926 証明トリック

 風呂上がりに、裸のままで崇秀との話に夢中になる眞子。

されど、話が一旦終結した頃には、何故か眞子はパジャマに着替え終わっていた。

確かにヘアーセットをしながら、上のパジャマを眞子に着せてくれてたのは崇秀なのだが……


果たして、このトリックは、どうやったのか?


***


「余計な気遣いだ、ボケ。……つぅか、ハイ、完成な」

「えっ?あり?」

「なにが『えっ?あり?』だ、ボケ女?オマエの着替えが終わったつってんだよ」

「いや、あの、だって、これ、おかしいって。私、椅子から一回も立ってないよ」

「アホ。もし本気でそう思ってるなら、ソイツは、女の無意識の行動って奴だ」

「えっ?なにそれ?」

「どうやら話に夢中になって、本当に気付いてなかったみたいだな」


うん。

全然気付いてなかったね。


どういう原理?



「そうだね。知らぬ間に、こんな事に成ってましたね。それにですね。『女の無意識の行動』って、なんですかね?意味が解りません」

「あぁっそ。そりゃあ、強烈な鈍感だな」

「あぁ、確かにそうですね。でも、体は敏感な方ですけど」

「うん。聞いてないからな。……つぅかまぁ、俺はなぁ。実は、オマエに悟られない様に、下着や、パジャマのズボンをオマエに渡していたんだよ。それをオマエは無意識の内に、自分から履いて置いて、俺が履かせたと錯覚しただけに過ぎねぇの」


はい?


そんな馬鹿な。



「えっ?嘘?じゃあ、これって、私が自分で着替えたって言うの?しかも、それに気付いてなかったって言う事?」

「あぁそうだな。……良いか、眞子?女にはな。さっき言ったも通り『女の無意識下での行動』ってのが有ってな。その根底にあるのが、男以上に羞恥心が働くってもんなんだよ」

「あぁはい。確かに、それはありますね。裸のままで恥ずかしがらないと言うのは、女子的には有り得ませんもんね」

「だろ。だからこそ。話に集中しながらでも、自然にそう言う行為に移っちまう習性があんだよ」

「う~~~~ん。言ってる事は解るけど。それは流石に無理がない」


でも、それがホントだったら、結構、怖い話だよね。


自分で履いてて気付かないなんて、相当だもんね。



「いやいや。世の中に不思議な事なんて早々ねぇんだよ。全ての不思議って言うのには、どこか人為的に作られてるもんなんだよ。だから、今みたいな驚きを齎すのにも必ずカラクリがある。こう言う事をする時に、一番必要なのはタイミングだけだからな」

「タイミング?なんのタイミング?」

「相手の視線の誘導と、話をするタイミング。これさえ掴めば、簡単に人を驚かせる事は出来るんだよな」

「どうやったら、そんな事が出来るの?」

「じゃあ、オマエがパンツを履いたタイミングから教えてやるよ」

「あぁ、うん」


いやいや、本当に、どうやったんだね?


それにだね。

本当に私は、自分の意思でパジャマを着たの?



