第4話(最終話)

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「財前議員、そろそろ着替えた方がよろしいのでは?」と言いながら、秘書がそれとなく僕のことを起こそうとしてくれた。どうも、湯殿で夢を見ていたようだ。


 夕方から県民文化会館で政治討論会「財政赤字と日本の将来~若手有力議員来たる~」のパネラーを務めることになっているのだが、

 昔、父親の転勤でしばらく松山に住んでいたことがあり、議員活動で何かと多忙とはいえ、せっかくなので、その当時に良く連れて行ってもらった道後で束の間でも寛ごうと、1本早い便で羽田を出て、空港から温泉本館に直行して、神の湯で風呂のへりを枕に寝そべっていたら、うとうとしてしまったみたいだ。


 松山に住んでた当時、ある日突然、大きな荷物を両手一杯に持って現れ、「ちょっと訳ありで、しばらく世話になるぜ」と言って、一緒に暮らしていたお祖父さんとお祖母さんが、久しぶりに夢の中に出てきた。

 夢の中身はよく覚えていないのだけど、どんな話だったかな?


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 小首をかしげながら浴場から出た議員の横顔は、根っからの善意に依るものとはいえ、夫婦の老後の生活が経済的に立ち行かなくなった原因を作ったとして、親戚内で「反面教師」扱いされている祖父にそっくりだった。

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「お助けレッド」と呼ばれる男 一粒 野麦 @Hitotubunomugi

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