第2話

 とはいえ、女房が久々にこの話題を切り出してきたからには黙ってちゃいけねえ。

「生きた銭の使い方が大事だと思って、ちょっと物入りの奴らにカンパしてやった。すぐに返すから気にすんな!」


 やっぱり、夫だったんだ…正直、それしかないと思っていたけど…。

 私の名前は、財前為子。

 朝から晩までパートしたり内職したり安い給金で働き続けて、空いた時間に、そのへそくりで株式投資もしたりして、自分でいうのもなんだけど、稼ぎの少ない夫には家計を任せておけないので、裏で一家を支えている。


 そんな甲斐もあって、子供たちを社会人として独立させることができたことと、仕事で旧姓…渡部…を使っているので、周りからは「ミセスワタナベ」と気遣って呼んでもらっていることが、せめてもの慰め。


 それにしても、老後になっても何とか生活できるようにと毎日毎日頑張っているのに、うちの夫は見栄を張り、男気を売り物にして、「お助けレッド」と煽てられて…陰では「お調子レッド」と呼ばれているとも知らず…外で散財ばかりする。


 以前はそのことについて色々言ったけど、一向に止める気がないと分かったので、家庭の雰囲気を壊さないように近頃は言わないようにしていた。


 でも、ここのところの使いっぷりを見ると、歯止めがなくなっている気がする。

 私の我慢もそろそろ限界かも。

 この勢いで夫が使っていって、夜逃げでもせざるを得なくなったら、どうしよう?


 結婚してしばらくはこんなではなかった。夫も自分の身の丈に合った行動をしていた。でも、世の中が不景気になって、賃金が上がらないままずーっと過ごしているうちに、何か開き直ったように、自分の稼ぎを超えて外で使ってしまうようになった。

 巷の人を助けるのがいけないという気は毛頭ないけど、夫婦間のこととはいえ、妻の貯えを当てにして、人助けをして悦に入っているのは、ええかっこしいにもほどがある。

 今のところ、家計は回ってるけど、こうした散財のツケが、いつか突如として襲い掛かってくるようで怖い。


 今日はいい機会だわ。

「以前の金庫からの借金を返し終わってないのに、また新しく人様に施したんですか?」

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