第31話 待て!です(R15かな?イチャイチャしてるだけです)
「アンネ!」
午前中の授業が終わり、学食でお昼をとろうとした時、エドが学食に飛び込んできた。
髪の毛はボサボサだし、制服のワイシャツはボタンを掛け間違えている。あ、ワイシャツの裾がズボンから半分出てるわね。
「待て!」
飛びついてきそうな勢いに、私はスプーンを持った手を前に差し出した。手に持っていたのがフォークじゃなくて良かったと、つくづく思ったよ。
エドは不機嫌そうな表情になりつつも、私に抱きつく直前で急停止した。
「今帰った」
「そうみたいね。ちなみに、エドが視察に行っていたって、今朝クリストファー様から聞いて知ったからね」
自分が居場所も言わずに三ヶ月エドに連絡を取らなかったことは棚に上げ、私は怒ってますからと言うようにスプーンの先でペチペチとエドの制服のボタンを叩く。もちろん、スプーンは未使用よ。これからビーフシチューを食べようとしてたけどね。
「試験勉強の邪魔をしたらいけないと思ったから。本当は日帰りくらいを予定していたんだ。特待生試験が終わったら会いに行こうと思っていたし。俺が会いにこないから、気になったりしたか?」
「別に。試験が終わって暇だったから、ちょっと……たまに……ほんとにちょっとだけ、考えたくらいよ」
私がシチューを飲みつつパンを齧ると、エドは私の横の椅子を引いて座った。私の方を向いているから、エドの長い足が私の足に触れる。
「アンネ、ついてる」
エドは親指で私の口元を拭うと、その指をペロリと舐めてニヤリと笑った。今までになかった色気たっぷりな様子に、エドの唇や舌に目がいき、ついついエドとのキスを思い出してしまう。
いやいやいや、学校だし!周りにいっぱい人いるし!
私は凄い勢いで食事をし、三分もしないうちに完食してしまった。
胃が……ヤバイ。
「ちょっと、あっち行こう!」
私がエドの手を引っ張って立ち上がると、エドは私の食べ終わったトレーを片手に持ち立ち上がった。入り口のトレー返却口にトレーを返し、私はそのままエドを引っ張って中庭に向かう。
いつものベンチに座ろうとしたら、今度はエドに引っ張られてベンチ後ろの木の裏に引きずりこまれた。大きな木の後ろは中庭から死角になっていて、回り込んでこないと人がいるかわからない。
「会いたかった」
エドは私のことをギューギューと抱きしめる。エドとの身長差だとスッポリ包まれてしまい、息をするとエドの香りだけが鼻腔に入ってくる。
身動きがとれない状況だけれど、妙に安心する。この体温も、匂いも、全部がしっくりと私の中に嵌まる感じがした。
エドの腰に手を回して胸元に擦り寄ると、頭上でエドの喉が「グッ!」と鳴る音がする。
「アンネ、上向け」
「な……」
何?と言い終わるよりも速く、エドに顎を掬い上げられて唇に柔らかい感触が降ってきた。
何度も角度を変えて唇を喰まれ、体が痺れたようになり、エドにしっかりとしがみつく。それが合図になったのか、エドは性急に舌を私の口腔に押し込んでくると、蹂躙するように私の口腔で暴れ回る。マッタリとしたキスではなく、性欲を刺激してくるようなキスに、唇の端から唾液が溢れて落ちた。
「……ン、フッ……、ゥン……、ス……ストップ、待って……待て!」
「ウッ……」
エドの鳩尾を拳でドンッ!と叩き、エドが呻いてよろけた隙に、私は口の周りを手の甲で拭い、さらに首筋まで垂れた涎も拭う。
「学校!人が来たらどうするのよ!」
「別に、見せつければいいだろ。キスしちゃいけないなんて学則ないしな」
「駄目に決まってるでしょ!学校ではキス禁止!絶対に駄目!」
エドはいつものニヤリとした笑みを浮かべる。
「そんな顔で駄目って言われてもな」
「どんな顔よ?!」
「イヤラシイ女の顔?」
私は伸び上がってエドの頭や顔面を叩く。
「もう絶対にしない!二度とすんな、馬鹿ッ!」
「ごめん、悪かった、冗談だから。凄い可愛い、マジ天使」
「阿呆!」
どちらかというと毒舌で強面だったエドが、蕩けるような甘い表情で、しかも可愛いとか天使とか言ってるよ。この間まで人のこと、チビとかチンチクリンとか言っていた人がよ?!
