912 それは魂の共振だな(大嘘)

 倉津君にとって都合の良い記憶を植え付けた崇秀。

それを聞いた倉津君は、ある程度納得しているものの、どうしても最後まで気になる事が……


それ故に、眞子の存在を認める前に、そこだけを確認しようとするのだが。


***


「あのよぉ。それを答える前に1つだけ聞いて良いか、崇秀?」

「なんだよ?今日は、眞子にとって大事な日だから、面倒無しに簡潔に答えてやるよ。なんだ?」

「あのよぉ崇秀、俺の記憶の中によぉ、なんか俺自身が眞子だったって言う妙な記憶があるんだがよぉ。これ、なんなんだよ?オマエ、なんか解るか?」


これなんだよな。

今までの話は……まぁ、なんとなく理解出来なくはないんだがな。

それが納得出来ても、此処だけは最後の最後まで、なんか引っ掛かるんだよなぁ。


俺が、この体の主な筈なのにだな。

なんか、この奇妙な記憶だけが残留してるんだよな。


しかもだな、今、崇秀の話とは全くの別物の話で『俺が性転換した』って話で存在してやがる。


今の現状を見ても、明らかにこれは絶対に有り得ない状況なんだが、この記憶には色々と厄介な記憶が残ってる。

だから、そこだけは、眞子への解答を出す前に綺麗サッパリ解決して置きたい。


後腐れになりそうだしよ。



「ほぉ、そう言う記憶が有る訳な。けど、それに関しては、至って単純な話だぞ」

「なんだよ?じゃあ、なんでそんな奇妙な記憶が、俺の中には有るんだ?」

「そいつは恐らく、精神の共感って奴だな」


はっ、はい?


なんッスかね、それは?

それって言うのは、なにかの漫画やラノベに出て来る様な必殺技の名前の事かい?



「精神の共感?……なんだそりゃあ?」

「まぁ、平たく言うなればだな。オマエと、眞子の関係って言うのは、元が1つの魂から、2つの魂に分かれた様な状態な訳だ。それは離れていても、元々が同じものだから、昏睡したオマエには、眞子が、普通に生活を送ってるビジョンが湧く可能性があるんだよ。……これは、自分にソックリな人間や、双子なんかに良くある現象なんだが。これ自体は、それに良く似た事例だから、そう言う事が起こったとしても特に問題は無い。その程度の話だな」

「そうなのか?けどよぉ。じゃあ、なんで途中から記憶が無くなるんだ?」

「まぁ、正確な話までは、俺自身も、オマエじゃねぇから断言は出来ねぇけど。オマエが、なにかの拍子に、眞子を、明らかに自分とは別人格だと認識したからじゃねぇか」

「はぁ?たった、それだけの事で見なくなるものなのか?」

「あぁ、多分な。……っで、オマエって、何所までその記憶が有る訳?」


なんか言い難いなぁ。

これって言わば、眞子の私生活を、俺がコソッと『覗き見』してた様なもんだからなぁ。

その記憶の中には、当然、風呂とか、排泄行為とかも含まれてる訳だから、あんまり馬鹿正直に口に出して言って良い物でもないと思う訳だ。


困ったのぉ。



「あぁ、いや、まぁ、その、なんて言うか」

「ふむ。その様子じゃあ、眞子が、幾ら自分の一部だった存在とは言え、相手は女。流石に言い難いって感じか?」

「まぁなぁ。ちょっと言い難いよな」

「そうか。なら、眞子。オマエ、自分の体を得てから、なんか今日までの間に妙な違和感を感じた事はなかったか?」

「違和感?……えぇっと、そうだなぁ。……あぁそう言えば、体を得た初日から1月の初旬……そぅそぅ、崇秀に連れて行って貰った病院に行った時ぐらいまでは、常に誰かが一緒に居た様な気がしてたね」

「ほぉ」

「けど、体を持たなかった私からしたら、最初は、それが普通の人の感覚だと思ってたんだけど。なんかあの日を境に、その感覚が消えたから『あれは、なんだったんだろう?』って感じで、よく憶えてたのよ」

「なるほどな。じゃあ、なんでオマエから、その違和感が消えたと思うよ」

「うぅんっと。……それは……その……なんて言いますか。崇秀を1人の男性として意識し始めたからかな」


なに?

話は理に適ってるかもしれないんだが、その話は、俺にとっちゃあ、なんか妙に嫌過ぎる話だなぁ……


眞子の奴、平然とした顔で崇秀を意識したって言ってたけど、あの後、一体なにが有ったんだよ?


……ってかよぉ。

じゃあなにか?

この眞子の話が本当だったとすれば。

あの女物の下着を付けたりするのに、風呂場で四苦八苦してた俺ってなんだったんだろうな?



「なぁ、眞子」

「なに?」

「ちょっと変な事を聞くけどよぉ。オマエさぁ、女物の服を着るのになんの抵抗も無かったか?」

「えっ?なんで?幾ら私が、真琴ちゃんの体の1部だったからって言っても、女性としての体がある以上、普通に服ぐらい何の抵抗もなく着るよ」

「そっか。まぁ、そうだわなぁ」

「……そっ、そりゃあね。最初は体を持ってなかったから、初めて服を着た時はドキドキと緊張したけど。それ以降は、なんとも思ってないよ」


うぅ~~ん?

まぁ、眞子の言ってる事は、まさに正論なんだが。

だとしたら、あの記憶は、本当になんだったんだろうな?


