「お助けレッド」と呼ばれる男

一粒 野麦

第1話

 愛媛は道後温泉で、うとうとしながら、夢を見ている男が居た。どうも、彼のおじいさんとおばあさんが夢に出てきているらしい。

・・・・・・・・・・


「あれ、金庫のお金が、また減ってるようですけど…」


 おっと、女房に気づかれないように、ほんのちょっぴり取り出すつもりだったが、いざという時に足りないとみっともねえと思って、気持ち多めにしたんで、ばれちまったかな?


 俺の名前は、財前赤治。

 巷の人が物入りとかで困っていると、そのまま放ってはおけない性分で、周りからは「お助けレッド」と呼ばれている。


 今回の物入りは、先日、近所の大地主(R)が、その隣りに住んでる遠い親戚でもある(U)の敷地内に突如乱入し、「ここは、本当は自分の土地だ!」と言い放って、実力行使で不法に占拠したことに端を発している。


 なんでもその付近はR家にとって、先祖発祥の土地だったのに、戦後の農地改革の際に、小作人でもあった遠縁のU家に仕方なく譲り渡すことになったものらしい。

 にもかかわらず、U家が、都会から進出してきた大手チェーンからの誘いに、自分たちに何の相談もなく乗る動きをし、農地としては使い物にならなくなる土地利用をしようとしていることに我慢が出来なくなって、強硬手段に出たようだ。


 それにつけても、その経緯はどうあれ、このご時世で実力行使に打って出るなど許されるものではないと俺は考え、こんな無茶な行動を見逃したら、今後、近所で何が起こるか分からなくなるという思いと、「お助けレッド」の名が廃るってな感じで、 

 その地区でU家を助けようと頑張ってるグループ…納豆屋のNが親分なので「なっとうグループ」と呼ばれている…のところに行き、関係者を激励すると共に、


 長期戦になりつつあって何かと物入りが続いてるらしいんで、俺は女房が管理しているうちの金庫から持ってきた札束を、余さずポンとそっくりそのままカンパした。


 それを、女房が気づいてしまったようだ。


 女房からは以前、「あんたが巷で困っている人を助けに行っちゃいけないとは言わないわ。でも、自分の稼ぎに見合った範囲でしてね。」と言われてたんで、ずっと自重していたが、ここんとこ何も言わなくなったんで、あまり気にする必要はなくなったと思ってたが…。


 正直なところ、俺の稼ぎは戦時中の「欲しがりません勝つまでは」と変わるところがなく、「働けど働けど猶我が生活楽にならず」…おっと、教養が出ちまった(笑)…で、バブル崩壊とか言われる中、銀行やら証券やらの破綻のニュースが流れてくるほどの不景気が続いているからか、賃金は一向に上がらねえ。 


 五十を超えたのに、夫婦の暮らしで手一杯だ…ていうか、正直言うと、足りてねえ(涙) だから、巷の物入りを助けるときは、女房の貯めた金を一時的に転用することになる。


 悔しいが、女房にその全額をポンとそっくり返す余裕はなく、常に借りっぱなしで、しかもその金額は雪だるま式に増えちゃいるけど、それが夫婦というもんで、ケチを付けられる所以はねえと思うんだが、違うかい?

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