「マジでごめんて。学校ではなるべく我慢するようにするから、な、機嫌なおせよ」
「なるべくじゃなくて、絶対に我慢してください!」
「じゃあさ、学校では我慢するから、今日家行っていいか?ってか、まだあの家にいるんだよな?まさか寮に入ったりしてねぇな?」
「寮には入ってないけど。が……学生の間は節度あるお付き合いがいいと思うよ!」
いきなり、今日の今日とか無理!それにそうだ……。
「選択授業に出てからうちに来たら、帰るの遅くなるでしょ」
「別に、ちょっとくらい遅くなったって、ギャーギャー言われないぞ」
「護衛の人達だって帰るの遅くなるじゃない」
「あいつ等は、一日仕事だから問題ない。朝交代なんだ」
「予習復習しないとだし」
「同じ選択とってんだから、一緒にやりゃいいじゃん。三ヶ月ぶんのノート見せてやるし」
それは正直ありがたい。ありがたいけど……。
「選択終わったら、図書館で一緒に勉強するとか」
「おまえんちがいい」
「なんでそんなにうちに来たがるのよ!」
身の危険しか感じないし!
エドが私の上から手を背中に回し、体を寄せてくる。
「一緒にいたいんだよ。アンネが嫌なら側にいるだけでもいいんだ。本当は婚約者にして、王宮に住んでもらって、一日中一緒にいたいくらいなんだから」
「エド、落ち着いて?よく見て?私だよ。ほら、チンチクリンのアンネだから」
なんか、凄いフィルターがかかって私を見ている気がする。もしくは知らないうちに魅力の魔法でもかけてしまったとか?いや、この世界には魔法が存在しないんだ。この世界にはというか、日本にもなかったけどね。
「チンチクリン……可愛いな」
「そんなかっこうの人に可愛いって言われてもね……。ほら、ボタンかけ間違えてるし、シャツは出てるし。王子様なんだから、身なりはちゃんとしよ」
「アンネが直して」
「はあ?」
しょうがないなと、ボタンをかけ直してあげる。でもね、ズボンの中にシャツは入れられないよ!ベルトを外してズボンのボタンを外すとか、つい最近まで貴族の令嬢だった私には難易度が高いし、第一、シャツを中に入れた時、何を触っちゃうかわかんないからね!
「後は自分でやって」
「ええ?」
「じ・ぶ・ん・で・や・っ・て!」
それでなくてもエドの逞しい素肌が見えて(なるべく見ないように、一個ずつずらしていったけどね)、ドキドキして限界超えてるんだから!
私がプイと後ろを向くと、エドは後ろから抱きついてくる。
「アハハ、アンネ照れてる?マジで可愛いな」
駄目だ、こいつ。頭の中身がお花畑になってる。可愛い連発し過ぎだよ。
私だって、エドのことは恋人になってからニ割増しにかっこ良く見えている気がするよ。一週間ぶりに会えたのは嬉しかったし、会えなかった時はエドのことばっか考えていたかもしれない。本人には絶対に言わないけどね。
でもさ、エドの場合ニ割増しどころか二百%恋愛フィルターかかっちゃってるよね。これが、何かの拍子に真実が見えた時、いきなり素に戻った時が怖過ぎる。
失望されて捨てられるとか……考えただけでも泣きそうだ。
それに、これだけ必死にうちに来たがるとか、こんな貧弱な体で言うのも恥ずかしいんだけど……体が目当てとしか思えないじゃないの!それに、幼児体型フェチってこともあり得るでしょ。
目的を果たしたら、急に関心がなくなるってことも、なきにしもあらずじゃないの?
後ろでゴソゴソとシャツをズボンに入れ終わったエドは、後ろから私の顔を覗き込んできた。
「何をさっきからへんてこな顔をしてるんだ。恋人なら、いつでも一緒にいたいものだろ」
「へんてこ……?!いや、それくらい言ってこそエドよね」
一瞬カチンときたが、すぐに気持ちを立て直す。
「ちょっとベンチで座って話そうよ」
「ベンチ?俺の膝の上ならいいぞ」
「殴っていい?」
「さっきけっこう殴られた気もするけどな。痣んなってねぇか?まぁいいや、俺も冗談じゃなくておまえに話すことがあったんだ」
冗談?!
さっきまでのやり取りが冗談!
私が殺意を覚えたとしても、誰も咎めないと思うよ!
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