……それによぉ、病院で記憶を取り出すなんて話もあったよなぁ。

その記憶が俺にも宿ってるって事は……俺が、女だったって事になるんじゃねぇのか?



「なぁ、崇秀。俺のこの体ってよぉ。本当に倉津真琴の本体なのか?」

「はぁ?なんだそりゃあ?その体は、間違いなくオマエの体だ。それだけは100%間違いねぇよ」

「でもよぉ。さっき眞子がクローンって言ってたけどよぉ。それって、なんの確証があるって言うんだよ?俺、自分の記憶を抜かれた記憶とかもあるんだがな?」

「はぁ?おかしな事を言う奴だな」

「なんでだよ?」

「いや、大体にして俺は、オマエの記憶を抜いた記憶なんぞ無いぞ。オマエさぁ、なんか、間違った記憶を持ってないか?」

「いやいや、100%病院で抜いたって。だってよぉ。俺、オマエと一緒に病院に行ったじゃん」

「んあ?いやまぁ確かに、眞子とは病院に行ったが。オマエと病院に行った記憶なんぞないぞ」


あれ?



「いやいやいやいや、女に成った俺と行ったって!!」

「オイオイ、あんまりおかしな事を言うなよ。俺と、眞子が病院に行った時って、オマエ、アメリカで昏睡してたんだぞ。それを、どうやったら俺と病院になんか行けるんだよ?」


あれぇ~~~~?

あの時オマエ、俺の事を、妙に優しく眞子扱いしたじゃんよ。

そんで俺も、丸っきり女扱いされて、スゲェ動揺してた気がするんだけどなぁ?



「いやいや、違うって。オマエ、俺の事、眞子扱いしてたじゃん」

「ふむ。……どうやら、酷い『記憶の混濁』を起してるみたいだな」

「いやいや、ホント、記憶の混濁なんてしてねぇって。明確に覚えてるもんよ」

「オイオイ、じゃあなにか?仮にオマエが眞子だったとしてだな。たった1年でオマエは、今の眞子みたいな成長が出来るって言うのか?コイツの成長スピードは尋常じゃないぞ」


あぁ……確かに、俺じゃあ無理かもしんねぇけどよぉ。

なんか女に成ってから色々勉強させられて、スゲェ勢いで成長してた様にも思えるんだがなぁ。


これも気のせいなのか?



「まぁそうだけどよぉ。それにしても、記憶が鮮明過ぎるぞ」

「ふむ。なるほどなぁ。そりゃあまた中々面白い兆候が出たもんだな。……因みにだがな、倉津。眞子は、体を得た初日から、女故に女言葉でしか一切喋らなかったんだが、その辺の記憶は、どうだ?」

「あぁいや、その辺に関してはだな。奈緒さんに命令されてな。出来るだけ女言葉しか使わなかったんだが。奈緒さんと、オマエの前だけでは男言葉で喋ってたな」

「そっか。じゃあそれは、明らかな記憶の混濁だな」

「なんでだよ?」

「なんで?って、眞子は1度たりとも、俺に向って男言葉なんか使った事が無いからな。それが良い証拠なんじゃねぇか?」

「へっ?そっ、そうなのか?」

「あぁ、恐らく、オマエのその記憶ってのは、さっきも言ったけど眞子を擬似体験をしていた感覚なんじゃねぇのか?オマエが女に成ったら、そうしただろうしな」


おぉ……そう言う事か。

眞子の疑似体験をしながらも、自分の意志がそこに少しは残っていたから、こんなおかしな記憶が残ってしまったって事かぁ。


なんか女に成った事を力説してただけに、こう言う結果だと糞恥ずかしい話だな。


余計な事を言うんじゃなかったよ。



「そっかぁ……」

「まぁ、それでも気になるんなら、向井さんに、その辺の詳しい事情を聞きゃあ良いんじゃねぇか?それなら確実だろ」

「あぁ、まぁ、そうだな」

「……因みにだが、倉津、もう1つだけ聞いて良いか?」

「おぉなんだよ?」

「今のオマエの態度を見てて、少し不安になったんだがな。ひょっとしてオマエさぁ、自分が眞子の事を、向井さんの家に連れて来たとか思ってないよな?」

「いや、確かに、連れて行った記憶はねぇんだけどな。眞子本人が、俺に連れて行かれたって言ってたぞ」


此処に関しては、まったくそんな記憶は無いんだが、眞子本人がそう言ってるんだから、さっきまでの俺は、それが真実だと自分に言い聞かせてたんだけどな。


正直言っちまえば、そんな記憶は一切ない。


……ってか、それもなんか問題があるんか?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


此処で漸く、倉津君が持っていた『女性化したかもしれない』っと言う記憶も晴れましたね♪


しかしまぁ、崇秀。

よくも、あんな嘘八百を真顔で言えたもんですよね。


まぁ此処に関しては、崇秀だったから出来た事なのかもしれませんが。

そこには、倉津君の崇秀に対する絶大な信頼があればこそ成立した話。

それが無ければ、もっと崇秀も説明に苦労したかもしれませんしね。


まぁ、最終的には、誰もが、崇秀に言いくるめられるんでしょうがね(笑)


さてさて、こうやって、また1つ倉津君が持つ疑念が晴れた訳なのですが。

そこに敢えて崇秀は、まだ倉津君が持ってるであろう疑念を提示してきましたね。


なので次回は、その問題定義と解決方法を書いて行きたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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