第34話 枕の下(R15もどき)

 呪いねぇ……。


 無理やり設定の被害者と言えば被害者だよね、王家直系三兄弟。


 ため息をつくと、エドがビクリと肩を揺らした。こんなに大きななりをして、何を怖がっているんだか。


「それで、エドは王太子様タイプなの?それともクリストファー様タイプ?」

「そりゃもちろん、ザック兄様だよ。俺はあっちもこっちもなんて、そんな器用なことはできないし」

「だろうね。でもさ、その唯一とやらを、本当に私に決めていいの?後で、もっと好きになれる子が出てきたらどうすんの?」

「ない!そんな心配はありえないから大丈夫」


 本当かなぁ……。


「でも私だよ?」


 自虐じゃないからね、悲しいかな事実だよ。見た目は並だと思うけど、世の中には引くくらいの美人とか、二度見しちゃうくらい可愛い子とかもいるじゃない?これから先、そんな子とかがエドのこと好きになって、告白とかされた時に、すでに私とHした後だったりしたら無茶苦茶後悔したりするんじゃないの?

 スタイルに至っては並以下だしね。


「可愛い!最高!」


 必死かよ?!


 エドは私の肩をつかんで、真剣過ぎて褒めてるとは思えないくらい怖い顔を近づけてくる。


 しかも、語彙が乏しいし。


「フ……フフ……フフフ」


 ヤバイ、頭の中でエドをディスっていたら、笑いがこみあげてきた。


「お願いします!俺の唯一になってください!!」

「いや」

「嫌?!!」


 エドの顔に悲壮感漂う。


「いや、そうじゃなくて。唯一になるってつまりはHしてくださいってことでしょ?それはまだ無理かな」

「なんで?!」

「いやいや、考えてみて?付き合ってまだ一週間だよ。付き合ったその日にキスも論外だったけど、一週間でHなんて、体目当てって思われてもしょうがないからね」

「論外……体目当て……」


 私の言葉にショックを受けたのか、エドは口をあんぐりと開けてしまっている。


「……別にね、絶対しないとか、エドの呪いが受け入れられないとかじゃないから。今日の今日、聞いたばかりだから色々考えたいけど、それでも前向きには考えるよ。焦って後悔はしたくないしさせたくないから、最後までするのはやっぱり……結婚した後じゃない?」

「結婚した後……」


 さらに悲壮な表情になったのはなんでかな?


「駄目?」


 私がやっても効果はないかもだけれど、精一杯可愛こぶりっ子ってのをやってみる。両手を胸の前で組み、上目遣いでお願いのポーズだ!


 バッカじゃねぇの?!似合わねぇよって言われるかと思いきや、エドの喉仏がゴクリと上下し、その視線が獲物を狩る猟師さながら鋭くなる。


 あれ?間違ったかな?


 視界に天井が映り、何がどうした?と考える間もなく私は再度押し倒されていた。


「今のはおまえが悪い!」

「なんでよ?!」

「クッソ!俺は体目当てなんかじゃねぇぞ!アーッ辛え!!」


 何を思ったか、エドはいきなり枕を床に投げ飛ばした。


「ちょっと何してんのよ?!」

「今むっちゃ困ってるから!……うん?これなんだ?」


 ヒーッ!!!


 私は素早くソレを奪い取ろうとしたが、私の瞬発力よりもエドの瞬発力の方が素早く、アレをつまんで目の前に。


「違うからね!それはメアリーが勝手に……」

「へえ……。枕の下に常備か。これ、誰と使うつもりだった?」


 避妊具で頬を叩くのは止めなさい。何を勘違いしているのかわからないけど、目つきが人を殺しそうなレベルで恐ろしいことになっているからね!


「違う違う違う!なんか勘違いしてない?」

「人のことはなかなか部屋に入れてくれなかった癖に、こんなもん枕の下に用意してんの見せられて、勘違いもへたくれもねぇよな」


 淡々とした声が怖過ぎる。


 エドがベッドから起き上がろうとして、私は慌ててエドの首にしがみついた。


「だから違う!あんたが言ったんでしょ、覚悟しとけって。メアリーが、あんたなら避妊具に穴開けて既成事実作ろうとしそうだって言うから」

「なるほど……、アンネを束縛するにはそういう手もあったか」

「ちょっ……怖いこと言わないでよ?」

「ならさ、これは誰の為に用意したんだ」

「それは……」


 目の前で避妊具をヒラヒラされて、私は視線をそらす。


「ふーん、言えない相手とか」


 エドの低い声が耳元で響く。


「違う!」

「じゃあ、誰だよ」

「あんたよ、あんた!エドモンド・キングストーン」


 意を決してエドに向き直って叫べば、目の前にはニヤニヤ笑ったエドの顔が……。


 騙された!!


