第27話 隙あらば……(軽めなR15?)

「……エド」


 エドからはプロポーズ(婚約の申し込みはプロポーズだよね?)もされているし、お互いに好きなことを確認できたから、こういう流れになるのはやぶさかではないんだけれど……。


「ストップ!」


 ベッドに押し倒したまま、次のステップに進もうとしたエドの手をガッシリつかんだ。

 エドは一瞬でムッとした表情になったけれど、無理やり事を進めることもなく、対して力のない私の腕力でも動きが止まる。


「私、学園に入学し直したいし、ちゃんと卒業もしたいの」

「ああ、アンネならできるだろ」

「既成事実ができたら困る」

「既成事実ができない方法もあるだろ」

「完璧な方法はないし、準備もない。……まさか、避妊具を持ち歩いてたりするわけ?!隙あらば的な」

「隙あらばってなんだよ。キスもしたことなかったのに、そんなもん持ち歩くかよ」


 エドは、私の横に寝転がって不機嫌そうに言った。


「とにかく、既成事実ありの婚約とか最悪でしょ。それに、まだ婚約するつもりないし」

「は?」


 だから睨まない!それでなくても目つき悪いんだから。


「おまえ、俺のこと好きっつったろ。スケベなキスもしたし」

「スケ……、その言い方止めて」

「注文多いぞ。婚約もしない相手にキスさせんのかよ、おまえ」

「させないわよ!私だって初めてだって言ったでしょ。婚約はまだ無理だけど……恋人、恋人ならキスするじゃない」

「恋人」


 私は半身起き上がって、エドの鼻を摘んだ。ムカツクくらい、鼻筋が通っていて形が良いな。


「なによ、私と恋人になるのは嫌なの?!」

「恋人……か。おまえ、恋人は一人だよな?他の奴を家に入れたり、キスしたりしないか?」

「はあ?するわけないじゃない」


 エドは、「婚約者じゃないと……」と、何やらブツブツ言っていたが、結局は納得したらしく、寝転がったまま私を上にのせて抱きしめてきた。


「しょうがねぇな。恋人で手を打ってやる。今はな」

「偉そうね」

「王子だからな」


 モゾモゾと這い上がり、エドの唇にチュッとキスをすると、エドは私の顔を押さえて角度を変えて深いキスをしてきた。最初に歯がぶつかるような下手っぴぃなキスをした人間とは思えないくらい、急成長を感じる。


 しばらく抱き合って、キスをして、たまにへらず口を叩き合う。


 幸せだなぁって、素直に思う。


「そういえば、あの阿呆が仕入れてきた新しい情報ってのはなんだ。おまえを追い出すくらい、決定的な証拠だったのか?」


 阿呆?……ミカエルのことか。


 私は苦笑してベッドから起き上がると、エドも起き上がって、二人でベッドの上で向かい合うように座った。

 寝転がって話す話でもないしね。


「ミカエルが連れてきたのは、お母様……ゴールドバーグ伯爵夫人が出産した時に担当した看護婦さん。ダリルとか言ったかな」

「その看護婦がなんだって?」

「ゴールドバーグ伯爵令嬢は、生まれた時は金髪の産毛で、特徴的な黒子があったって。黒子はミカエルが確かにあるって証言したの」

「金髪に黒子?」


 エドは何やら思案しているように眉間に皺を寄せたから、私は手を伸ばしてその皺を撫でた。

 エドは、その手をつかんで指先にキスをすると、私の髪を摘んで日にすかして見た。


 なんだ?いきなり色気づいたんだけど、エドのくせに!恋愛に対するノビシロ半端ないな。


 ドキドキしているのを隠すように、私はなんでもない表情を作る。顔熱いけどね。


「薄くても金髪には見えないな」

「うん、あと黒子もないしね」

「特徴的な黒子ってどんなんだよ」

「三連みたいよ」

「ふーん、どこにあるって」

「お尻」


 エドがニヤリと笑って私ににじり寄った。私もジリジリと下がれるところまで下がる。


「確認してやるよ。あっちも恋人が確認済みなんだろ」

「いや、大丈夫!ないから」

「あるかもしんないじゃん。それとも、誰か他の奴に確認させたのかよ」

「それは私が」


 第三者の声に、エドは後ろ手に私を庇い、声がした方を睨みつける。広い背中に守られて、ホワッと気持ちまで包まれたような多幸感を感じた。

 まぁ、声の主がわかっているからってのもあるけれど。

 というか、いつの間にそんなに時間がたったのか。エドとのことをどこまで聞かれていたのかと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしいんだけど。


「メアリーよ。メアリー、お帰りなさい」

「はい、ただいま戻りました」


 今、帰ってきたばかり?ならばそんなに恥ずかしいことは聞かれてない?


「三十分ちょっと前に」


 それはただいまとは言わない!エドとイチャイチャしてたの絶対に聞こえている!見られてはいないだろうけど。


「なんでこんなにクリアに声が聞こえるんだ?」


 エドの問いに、私はベッドから下りて壁にかけてあったカーテンを開いた。


「ウワッ!なんだよこの穴」

「お嬢様専用、脱出通路です。もしくは、食事の受け渡しに使います」


 思っていたよりも目の前近くにメアリーがいて、メアリーが聞き耳を立てていたことが判明する。


「お嬢様、初彼氏おめでとうございます」

「いや、まぁ、そうなんだけど、彼氏って言い方軽いわね」

「そこで、お嬢様に一つ忠告なんですが」


 淡々と言われると怖いからね。もしかして、王子の恋人としての心構え的なことを言われるのかしら?


「彼氏とイチャイチャする時は、カーテンを閉めることをお勧めします。見せつけたい性癖ならばよろしいのですが」

「そんなわけないでしょう!」


 窓を見ると、確かにカーテンはきれいに纏められて端に寄っている。つまり、メアリーにさっきのアレを見られたのね?!


「なるほど、この箱を踏み台にすれば、素早くそっちの部屋に移動できるのか。しかも、アンネくらい小さくないと通れない幅だな」

「はい。私では通れません。お嬢様か、子供くらいですね、ここを通れるのは」


 恥ずかしさで悶えている私を他所に、メアリーとエドは普通に会話をしている。しかも、箱は勉強机にもなるって、今その説明いるかな?いらないよね?


「私がこんなに恥ずかしいのに、エドには羞恥心はないの?!」


 壁を検分しにきたエドの背中を、私はグリグリと拳で押す。


「好きな女とキスしてなにが悪い!だいたい、結婚式の時だって誓いのキスから始まって、パレードの時や披露宴などで何十回も人前でキスするじゃないか。うちの両親も、朝起きた時から隙あらばチュッチュしてるぞ。皆、いつもの光景だと思ってスルーしてるしな」


 聞きたくなかった。あんなに威厳ある自分の国の王様のラブラブな私生活なんて……。


「キングストーン王は王妃以外の側妃をお持ちじゃないですものね。お嬢様、有名な話ですよ。うちの王族は昔から極端なんですって。絶対に一人しか娶らない一夫一婦を貫くタイプと、浅く広く博愛精神のある一夫多妻なタイプ」

「安心しろ。俺は前者だ。うちで博愛主義者はクリス兄様くらいだな」


 なんかわかる。小説でもクリストファー様は軽いフットワークで誰に対しても愛想が良くて、ヒロインに迫りながらもその軽い感じが最終的にふられた原因みたいなものだったものね。


「あんたが前者なのはいいことだけど、私は誰彼の前でも憚らずにキスしたりはしないからね」

「まぁ……慣れだ」


 絶対に慣れない!!






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