第3話
「おっと、あろうことか今日は話を返してきやがった」と思いながら、ややむっとして赤治が答え、夫婦の言い合いが始まった。
「間違って貰っちゃ困る。借金ていうけど、一時的に転用させてもらっているだけじゃねえか。たまたま今は、全額返せないだけで、ちゃんと返し続けてるのは知ってるだろう?」
「この間、20万円を外で使って、そのうち8万円だけ返して、新たに30万円持って出ていくのを…借金がどんどん増えているのを…返しているって言うのかしら?」
「必ず返そうという気持ちでいるんだから、文句言われる筋合いはないんじゃねえか?」
「全額を返せなくても、巷のお役に立つために施しとかをしたいんだったら、自分の支出の中で切り捨てて良さそうなものや、優先順位を考えれば我慢できそうなものを、先ずは見直したらどうですか?」
「無駄遣いなんか、してねえじゃねえか。」
「そんなこと言っても、ちょっと具合が悪くなったらすぐにお医者さんに行くし、飲み切らない沢山のお薬を処方して貰ったり…。」
「こんな景気なんだから、医者だって少しは患者が来ねえとやっていけねえ。薬だって、多めに貰って、治りきるようにしねえと。」
「うちの庭に池とか小径とかを作ってもらったりしてるけど、本当に必要なんですか?」
「風流で庭をいじるのは太古の昔っからみんなやってることだし、業者だってそれで潤うんだから、世のためにもなるってこと。」
「ただの習慣としか思えない煙草やパチンコは止めるか減らしてもいいんじゃないかしら?お酒だって飲み過ぎじゃないの?」
「それとカンパとは別腹。煙草もパチンコも若い頃からの気分転換で、巡り巡って家庭円満にもつながっている訳で…、俺の人生から切り離せない。それに、お酒って言うけど、お前だって一緒に飲んでるじゃねえか。」
為子は赤治と話していて、お互いの考えがかみ合わないことを痛感して、台所に戻って夕食の片づけに専念することにした。
なんやかやと理屈をつけては、これまでの自分の出費は続けながら、外に対しての散財を辞める気は毛頭ないことに呆れた。
結局のところ、夫にとって、うちの金庫は「打ち出の小槌」であり、自分自身の稼ぎがどれほどかとは関係なく使えるお金なので、自分の身の丈に合った出費に抑える気にならないことが信じられなかった。
人に聞かれたら「自分の稼ぎを超えた施しだとしても、我が家の金庫の中のお金なんで、一家の財布の範囲は超えねえから、大丈夫」と夫は言うが、バネが伸びきった状態…正確にはヒビが入っている状態?…を常に続けていて、老後は本当に大丈夫なのかしら?
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