第26話 うち来る?(R15かも?)
エドに睨まれながら、私はモソモソとケバブサンドを口にした。
気まずい、ひたすら気まずい。
連絡取らなかった私が悪かったの?
でも、そうだよね。もし逆の立場でいきなりエドが失踪したら、そりゃ私も心配するし、再会したら顔面殴り飛ばす勢いで怒るかも。
「心配かけてごめんなさい!あの、もし良かったらだけど、私がどんな生活しているか見に来る?王子様を招待するような家じゃないけど、そこそこ快適に暮らしてるんだ」
実際に見れば心配も減るんじゃないかと、家に来ることを提案してみた。もちろん、変な意味合いは一切ない。
「家……」
「いやさ、前にアンさんの家には呼び出されて二人で行ったじゃない?全く同じ間取りだし、面白みがある部屋じゃないんだけど、どんな生活しているかわかれば、少しは安心してもらえるかなって」
エドの眉間の皺が深くなる。
まずったか?そういう問題じゃないってキレられるかな。と思ったら、即答だった。
「あー、行く」
「来る?」
「行く、行く。ほら、早く食えよ」
私は急かされるようにケバブサンドを完食し、エドに手を引かれて家まで戻った。たった一回行っただけだと言うのに、迷わずに家についた記憶力、やはりエドは頭がいいよね。
長屋につくと、私はエドを部屋に招き入れ、とりあえずお茶をいれようと台所に立った。火をおこしてヤカンにお湯を沸かす様子を、エドは椅子に座ってジッと見ている。
狭い家だけどさ、大柄なエドがいるとさらに狭く感じるな。
「お菓子とかはないんだよね」
「ああ、甘いもの苦手だもんな」
まぁ、それもある。でも、お菓子や果物は贅沢品なんだよ。フラワーアレンジメントの収入からも、かなり余裕がある生活はしていると思うけれど、学園に通うようになれば、学費は特待生でかからなくても、教科書代やノートや筆記用具などの雑費にお金がかかるだろうから、できるところは節約して生活しているんだ。
「常備食の干し肉があるけど、食べる?」
「いや、さっきので腹いっぱいだからいい。にしても、お湯沸かしたりできるんだな」
「まぁね。貴族のお嬢様はしないよね。メアリーに習ったから、掃除も洗濯も自分でするよ。食事も作れなくはないけど、毎日メアリーがケントから余り物貰って帰ってくるから、そこは甘えちゃってるけどね」
「おまえ、順応能力高過ぎじゃねぇ?」
あ、いつものニカッとしたエドの笑顔になった。爽やかな笑顔には程遠いけれど、私はこのエドのふてぶてしい感じのする笑顔が好きだ。
お茶をいれてエドの前に置き、私はベッドに腰掛ける。椅子が一つしかないから、しょうがないんだよ。
「エドはさ、アンさんと仲良くなった?」
「いや。あの女、本来の学年は一つ上なんだけど、学力がいまいちだから俺の学年に編入したんだよ。一年から始めろって話だよな。なんでか俺に色々聞いてくるからうざい」
「面倒見てあげないの?」
さっきのアンがベッタリ張り付いた姿を思い出して、なにやら胸がズキンとする。
「俺が?なんで?」
「なんで……かな」
学園に入る前から知り合いだから?小説ではエドがアンに片想いするから?
「アンネ的には、俺があの女と仲良くなった方がいいのか?そんなにお人好しかよ、おまえ」
「いや、お人好し……ではないんだけど」
笑うしかないよね。だって、嫌だっていう権利ないでしょ?一番の友達だとは思っているけど、相手は一応王子様だし……ねぇ?
エドは立ち上がり、私の横に座った。スプリングなんかない固いベッドなんだけれど、なんかベッドが傾いた気がするのは気のせいかな。体がエドの方に傾いた気がする。
「なぁ、俺はいつまで待てばいいんだ?」
「え?」
「保留にされている話は、いつになったら再開されんだってことだよ」
「え?」
エドはイラッとしたように舌打ちをすると、私の後頭部に手を当てて、至近距離で私の目を覗き込んだ。
「おまえ、忘れたとか言ったら、この場で酷い目に合わせるからな」
「ないない、忘れてないよ。でも、あれはあの時の勢いというか、今は気になる相手が他にできちゃったりしてない?」
例えば……アンとか。
「ない!第一、勢いな訳ねぇだろ。一応仮にもキングストーンの名前を背負っているからな」
「でも……」
キングストーンの名前を背負っているなら、それこそ平民を相手にしていい訳がない。
私が視線を泳がせると、エドは逃さないとでも言うように私を真正面から見つめてくる。
「あのな、別にうちの奴らは家名とかにこだわりはねぇよ。まぁ、周りがうるさいから、どっかの養女に入ってって、ワンステップ挟む必要はあるかもだけど、基本実力主義みたいなとこがあるから、おまえくらい優秀なら文句は言われない」
うちの奴らって軽々しく言ってるけど、それって王族ってことだよね。王様とか王妃様とかそういう……。
「その……婚約とかそういうのは、まだ心の準備が……」
今はキングストーン学園の特待生試験に受かることが目標で、他のことは考えられないというか、優秀かどうかはまずは試験に受からないと証明ができない気もする。特待生試験に受かって入学できても、きちんと卒業して、国の中枢に関わるような職について、初めて優秀な娘だねって認められるんじゃないだろうか?