「ふーん。アンネは俺とこれを使いたいってことか」

「違ッ……」


 エドの唇が私の耳に触れる。


「……ッ!」


 耳!耳ってこんなに敏感なの?!

 耳朶にエドの唇が触れただけなのに、体がビリッてなったよ。


 この世界ではもちろん(名ばかりの婚約者はいたけどね!)、日本にいた時だって彼氏なんかいたことないから、キスだってエドが初めてだ。キスが気持ちいいって知ったのだって……。


「……ン」


 エドとのキスを思い出していたら、耳を甘噛みされて変な声が出ちゃったじゃん!


 思わず口を押さえると、エドは舌で耳を弄ってきた。


「ア……ッ、ゥン」


 エドの手が逆の耳を塞ぐから、音が頭に反響するようになって、頭がクラクラして体に力か入らない。しかも、自分の声じゃないような甘ったるい声が止まらなくなって……。


 エドの手が耳から首、首から……。


 ………………。


「ング……ッ」


 エドが私の上に崩れ落ちる。私は全力を振り絞ってエドを横に退けると、起き上がってさらに追い打ちをかけるように頭を平手でパカーンと叩いた。


 想像以上にいい音したな。


「駄目だって言ったでしょ!」

「……使えなくなったらどうすんだよ」


 お腹を狙って膝蹴りしたつもりが、微妙にずれてやや下方に……。

 わざとじゃないのよ。

 私も膝に変な感触が残って、ダメージ大きいんだから。


「駄目だって言った!」

「こんなん用意してんだから、口だけかなとか思うじゃん」

「私が買えると思う?!」

「……思わねえけどさ。俺だって軽々しく関係を持とうとしているわけじゃないのはわかるだろ。その為にさっきの話をしたんだし。……まぁやり過ぎたかもしれないけど」


 まぁ、Hしたら一生私としかできなくなるって、ある意味激重よね。軽々しくないのはわかるけど!


「全くよ!しばらくは私に触るの禁止」

「エェッ!どれくらい?!」

「半年?」

「無理!」

「三ヶ月」

「全然短くなってない!」


 いや、半年よりは短いよ。


 情けない表情のエドに絆されたわけじゃないけれど、私だって三ヶ月エドと手も繋げないのはしんどいよ。キス……だって、ねえ?


「じゃあ、一ヶ月!これ以上はまけない」

「アンネ、反動って言葉を知ってるか?」

「あんた、人のこと馬鹿にしてんの?反動がどうしたのよ」


 エドはベッドの上で胡座をかくと、私のかなり近くまで顔を寄せてきた。


「お預けの期間が長ければ長いだけ、解禁になった時の反動が強くても、それは勘弁しろよって話。一日中離してやれないかもしれないな」

「え?」

「大人しくしてたら、もちろんご褒美あるよな?じゃなきゃ、大人しく待てなんかできないだろ?犬だって、ちゃんと待てできたらご褒美貰えるんだから」

「いや、ご褒美とかそういう話じゃなくない?罰なんだから」

「でも、罰をきちんと受けたらご褒美もある筈だ。それに、一週間前に覚悟しとけってちゃんと言ったろ。覚悟しとかなかったおまえが悪い」

「ハァッ?!」


 本気でイラッとしたのが声に出たのか、エドは強気だった態度を少し弱める。


「まぁ、でも性急に事を進めようとしたのは……俺も悪かったかもしれない」

「そうよ!」

「だから!解禁になったら……俺の本気を受け止めてくれ」

「それって……」

「Hするぞ!」


 情緒なくない?色気もなくない?


 ふんぞり返って宣言するエドに呆れてしまう。恋人との初めてってこんなに大体的に宣言して行なうもの?


「そこは保留で!」


 そこからメアリーが戻るまで、いつHをするかって話し合いは平行線だった。(本当にその話しかしてないって、どうなの?)

 

 王家の呪いの話をしていたんじゃなかったっけ?

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