだけで、とても優しい人なんだと思う。


 ロイドお父様を連れて部屋を出て行く際、クリストファー様が振り返って綺麗なウィンクをしてみせた。いや、お手本みたいなウィンクだったけれど、いったいなんの合図よ?


「よし!今のうちに家に帰るぞ」

「は?待ってないと駄目でしょ」

「いやいや、どっちに引っ越すにしろ、荷造りしないとだろ。パンツとかブラとか、俺がバッチリ箱詰めしてやるから任せろ!」

「させるか、バカ!」


 軽口を叩きながら、エドは強引に私の手を引っ張って部屋から出て行く。


 うーん、抵抗するのも可愛そうだし、ここは覚悟を……決めないと駄目かなぁ?


 ★★★


「お兄様、お約束は守ってね」

「あぁ。大叔父様を二時間繋ぎ止めておけたら、なんでも好きなお菓子を買ってきてやるよ。でも、途中で寝ちゃったらアウトだぞ」

「任せて!大叔父様の顔を見ていれば、きっと怖くて寝れたものじゃないから」

「おまえも大概に酷いな」

「泣かないだけいいじゃない」

「大叔父様、おまえにギャン泣きされて、あれからかなり凹んでたからな。まじで可哀想だから、もう止めろよ」

「覚えてないなぁ」


 ピンクブロンドの少女は、金髪の青年の袖を引っ張った。


「でもさ、なんでそんなにエドお兄様とアンネちゃんを二人っきりにしたがるの?」

「う~ん。……今のままだと、僕にも手が届くかもって思っちゃいそうだからかな。あの二人がお互いに唯一になれたら、僕の入り込む隙間なんかなくなるだろ」


 ピンクブロンドの少女は、首を傾げる。


「よくわからないけど、お兄様は寂しそうだわ。そうだ、大叔父様に二人でご本を読んでもらいましょう。私と一緒に寝れば寂しくないわ。それに、二人で聞いていれば、どちかが眠りそうになった時に手をつねり合えるじゃない?」

「僕が君のベッドで眠ってしまったらどうするんだい?」


 ピンクブロンドの少女はニッコリと微笑む。


「それは素敵だわ。朝までお兄様と一緒にいられるのね。私、大叔父様にご本を読んでもらっている間、お兄様の背中をポンポンしてあげるわ」

「やめて、本当に寝てしまうから」

「ほら、早く大叔父様を連れて来て。ご本を選んで待っているから」


 ピンクブロンドの少女に背中を押された金髪の青年は、小さくため息をつきながら少女の部屋を出た。


「ここまでお膳立てをしてやるんだ。今日彼女を唯一にしなかったら、その時は……」


 金髪の青年は談話室の扉を叩いた。


 ★★★


「まだメアリーは帰ってないな」

「そうね」


 クリスマスパーティは夜中まで続くのが普通だが、あの状況であれからパーティを続けたかどうか。貴族が沢山来ていたから、急にパーティを終了しますお帰りください……にはならないだろうが。

 片付けもあるだろうし、今日はメアリーは帰ってこないかもしれない。


「でもさ、荷造りったって、たいしたものないよ。食器類は持って行ってもゴミだろうし、家具だってねぇ、伯爵家の侍女達のお古だしさ。洋服は……これ着て公爵家の門をくぐるとか、罰ゲームとしか思えない」


 古着屋で買った着古したワンピースをヒラヒラして見せる。


「なんで公爵邸限定なんだよ。もう、即婚約して王宮でよくないか?」


 エドが私の後ろからウエストに手を回してくる。


「いやいや、ちゃんと順番守ろうよ」

「もう、十分守ってないか?かなり待った!無茶苦茶待った」

「いや……たった一ヶ月じゃん」

「アホッ!一年以上だ」


 一年以上って……出会って一年ちょいですけど?


「だから、最初から……だよ」

「え?一目惚れ?」

「なわけあるか!」


 それはそれで失礼だな。


 私がムッとして唇を尖らせると、上からかぶさるようにしてチュッと唇を塞がれた。

 チュッ、チュッと何度もキスをされ、唇を舌でトントンとノックされる。僅かに唇を開くと、すぐに厚い舌が口腔内に入り込んできた。

 後ろから抱き締められての深いキスは、首が苦しくて息もしにくくて、頭がボーッとしてくる。


 いつの間にかベッドに座らされて……というか、ベッドに座ったエドの上に座らされて、腕やお腹を撫でられながら、キスのギアがどんどん上がっていく。息も荒くなってきて、気がついたらベッドに横たわって、エドが私の上から覆い被さっていた。


「……好きだ」

「うん……私も」


 私がエドの首に手を回して、引き寄せるようにしたのが合図になった。



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