え?私が優秀って認められるのいつ?
「おまえ、気長なこと考えてないか?」
なんか、思考がバレてる?
「いや、まずは特待生試験に受からないとな……くらいだよ」
嘘です。もっと先を考えてました。
「おまえなら受かるだろ」
「何事も絶対はないからね。いや、自信はあるけど」
「じゃあ、受かったら婚約でいいか」
あれ?時間だけの問題なのかな?
「それはまだ心の準備が整わないんじゃないかなぁ」
特待生試験は三日後だし、発表はその一週間後。下手したらいきなり一週間で婚約になるじゃないか。無理無理。
「まさか、学園卒業するまで待てとか言わねぇよな」
エド、だから、君の距離感バグってるよ。近いからね、近過ぎだからね。
もう、視線を彷徨わせる距離もないくらい距離を詰められ、頭を押さえられているから身じろぎもできない。鼻息がかかる距離……。いや、別に私の鼻息は荒くないよ。
「いやぁ、どうだろう?」
まさか、就職して成績を残して、自分に自信ができてから……なんて、エドの恐ろしいくらいに真剣な顔を前にして言えない。確実に激怒しそうだ。
というか、エドって、本当に本当に本当に、私が好きなの?
小説の主人公のアンじゃなくて?
「好きだよ」
ウオッ!やっぱり思考読んでないか?!
私は真っ赤になって、口を金魚のようにパクパクさせる。
だって、返す言葉が出てこないんだもん。
あっち(日本)でもこっち(キングストーン国)でも告白なんかされたのは初だし、エドは口も態度も悪いけど腐っても王子だし、見た目は強面だけどイケメンだし、何よりも一番の親しい異性だ。
好きか嫌いかって聞かれたら……。
「私も好き」
あ……思考がポロッと口から出ちゃった。
エドは、切れ長な目をこれでもかと見開く。そして、私の歯がガツッと鳴った。
「痛ッ!」
「わ……悪い!」
悪いのはどっちの意味よ?!いきなりキス(キスであってるよね?)してきたことか、歯がぶつかって痛い目に合わせたことか。
私がジロリと睨むと、珍しくオタオタしたようなエドが私の唇を押さえる。どうやら、唇が少し切れたようだ。
「しょうがないだろ!初めてだったんだから」
「私だって初めてよ!」
そう、婚約者がいた私だけれど、キスは未経験だ。もちろん、キス以上も未経験だけどね。アンネローズの記憶を探っても、ミカエルとキスした記憶はない。……心底良かった。
「マジで?!」
満面の笑顔になったエドは、よほど嬉しかったのか、なぜか再度キスしてきた、今度はソフトにチュッという感じだ。
「仕切り直しの今が初めてってことで」
「いや、意味分からないから。初めてのキスが血の味ってこと?」
「悪かったよ。ちょっと目測を誤った」
私の切れた唇を、エドはペロリと舐めた。
「ウギャッ!」
「色気ねぇな……」
私は真っ赤になって、エドを睨んで見上げる。
「色気がなくて悪かったわね!」
「そんなアンネも好きだ」
啄むようにまたキスをされ、私は観念する。だって、嫌じゃないんだもん。
私がエドの腰に手を回すと、エドは頭を押さえていた手を私の背中に回して強く抱きしめ、しっかりと唇を合わせてきた。
エドの体温は落ち着くし、エドとのキスも好きだ。調子に乗ってエドの唇をチュッと吸うと、エドの舌がヌルッと口腔内に入ってきた。
キスも初めてなんだから、ディープなキスも初めてだ。どうすれば正解かわからず、ただその舌を舌で迎え入れた。
「ンッ……ウッ」
湿った音が部屋に響き、淫らなことをしているような気持ちになるが、エドから与えられる快感を拒むことはできない。
「アンネ……」
いつの間にかベッドに押し倒され、エドが今まで見たことがないような甘やかな笑みで私を見下ろしていた。
え?
もしかして、初キスからいきなり初Hにいっちゃう流れ?!
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