「じゃあ。説明に入るけど。まずその為にも、風呂を上がってきてからのおさらいだ」

「あぁ、うん」

「っと、その前に服着るわ。ちょっと寒ぃ」


ガクッ……



「あぁ、そうだね。崇秀が風邪引いちゃあ大変だもんね。着て着て。待ってるから」

「まぁ、待って貰う必要はねぇから、着ながら話すが。オマエが風呂から上がって来た時の状態を、俺、オマエの姿を鏡に写したよな。あの時は、どんな格好だった?」

「えぇっと。風呂上りはですね。真っ裸ちゃんで、お恥ずかしい限りの有様でございましたね」

「だったよな。確かにオマエは生まれたままの姿だった。……だがな。オマエが椅子に座った時点で、下着は、もぉ既に付けてたんだよ」

「えっ?嘘?だって、椅子の感触が、そのままお尻に伝わって来たよ」

「そりゃあそうだ。下着を着けてたと言ってもだ。まだその時点じゃ、膝の位置に下着をセットして置いたに過ぎないからな。要するに、完全に履いた状態ではなかった訳だ」

「あぁ、そうなんだ。あぁでも、言われてみると、そんな気がしないでもないね」

「だろ。けど、あの時のオマエは、そんな余裕が有る心理状態じゃなかったから。裸を見られるよりも、自分にとって大事な話に夢中になっていただろ」


確かにね。

私にとっては、何をさし置いてでも一番大切な話をしてる途中だったからね。


裸で居る事なんて、別にどうでも良かった。

恥ずかしい以前に、崇秀が、私の事をどう思ってるのかが不安で堪らなかったからね。



「うん。そうだね」

「っでだ。下着を膝に付けたまま、話が一旦終結。その後、椅子に座らされたオマエは、一種の安堵感を得ていた。……違うか?」

「うんうん、確かに、その通りですね。けど、それじゃあ、スッポンポンの上に、精神まで丸裸ですね。心身共に裸族ですね」

「……っでだ」


ちょっと……そこは、折角、ボケたんだから最低限喰い付いてね。


そう言うの、ボケ担当としては、死ぬ程、寂しいから。


ボケ殺しはヤメテ。



「あぁはい」

「その後、オマエは、余裕と共に、裸で居る筈なのに、この空間が暖かい事に気が付いた。その時点で、オマエの視線は、足元に有る暖房機に目が行く訳なんだが。そこには、暖房機と共に、パジャマの下が置いてあった訳だ。此処で序に、膝の下着にも気付く」

「待って、待って。部屋が暖かくなって来てたから暖房には気付いたけど、それ以外の物には全然気付いてなかったんだけど」

「そうだな。視線に入っては居たんだがな。そこまで気には留めてなかった。それが無意識たる所以だよ」

「どういう事?」

「簡単じゃねぇか。余裕が出来たとは言え。まだ、その時点では、話に夢中だったから、そこまで意識は行っていなかったって事だよ」

「じゃあさぁ。なんで下着を履いたの?」

「そこが、この話の味噌な部分だ。オマエにそうやって、無意識下の行動に移らせたのは、俺の放った『世界一痛い女』って言葉だからな」


はい?



「それがなに?結構、それって自覚してるけど」

「アホ。自覚してるとしてもだ。オマエが女である以上、俺に、そんな姿は見せたくない。特にだ。髪型を綺麗にセットされて行ってるのに、丸裸って、普通は変じゃねぇか」

「あぁそっか。確かに自分でセットしてるなら別だけど、人にセットして貰ってるなら、認識上では変では有るね」

「そういうこったな。……っで更にだ。一旦、目に入った、膝の位置にある下着。付け加えて足元にあるパジャマ。それらはオマエの無意識下で、オマエの変だと思う気持ちを解消してくれる道具だ。特に下着は、膝までと言う、なんとも中途半端な位置にあるから、余計に違和感を感じる訳だな」

「はぁ、そうだね。下半身剥き出しでズレたパンツなんて嫌だもんね。それに中途半端な下着の位置も気持ち悪いもんね」


……っで、知らず知らずの内に履いちゃったんだ。

話をしながら、視線を崇秀に向けたまま、コソッとバレない様に下着も下のパジャマも履いちゃったんだ。


はぁ~~~、それにしても、そんな不思議な事って有るもんなんだね。



「まぁ、簡単に言えば、そういうこったな。因みにだが、それが男と女の違いって奴でな。男ってのは、風呂上りだろうとなんだろうと。結構、フリチンで居ても大してなんとも思わねぇがな。年頃の女ってのは、自分を綺麗に見せたいと言う願望が高い。そこの心理を上手く使えば、この無意識トリックは簡単に成立するって話だな」

「はぁ~~~、凄いね」

「いやいや、そうじゃねぇ。……これはな。まぁ言うなれば。この行動起した事自体が、今のオマエが女でしかない証拠だって話だ。男なら無意識でも、そんなには気にしないからな。……だと思わねぇか?」


あっ……


そう言う事かぁ……そう言う事だったんだ。

なんで、こんなおかしな事を『真面目に語ってるのかなぁ?』って、かなり不思議には思ってたんだけど、そう言う理由があっての行動だったんだ。


私は、なにも心配しなくても『女でしかなかった』って言う事を証明したかったんだね。


……っで、崇秀も、それを見たら。

もっと『私が女でしかない』っと納得出来るし。

私も、そんな崇秀を見たら不安要素が一気に解消される。


一挙両得って事かぁ。


凄い発想だね。



……にしても、またやられたよぉ。


ホント私って、何処までも単純な女なんだね。

しかも、そんな風に骨の髄まで女性を意識してたなんて……自分でも驚きだよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

 最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


また嵌められましたね(笑)


まぁまぁ、元々眞子は単純な生き物ですし。

特に崇秀の前では無防備に成ってしまう面があるので、このトリックも成立したんでしょうが……相も変わらず間抜けですね(笑)


……とは言いましても。

今回のこのトリックのお陰で眞子自身は、骨の髄まで女性である事を自覚出来たのですから、これはこれで良かったのかもしれませんね。

倉津君が復活した以上、いつまでも此処に蟠ってても、もぉどうやっても現状が変えれる訳でもありませんし、なにより余計なストレスが溜まるでしたからね。


さてさて、そんな風に今の眞子が女性でしかない事が証明された訳なのですが。

そんな眞子は、この後、崇秀と2人の時間をどう過ごそうと考えているのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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